ノイエ銀英伝2話感想・考察その4「ラインハルトの人物像と戦いの中で示される作品のテーマ」

第2話「アスターテ会戦」より、今回取り上げるシーン

同盟軍第二艦隊司令官代理・ヤン・ウェンリー准将は、帝国軍の司令官ラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将の中央突破戦術を逆手にとり、自軍を敵軍の左右に分ける。敵軍と行き違う瞬間、全軍を加速させた後に反転し、敵の背後をとることに成功する。

戦術を破られたラインハルトは、全軍を前進・旋回させて敵のさらに背後を取ろうと画策。お互いに背後を取り合うような格好になった両軍は、2匹の蛇が絡み合うウロボロスのような陣形となった。

ラインハルトは戦闘の続行を無意味と考え、戦場を離脱。それに合わせてヤンも同盟軍を撤退させた。これにてアスターテ会戦は終結を迎える。同盟軍の損害は帝国軍の10倍以上にも上ったが、帝国軍のアスターテ星域への侵入は阻まれた。戦後、ラインハルトは銀河帝国宮殿、新無憂宮(ノイエ・サンスーシー)にて第三十六代皇帝のフリードリヒ四世に謁見する。アスターテ会戦での功績が認められ、帝国元帥への昇進を果たすことになる。

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 ラインハルトが指摘したパストーレ中将の「無能さ」

ラインハルトは、自身の中央突破戦術がヤンに利用され、作戦の裏をかかれたことに気がつくと、すぐさま全速前進することを決断しました。その際、「反転迎撃するのか?」と尋ねるキルヒアイスに、「俺に無能になれというのか?敵の第四艦隊司令官以上の」と返しています。これらの会話にはどんな意味があったのでしょうか。

キルヒアイスの質問は、ラインハルトに「正しい判断」を促そうという意図があって行ったものでしょう。彼が口にした「反転迎撃」という策は、第二艦隊に先立って戦った同盟軍第六艦隊(ムーア中将・ラップ少佐の所属艦隊)が行ったものです。ただし、敵が側背から襲いかかってきている最中に行ったためうまくいかず、敗北を決定づける要因になってしまいました。

ラインハルトの回答が、この第六艦隊の反転迎撃を念頭に置いたものであるなら、「第四艦隊司令官(パストーレ中将)以上の」ではなく、「第六艦隊司令官(ムーア)以上の」となるはずです。なので、ラインハルトがいいたかったのは第六艦隊が行った「敵前での反転」ではないということになります。

では、第四艦隊との戦いの際はどうだったか思い出してみましょう。ラインハルトは同盟軍の包囲網が完成する前に第四艦隊に先制攻撃を仕掛けています。その際、キルヒアイスが行ったデータリンクへの工作の成果もあって第四艦隊の反撃は遅れ、大きな被害を出してしまいました。ラインハルトはこのとき、「反応が遅い。どこにでも低能はいるものだな」と語っています。この「低能」という言葉は、今回の「無能」とほぼ同義だと考えていいでしょう。

つまり、ラインハルトがこの場で言いたかったのは、「俺に(敵が予想外の行動をとったために、正しい判断を行えなかった)第四艦隊司令官以上の無能になれというのか」という意味だったと考えれば辻褄が合います。想定外の事態が発生したからといって、うろたえて正しい判断力を失ってしまうことを自ら戒めようとしたのでしょう。

 ウロボロスの陣形が象徴する作品のテーマ

同盟軍と帝国軍は、互いの背後を取ろうとして円の軌道を描き、「ウロボロス」のような陣形を作り出しました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%83%AD%E3%83%9C%E3%83%AD%E3%82%B9

ウロボロス (ouroboros, uroboros) は、古代の象徴の1つで、己の尾を噛んで環となったヘビもしくは竜を図案化したもの。

ウロボロスには、1匹が輪になって自分で自分を食むタイプと、2匹が輪になって相食むタイプがある。

ラオ少佐は「こんな陣形初めて見ます」と語り、ヤンもそれに同意しましたが、心の中で「いや、これは初めてじゃない。有史以来、どこかの戦場で幾度となく繰り返されてきたことだ」と付け加えています。このセリフは第1話冒頭で流れたナレーションの意味合いを汲んだセリフだと考えたほうがいいでしょう。そのナレーションとは次のようなものです。

ここに描かれた事々が、あなたの知っているものに近く、ここに現れた人々があなたの知っている人に似ていたとしても、それは歴史の偶然であり、必然である。

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あえてこのようなセリフが挿入されているということは、ヤン・ウェンリーという人物は、物語のテーマである「歴史の偶然・必然」を理解しているキャラクターだということが示されている、と言えるわけです。

さらに付け加えるのなら、物語で最初の戦いとなるこのアスターテ会戦のクライマックスを締めくくる今回の陣形が、ウロボロスを模していることにも哲学的な意味合いが含まれていると思います。なぜなら、ウロボロスは一種のシンボルであり、次のような意味があるとされているからです。

循環性(悪循環・永劫回帰)、永続性(永遠・円運動・死と再生・破壊と創造)、始原性(宇宙の根源)、無限性(不老不死)、完全性(全知全能)など、意味するものは広く、多くの文化・宗教において用いられてきた。

私は第1話の感想・考察において、「銀河英雄伝説 Die Neue These」は、歴史の偶然・必然と、その中で様々な役割をこなす「人物」がテーマである、との説を唱えてきました。今回の陣形、及びヤンのセリフによって、それが再び強く印象付けられる形になったと言えるでしょう。

1話と2話で明らかになったラインハルトの人柄

ラインハルトは1話から2話の中盤まで、終始冷静であまり感情を表に出すことはありませんでした。ところが、ヤンに中央突破戦術を破られて以降は終始苛立ちを隠せないような表情を見せています。

このラインハルトの表情が再び以前のような落ち着いたものに戻るのは、同盟軍と帝国軍がしばらくお互いの背後に周りあった後のことです。フッと我に返ったかのように表情が冷静になり、直後に映されたヤンは「そろそろ敵は引き始めるだろう」と予想しています。

しかし、ラインハルトは即座に撤退を進言せず、一度キルヒアイスに意見を求めています。もしかしたら、自分が本当に冷静に戻ったかどうか、客観的な意見が聞きたかったのかもしれません。キルヒアイスは「そろそろ潮時(撤退すべき)」と進言しましたが、特に決定的だったのは「これ以上の戦いは戦略的に何の意味もない」という部分でしょう。以前の考察で取り上げたとおり、ラインハルトは「戦略的に優位に立つこと」を最優先する性格です。戦略的に意味がないと言われれば、撤退しない理由はありません。

ラインハルトは戦場を去るに当たり、ヤンに勇戦を称える電文を送りました。キルヒアイスにこの電文を送るよう指示する際、「後日の楽しみが増えたよ」と語っていることからもわかるように、これはラインハルトの個人的な感情によって行われた行動です。

1話から2話に至るまでの行動から、ラインハルトの性格がある程度明らかになってきました。まとめると以下のようになります。

  • 基本的には常に冷静で、戦いでは「戦略的に優位に立つ」ことを重視する。
  • 低能・無能な人物を嫌い、敵であっても有能な人物は認める度量がある。
  • 思い通りにいかない状況があると、いらだちを顕にする。

全体的に、天才肌で高い能力を持つものの、一部激情家の要素も併せ持つ人物であると言えるでしょう。

「玉座」を目指して進んでいくラインハルト

アスターテ会戦の結果、帝国軍は同盟領への進攻こそ果たせなかったものの、敵に大きな損害を与えることに成功しました。数で勝る敵軍に自軍の10倍に相当する損害を与えたのですから、大勝利と言っても過言ではありません。

ラインハルトは1話冒頭で部下たちに啖呵を切った通り、大きな功績を上げることに成功し、帝国元帥の称号を得ます。2話のラストは、宮殿で皇帝に謁見するラインハルトの様子が描かれますが、ここでラインハルトは帝国の重鎮と思われる人々が居並ぶ中、一歩ずつ皇帝が待つ玉座へと向かって進んでいきました。この光景は、これまでのラインハルトの歩み、そして今後のラインハルトが目指す目標を暗示したものだったのかもしれません。