VR(バーチャルリアリティ)が普及しない理由を考察

2016年はVR(バーチャルリアリティ)元年とされ、さまざまな企業がVRゴーグルといった関連商品を世に送り出しました。当初は「リアリティのある映像体験ができる」ともてはやされたVRですが、現在は市場規模の伸び悩みに苦戦しているようです。なぜVRは普及しないのか、その理由を考察しました。

ウォール・ストリート・ジャーナルで、次のような記事が公開されました。

VRヘッドセット、なぜ売れないのか

VRヘッドセットの普及が進まず、業界の予想よりも市場が伸び悩んでいることを嘆く内容です。VR関連商品の普及が進まない理由について、同記事に対する反応、並びにネット上での意見を要約すると次のようになります。

  • そもそも、VRに興味がない
  • 魅力的なVRコンテンツがない
  • VRゴーグル・ヘッドセットの値段が高い

これに加えて「3D酔いをするから」といった理由を挙げる方もいました。私もおおよそこれらの意見には賛成しますが、VRが普及しない理由はこれだけではないように思います。

VRは今まで何回も普及に失敗している

2016年代、メディアで盛んに「今VRがアツイ!」といった報道がなされるようになりました。このとき私が思ったのは「ああ、また家電業界がなにか変なものを売り始めたな」というようなことでした。たとえば、空気清浄機やホームベーカリーのような家電製品は、数十年前は一般家庭にはまずないものでした。新しい家電が登場すれば、家電業界は新たな市場を開拓したことになります。VRヘッドセットについても「次はこれか」というふうに思い、その時点ではさして気にもとめていなかったと思います。

実は、VRが世間から注目を集めているのは、今回が初めてではありません。VRの技術発展の歴史については、下記のリンク先が詳しいので参考にしてください。

参照:【VRの誕生から現在まで!】VR初心者視点で、VRの歴史をまとめてみた

日本では、過去に任天堂がバーチャルボーイというゲーム機を発表してVRの普及を進めようとした事例がよく知られています(そして、見事に失敗しましたが)。つまり、「VRを普及しよう」という動きは過去にも定期的に起こっていて、どれも失敗しているということです。

長年の懸案だった「3D酔い」は解決に向かっている

そうなると心配なのは、「今回こそ本当に大丈夫なんだろうな?」というところでしょう。高いお金を出して買ったVRヘッドセットが「バーチャルボーイ」と同じような末路をたどるのではないかと心配で尻込みしている方も多いはずです。「なぜまたVRを流行らせようとしているのか?」については、下記のサイトが参考になります。

なぜ今バーチャル・リアリティーなのか?

リンク先の記事には、「なぜ今回は大丈夫だといえるのか?」についての理由も記載されています。VR映像にユーザーが没入感を得るためには、「視点が移動したときの追従性」が重要になります。追従性が悪いと映像にリアリティを感じられないばかりか、3D酔いを起こす原因にもなるからです。「今回は技術の発展により視点移動への追従性が上がったので、今度こそVRは大丈夫だ」というのが現在VRが再びブームになっている理由の根拠となっています。まだ3D酔いを完全に防げると断言できるレベルには達していないようではありますが。

ハードウェアの技術的な問題が解決するなら、ソフトウェアの問題はどうでしょうか?VRと親和性が高いとされる分野といえば、「ゲーム」がありますが、これまでテレビ画面や平面のディスプレイ上にゲーム世界を表現すればよかったものが、急に360度、ユーザーを取り囲むゲーム世界を作れと言われても、ゲーム業界の人々が対応するにはある程度の時間が必要になるでしょう。VRコンテンツの普及が伸び悩んでいる原因はそうした技術への適応に時間がかかるという理由もあるでしょう。そして、ユーザーはコンテンツを目当てにVRヘッドセットを買うわけですから、コンテンツの普及が進まなければハードの普及も進まないことになります。

ここまでの話を要約すると、

  • 3D酔い等、VRの技術的な問題は解決されつつある
  • コンテンツの供給は時間はかかるが、将来的には解決されうる

という結論になります。そうであれば、「普及に時間がかかっても、最終的には受け入れられていくはず」と考えられるはずですが、本当にそう考えていいのでしょうか?

さまざまな分析で見落とされている「最初から興味がない人」の声

実は、冒頭で紹介した記事の末尾には気になる記述があります。

その中でも「単純に興味がない」と答えた人は、最多の約53%に達した。

ネット上で言われているようなVRヘッドセットが普及しない理由は、主に「興味はあるが、まだ買っていない」という人たちの意見です。たとえば、「ゲームは好きだけど、PSVRはまだ買っていない」というような人が挙げられるでしょう。一方、「単純に興味がない」という人は、そもそも自分がなぜVRに興味がないのか、意見を発表することは少ないと考えられます。つまり、現在の「VRが普及しない理由」に関する分析には「最初からVRに興味がない人々にどう興味をもたせるか」という観点が抜け落ちているといえるのです。

他人がやっているのを見ても、「楽しそうに見えない、うらやましくない」のが最大の問題

人々のVRへの興味を喚起するマーケティング施策として、一般的には「無料体験コーナー」などが実施されています。「実際に体験してみれば楽しさが伝わるよ」ということでしょう。とはいえ、これは正直月並みな方法で全く真新しさはありません。しかし、VRの体験コーナーを注意してみると、VRの普及のために本当に必要なものが見えてくると思います。

VRの体験コーナーの良くない点は、「ヘッドセットをつけている本人以外、仮想現実を体験できない」という点でしょう。つまり、客観的に周囲の人々に楽しさが伝わらないのです。これとは対象的な広まり方をしたのが、発売後長期間に渡って品薄が続いている「ニンテンドースイッチ」です。ニンテンドースイッチが普及した理由のひとつに「電車で人がやっているのをみて、やりたくなった人が自分でも購入した」という点があります。これについては、過去の執筆した記事があるのでよければ見てください。

消費者の目から見た「ニンテンドースイッチ」ヒットの理由

VRは、他人が体験しているのを見ても「変なものを頭につけて周りをキョロキョロしている様子」しかわかりません。率直に言って、ちょっと間抜けに見えてしまうというのが正直なところだと思います。この光景をどうにかしない限り、VRの普及は進まないでしょう。

「仮想空間で活躍する体験者の様子」を客観的に映し出す仕組みが必要

私はVRの普及に際して決定的に必要なものは「体験者が見ている映像を三人称視点でディスプレイ上に再現すること」だと思います。今までも体験者が見ている映像を「体験者と同じ視点でほかの人にも映し出す」ものはありました。しかし、そもそもディスプレイがないと没入感を得られない映像を通常の平面的なディスプレイで再現するのは無理があります。

たとえば、VRの体験者が「ファンタジー世界で勇者となり、魔物と戦う体験」をしているのなら、それを三人称視点の「客観的な3D映像」で再現し、体験者の動きに連動する形で周囲の人に見せる必要があるでしょう。このように「やっている人を周囲で見ている人にも、楽しさが伝わる工夫」をすることが、VRの普及をすすめる鍵を握っていると思います。

たとえば現在、小説やアニメ、漫画の世界では主人公がファンタジー世界で活躍する「異世界転生モノ」が人気を集めています。また、異世界を舞台にしたオンラインゲームで遊ぶ人も増えています。人々の「現実とは違う世界へのあこがれ」は非常に強いはずです。にもかかわらず、変なメガネを付けて周りをキョロキョロする人の姿しか見えないのでは「VRをやってみたい!」という気持ちは芽生えないでしょう。

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