ニンテンドースイッチの陰に見え隠れする任天堂のマーケティング戦略とは?

2017年3月3日、任天堂の最新コンシューマーゲーム機「ニンテンドースイッチ」が発売されました。海外では国内よりもひと足早く売れ行きの情報が入ってきており、大変好調であることが伺えます。任天堂は2000年台、Wiiが1億台を超える世界的なヒットを飛ばしたものの、その後2012年に営業赤字を記録。

  • もはや家庭用ゲーム機の時代は終わった
  • スマホゲームの台頭に対応できなかった

などとの批判を浴びていましたが、ニンテンドースイッチのヒットは「任天堂復活」を象徴づけるできごととなりそうです。今回は、ニンテンドースイッチのヒットの裏にどのようなマーケティングが読み取れるか、考察してみたいと思います。

任天堂が「狙った」であろうマーケティング効果

マーケティングには、売り手が行った作為的なものと、世間の反応によって自然に生じた不作為なものがあります。通常は、それぞれを区別することは決して簡単ではありません。なぜなら、特に現在社会的に大きな影響力を持つ「SNSによる口コミの広がり」などは影響力を可視化するのが難しいからです。

まずは、任天堂が(おそらく)狙ってやっただろうことについて考えてみたいと思います。

ニンテンドースイッチの発売前には、TV・ネットなどを通じて多数のCM、紹介動画が公開されました。たとえば、代表的なものはこちらです。

CMはターゲットとしているユーザー層によって、それぞれ訴えている内容が異なるものですが、そこからマーケティングの意図を読み取ることができます。私が感じたのは以下のようなことです。

  • 「友達と一緒に遊ぶ光景」をPR
  • 「テレビ・テーブル・携帯」のモードチェンジ機能をPR

Wii及びWiiUが発売されたとき、CMで主にPRされていたのは、Wii(WiiU)を使って「家族が一緒に遊ぶ光景」だったと思います。もちろん、当時も友達と一緒に遊ぶCMはありましたが、今回は明らかに「家族よりも友達同士」にシフトしているといえます。なぜこうした変化が置きたのかについては、次の「モードチェンジ機能のPR」について考えてみると理解できるでしょう。

新しい「ゲームのある日常の光景」を提案

家族と同居している方は、自宅のリビングの光景を思い浮かべてみてください。一昔前はリビングの主役は「テレビ」でした。テレビの映像を中心に家族同士で会話が進む、といったあり方が主流だったでしょう。では、現在のリビングのあり方はどうでしょうか?おそらくこの「テレビ中心」というあり方に「スマートフォン」が加わっていると思います。たとえば、家族のうちお父さんはテレビを見ているが、子供は寝転がりながらスマホをいじっている。でも、テレビの音は聞こえているので、興味がある話題になったときだけ見たり、会話したりする。そんな光景のほうが、現在は主流なのではないかと思います。

ニンテンドースイッチのCMでも、家族がテレビを見ている中、ひとりが携帯モードでゲームをプレイしている光景を映すものがありました。こうした「ゲームがある日常」を描写したことで「ニンテンドースイッチがどのように日常生活の中に溶け込んでいくのか?」という像をユーザーにイメージしてほしかったのではないか、と考えれられます。

ちなみにWii(及びWiiU)のときの「ゲームがある日常」の光景は「家族みんなでゲームを遊ぶ」でした。これは「ゲームは一人でやるもの」という従来のイメージを覆す意図があったと思います。しかし、Wiiのヒットにより「家族みんなでゲームを遊ぶ」という光景もまた当たり前のものになってしまいました。それでは消費者に新たな驚きを与えることはできません。そこで新しい光景として「ゲームをしている人、していない人が一緒に過ごす」というイメージを提案してきたのでしょう。

任天堂の意図=ヒットの理由とは限らない

今回の私の考察をまとめると、以下のようになります。

  • Wiiが世に出るまで、ゲームは「一人でやるもの」と思われていた
  • Wiiがヒットした理由は「家族みんなでゲームをやる」という新しい価値観が受け入れられたから
  • スマホゲームの普及により「家族みんなでゲームをやる」価値観が崩れた
  • ニンテンドースイッチは「ゲームをやる人、やらない人が同じ空間にいる」という現代の日常に適合するようデザインされた

ニンテンドースイッチが提案する新しい価値観は、果たして受け入れられるのでしょうか?今後の展開がさらに注目されます。