事例から学ぶマーケティング:品質にこだわる飲食店

実店舗で行われるマーケティングのなかには、デジタルマーケティングで参考になる事例も少なくありません。たとえば、飲食店の店内外に貼られている広告・POPなどもそのひとつ。今回はとある飲食店が行っているマーケティングの事例をご紹介しましょう。

PRしたいこだわりがあるのに、店内掲示がほとんどないお店

先日、とある飲食店を訪れました。少し値段が高めのお店で、素材にこだわりがあるお店です。店内に入ってしばらくすると、あることに気が付きました。店内の壁やテーブルの上などに、ほとんど掲示がないのです。

通常、飲食店などでは店内に「品質へのこだわり」とか「新商品の紹介」といった掲示があります。たとえば、ケンタッキーやマクドナルドなどのファストフード店では商品を載せるトレーの上にさえ広告が乗っています。

もちろん、掲示のない店もありますが私が気になったのは、その店が「素材へのこだわりを売りにしている」店だったからです。当然、お店を訪れてくれた人にはいかに自分たちが素材に拘っているかPRしたかったはずです。にも関わらずそういった掲示がないので不思議に思いました。

自店PRよりも過ごしやすさを重視

しかし、しばらく自分で考えた結果答えが推測できました。先ほどの説明したとおり、このお店は素材へのこだわりが強いため、同じジャンルのお店よりも値段が高めです。ちょっと高級なお店ですから、そこを訪れるお客もリッチな気分を味わいたいと考えているでしょう。お店側はこうした顧客心理に答えようとしているのではないかと思いました。実際、店内で過ごしてみると無駄な掲示がない分、落ち着いて食事を楽しむことができます。

とはいえ、店内から掲示を消してしまってPR不足になる心配はないのでしょうか?私も気になって確認してみましたが、店外には最低限のPOPやのぼりは立っているのでお店のPRに抜かりはありません。

また、このお店の特長としてネットでの評判が非常に高いという点があります。つまり、あまり過剰にPRをしなくても自然にお客が集まり、口コミでさらに評判が知れ渡っていくことが期待できるのです。

口コミを広げるには、お客様に対して価値のあるものを提供するしかありません。そのための素材へのこだわりであり、掲示のない落ち着ける空間なのだと気がついたとき、そのお店のマーケティング手法を理解できました。

通常、「掲示をしない」というのはなかなか勇気のいる決断です。それだけ自店の料理に自身がなければできない選択でしょう。広告はすぐに成果が出やすいですが、口コミが広がるには時間がかかるからです。どれだけおいしい料理を提供したとしても、最初はなかなか成果に結びつかなかったでしょう。

しかし、そうした苦しい時期を乗り越えたからこそ、そのお店の今があるともいえます。私が来店した時間はお昼時だったとは言え、お店は大変な賑わいで、普段からの人気ぶりを感じさせました。そうした、多くのお客様から常に愛される状況を作ることこそ、マーケティングの真の目的だといえます。

今回の事例をデジタルマーケティングに置き換えてみると、どんなことがわかるでしょうか?デジタルマーケティングについても飲食店と同じく、最初は自社のこだわりや他社にはない長所などをPRしたいと思うはずです。ですが、そこで一旦落ち着いて、「どうすればお客様に価値あるものを提供できるか」考えてみてはいかがでしょうか?そのやり方は、今回の事例と同じく、すぐに成果は出ないはずです。しかし、いたずらに広告を増やして成果を求めるよりも、企業にとって欠かせない「評判」を少しづつ積み重ねていくことができます。

目の前の成果よりも長期的な評判を重視する

これが、今回の飲食店の事例からデジタルマーケティングで学べることではないでしょうか?