けものフレンズ1話感想その9:「ジャパリパークの掟」から感じる不穏の陰

諸注意

前回記事 【1話 その8】アニメ感想「けものフレンズの謎」:カバとの遭遇まで、ほかのキャラが登場しなかった理由

【Bパート カバとの会話 後編】

(ゲートに向かうというサーバルに対して、大きなセルリアンがいるから気をつけるように伝えるカバ)

サーバル:大丈夫だよ!さっきもやっつけたもん!

カバ:どうせ小さいやつですわ。

サーバル:な、なんで分かったの?

(カバから得意なことを尋ねられるも、かばんちゃんは答えられない)

カバ:あなた何にもできないのねぇ。

かばんちゃん:ううぅ・・・。

サーバル:そんなことないよ!

カバ:うふ、まあサーバルみたく、足も速いし鼻も耳もいいのに、おっちょこちょいで全部台無しになってる子もいることですし、気にすることないですわ。

サーバル:ひどいよー。

3人の会話から、サーバルはかなりカバから軽く見られていることがわかります。ただ、カバは単純にサーバルを馬鹿にしているわけではありません。この後の会話や再登場シーンでの言動などから、「おっちょこちょい」な性格のサーバルと、まだ得意なことが見つかってないないかばんちゃんを心配しているだけだとわかります。

カバ:ただ、ジャパリパークの掟は、「自分の力で生きること」。自分の身は自分で守るんですのよ。サーバル任せじゃダメよ。

かばんちゃん:はい。

もうひとつ、重要なセリフとして、カバの口から「ジャパリパークの掟」が語られます。ただしこの掟、今後ほかのキャラクターの口から語られることもなければ、特に物語上それが重要であるというような描写もありません。ではなぜ、ここであえてこのセリフを、カバの口からかばんちゃんに向けて言わせる必要があったのか?という疑問は残ります。

「ジャパリパークの掟」は作品のメインテーマではない

今後のストーリーの中では、セルリアンを始めさまざまな脅威がかばんちゃんやほかのフレンズを襲います。しかし、「自分の身は自分で守る」という部分が特に強調された描写はありません。ほかのフレンズと協力して危機を乗り越えるなど、どちらかと言うと「周囲との助け合い」の方に目が行く描き方がされています。

また、ほかのフレンズにしても、カバのように「自分の身は自分で守る」というようなストイックさを持っているキャラクターばかりではなく「動物であったころに近い生き方をする」フレンズもいれば、「人間社会のように、パークの中で何らかの役割をこなす」といった生き方をしているフレンズもいることが後に判明します。

かばんちゃんもサーバルも、すでに「ジャパリパークの掟」を実践している

また、かばんちゃんやサーバルといった主要キャラの内面と照らし合わせても、ジャパリパークの掟は不自然に感じられます。まず、かばんちゃんについては今までの考察でお伝えしてきたとおり、「自分の目的は自分の力で果たそうとする」、「一度始めたことは途中で投げ出さない」、『頑張り屋」のキャラクターです。確かに、まだセルリアンとの戦闘には不安がありますが、それも後でカバが言うように「逃げる」という方法で十分解決できるでしょう。

また、サーバルもかばんちゃんが困っていたら助けようとするものの、助けが必要でないときは優しく見守ります。決して甘やかしたり、過保護にしたりするキャラクターではありません。

つまり、二人はカバから言われるまでもなく、すでに「ジャパリパークの掟を実践している」といえるのです。そういう意味では、カバの心配は「余計なおせっかいだった」といえるかもしれません。実際、カバはこの後水辺からゲートに向かおうとする2人に対して、いつまでも「あれに気をつけろ、これに気をつけろ」としつこく注意を促してきます。サーバルも手慣れた様子で、話を適当に切り上げて先に進もうとします。まるで、遊びに行く子どもと、それに注意を促す母親のようですね。

「掟」は、本当に単なるカバのおせっかいだったのか?

「ジャパリパークの掟」の謎についてまとめると、

  • 「自分の身は自分で守る」というジャパリパークの掟は作品のメインテーマではない
  • かばんちゃんもサーバルも、すでにジャパリパークの掟を実践している
  • 物語上の演出としては、ジャパリパークの掟は「心配性なカバの余計なおせっかい」だった

ということになります。しかし、これではまだすべての謎が解けたとは言えません。なぜなら、「このシーンにこのセリフを入れたことの本当の意味」がまだ明らかになっていないからです。

「ほのぼの」の陰に立ち込める不穏な雰囲気

けものフレンズが話題になった大きな理由のひとつとして、「一見、ほのぼのとしたストーリーの中に、常に不穏な陰がつきまとう」という要素がありました。愛らしいフレンズたちがゆったりまったりと冒険を続けているだけなのに、なぜか視聴者の心には拭いきれない不安がつきまとってくるのです。

考えてみれば、作品全体を覆う「不穏な雰囲気」の始まりがこの「ジャパリパークの掟」のシーンだったのかもしれません。先ほど「まとめ」の部分で説明したとおり、このセリフは「心配症なカバの余計なおせっかい」と考えれば一応の辻褄は合います。直後に、「ネタばらし」ともいえる「遠のく2人に、いつまでも心配して声をかけ続けてくるカバ」のシーンが入ることで「ああ、やっぱりそんな殺伐とした作品じゃなくて、ほのぼのアニメなのか。よかったよかった」と視聴者も安心できることでしょう。

しかし、よく考えてみてください。

  • 自分の身は自分で守る』というジャパリパークの掟は、作品のメインテーマではない

という部分は、初見の視聴者にはわかりません。あくまで全編を見通した後だからこそ確信できることです。

また、

  • かばんちゃんもサーバルも、すでにジャパリパークの掟を実践している

という部分も、ここまでの展開をよく見て、かばんちゃんとサーバルの行動について考察すればわかりますが、ただなんとなく見ているだけではほとんどの人には伝わってこない部分でしょう。

全編を見通すか、ここまでのシーンをすべて深く考察するかしていれば、本当の意味がわかるのですが、そうでないと解釈に確信が持てず、いろいろと余計な深読みができてしまう余地のあるつくりになっているのです。なので、初見の視聴者の多くはこのシーンを見て「なんだ、カバは心配症なキャラなんだな(でも、上手く言えないけど、なんだか不穏な雰囲気だな・・・)」というような印象を持たれたのではないでしょうか?

ただし、このシーンで感じる「不穏の陰」は、まだ序の口に過ぎません。そのため、多くの視聴者は大して強く自覚することなく、続きを見続けていったことだと思います。しかし今後、こうした少しつづの「不穏の陰」の積み重ねがボディーブローのように効いてくることで、けものフレンズという作品の魅力を大いに高めていくことになるのです。

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