前回記事 【1話 その1】けものフレンズから考察する、魅力的なストーリーの作り方
※本シリーズでは、主に下記の観点からストーリーを読み解きます。
- アニメーションを構成する3つの要素:映像・セリフ・音(BGM・SE)
- ストーリーを構成する3つの要素:作者の演出・キャラクターの演技・世界観
これらが「効果的に組み合わされているか」によって作品の魅力は変わります。
【第1話Aパート サーバルとかばんちゃんの初会話】
「狩りごっこ」が終了し、主要登場人物であるサーバルとかばんちゃんが初めて会話するシーンです。かばんちゃんには過去の記憶がなく(のちに、まだ生まれたばかりであったことが判明する)、周囲のことが何もわからない状態です。そのため、会話の内容はほぼ「世界観」に関するものになります。このように、世界観に無知なキャラクターと、詳しいキャラクターの掛け合いで読者に作品の世界観を紹介するという演出は、さまざまな作品で使われる定番の導入です。
かばんちゃんのセリフに隠された意味
では、そうした定番のシーンで、けものフレンズの魅力的な部分を考えてみましょう。かばんちゃんは、よく状況がわからないうちに突然追いかけられてしまったため、当初サーバルのことを少し警戒しています。落ち着いてサーバルの見た目を観察すると、自分にはない耳と尻尾があることに気が付きます。ここで、
サーバル「あっ、ちょっと元気になった?」
かばんちゃん「いえ、はい。大丈夫です」
というセリフがあります。このセリフ、よく考えると少し意味がわかりにくい部分があります。かばんちゃんは「いえ」といった直後に「はい、大丈夫です」と言っており、「最初に否定して、次に肯定したのは何なのか」という疑問が生まれます。
おそらく、「突然思いもしないことを言われたので、戸惑ってしまった。その後は冷静になったので、大丈夫だと答えた」というのが自然な解釈でしょう。戸惑ってしまった理由は、サーバルの耳を見ていたからです。つまりこの瞬間、かばんちゃんの心の中で「未知の世界に対する恐怖心」を「好奇心」が上回ったということがわかる演出になっています。
「キャラクターの成長を描く」物語のストーリーライン
かばんちゃんというキャラクターは、「食べないでくださーい!」というセリフにも代表されるように、未知のことに対して最初は「恐怖心」が先立つという描かれ方をしています。しかし、同時に「好奇心」が旺盛なキャラクターとしても描かれています。今後のストーリーの中でも、かばんちゃんは未知の事態に次々と遭遇していきますが、そのたびに「好奇心が恐怖心を上回った瞬間、素晴らしいアイデアを思いつく」という形でアクシデントを乗り越えていきます。そして、回が進むごとに恐怖心にたじろぐ場面は少なくなり、最初から前向きに問題を解決しようとする姿勢が強く描かれていきます。こういった描き方は、見る人には「キャラクターの成長」として映ることでしょう。
このように、本作の主役であるかばんちゃんの内面は「好奇心-恐怖心=問題解決」という公式で成り立っています。となれば、あとはかばんちゃんの前に「問題」となるさまざまな困難やトラブルを提示していけば、ストーリーは成立するということになります。
そして、徐々に「好奇心」という変数の比重を増やし、「恐怖心」を減らしていくことによって、「キャラクターの成長」を表現することができるのです。このようにすれば、基本的なストーリーラインが決まるばかりでなく、その中でキャラクターの内面変化を表現することもできます。この構造が、けものフレンズという作品をとても魅力的なものにしている根本的な理由と言ってもいいでしょう。