ノイエ銀英伝6話感想・考察その1「第十三艦隊主要メンバーの登場」

6話「イゼルローン攻略(前編)
~第十三艦隊の編成が決定~

新設される第十三艦隊の司令官に任命されたヤン・ウェンリー少将は、「一個艦隊によるイゼルローン要塞攻略」という難題を与えられていた。キャゼルヌ少将に作戦に必要となる物資を要求しながら、ヤンは艦隊主要メンバーの校正を決定していく。

第十三艦隊副司令官は、アスターテ会戦で共に戦ったエドウィン・フィッシャー准将が任じられる。さらに主席幕僚にはムライ准将、次席幕僚にはフョードル・パトリチェフ大佐がそれぞれに任命された。いずれのメンバーもヤンと過去に面識があった。

キャゼルヌによって手配されていたヤンの副官は、フレデリカ・グリーンヒル中尉。ドワイト・グリーンヒル大将を父に持ち、士官学校を次席で卒業した俊英であった。ヤンは覚えていなかったが、かつてエル・ファシルで民間人の脱出を準備していた際、彼にコーヒーを差し入れた少女こそが彼女である。

フレデリカはヤンに絶対的な信頼をおいており、ヤンの作戦案に「必ず成功する」と太鼓判を押すのだった。

グリーンヒル(1) (ヤングマガジンコミックス)

 同盟側の主要人物が続々登場

4話からずっと同盟側、ヤン・ウェンリー周辺のエピソードが続いていますが、今回もまた同盟側を描いたエピソードとなります。主人公のラインハルトが登場しなくなって久しいですが、代わりに同盟側の主要人物が何人も姿を表すので、原作や旧アニメ版を見たことがあるひとにとってはうれしい展開でしょう。

ヤンはまず、キャゼルヌに帝国軍の軍服40着と軍艦を要求します。この時点で「帝国軍の兵士になりすまして少人数をイゼルローン要塞に侵入させる作戦なのだな」ということが見ている人には何となく伝わるはずです。

作戦中は家を長期間留守にすることになりますので、ヤンはユリアンの身の安全を確保してくれるようキャゼルヌに頼みました。憂国騎士団に襲われた一件がありますから、こうした配慮は当然だといえるでしょう。

フィッシャー、パトリチェフ、ムライの登場

続くシーンでは、第十三艦隊の主要メンバーが一同に介します。副司令官に任命されたフィッシャーは2話で少しだけ登場しているため、記憶に残っている方も多いでしょう。そのときの扱いは、「ヤンに指揮される第二艦隊の中のいち提督」といった感じでしたが、ヤンの実力を即座に認め、素直に従う態度を見せていましたから、ヤンに対して良い印象を抱いていたであろうことが伺えます。今回は、艦隊運用の手腕を認められての起用となりました。ヤンは作戦中も自分の指示をどれだけ忠実に守っていたか、指揮下にある部隊の動きをきちんと観察していたことがわかります。

次席幕僚のパトリチェフは、ずいぶん気さくな感じでヤンと挨拶を交わしています。ヤンが「ご無沙汰だね」と語っていることから、以前どこかの部隊にいるとき面識を持っていたのでしょう。彼もまた、ヤンと三次元チェスを楽しむ仲間であることが示されています。

主席幕僚を任されたムライ准将は、ヤンから招集されたことに「意外だった」という感想を漏らしました。彼とヤンが知り合うきっかけになったという「エコニアの一件」については、まだ劇中では明らかにされていません。しかし、ムライがヤンに呼び出されるとは思っていなかったのなら、その一件でのムライとヤンの関係は必ずしも良いものではなかった可能性もあります。それでも任務を引き受けるにあたり「喜んで」と語っているところから、少なくとも現在は二人の間に何らかの信頼関係ができあがっているのでしょう。

副官フレデリカ・グリーンヒルとの「最初の出会い」

その後、ヤンの副官を担当することになったフレデリカ・グリーンヒル中尉が挨拶に訪れますが、彼女の着任はヤンではなく、キャゼルヌの発案によるものです。彼女の父親が同盟軍大将であったことから、ヤンは思わず「予想外だった」と口にします。

実は二人は初対面ではなく、かつてヤンが「エル・ファシルの英雄」となったときに出会っていました。そのときのヤンの姿から、フレデリカはヤンを信頼しており、作戦案についても全面的に支持すると明言しています。

4話「不敗の魔術師」で描かれたエピソードを思い出してみてください。ヤンはかつて、駐留艦隊に見捨てられたエル・ファシルの民間人を脱出させることに成功しました。当時、ヤンはまだ無名の新米だったので、多くの民間人はヤンに不安をいだいていたはずです。しかし、ヤンはまったく気にせず着々と脱出の準備を進めていました。

忙しいさなか、慌てて食べたサンドイッチを喉につまらせて苦しむヤンに、一人の少女がコーヒーを差し出します。ヤンはコーヒーでサンドイッチを胃袋に流し込み、ことなきを得ましたが、「コーヒーは嫌いだから紅茶にしてくれたほうがよかった」と軽口を叩いていました。このときのコーヒーを差し出した少女こそが、今まさにヤンの目の前にいるフレデリカだったのです。ヤンは、フレデリカの好意に対して素直にお礼が言えなかったことを詫つつ、「その記憶力はもっと別の方面に使ったほうがいい」と、再び冗談で返しました。

フレデリカがヤンを信用した理由

フレデリカは、たったこれだけの体験で、なぜヤンをそこまで強く信頼することができたのでしょうか。捉えようによっては「なんて頼りない軍人だ」と解釈することもできたはずです。もちろん、その後に無事脱出できたから、というのは大きな要因になっているでしょう。しかし、それに加えて「ヤンと直接会話したときの印象」の中に、彼女に信頼感を抱かせるようなポイントが存在していたはずです。

おそらくフレデリカは「絶望的な状況にもかかわらず、冗談を言って自分を和ませる余裕」を持っていたヤンの態度に安心感を抱いたのでしょう。当時、フレデリカはまだ子どもですから、喉煮物を詰まらせて困っているヤンを助けようという純粋な気持ちでコーヒーを差し出したはずです。しかし、いくら子どもとはいえ現在の状況が切迫していることや、目の前にいる人物が自分たちの今後を左右する責任者であることは理解していたでしょう。

他ならぬヤン自身、緊張によって食べ物を喉につまらせてしまった可能性もあります。それなのに「コーヒーを差し入れしてくれた優しい女の子」に配慮して冗談を言う気遣いができたこと、それを可能にする冷静さを持っていたところに好意を抱いたのではないでしょうか。

劇中では、なぜ彼女が軍人の道を志したのかまだ明らかにされていません。軍人である父に憧れて軍に入った可能性もありますが、「幼いころに見たヤンの姿に感銘を受けたこと」が理由になっている可能性も十分にあります。今後、二人がどのようなコンビになっていくのか、注目していきたいところです。