ポプテピピック第5話「#5 イモ☆ヨバ」を考察

さまざまな意味を込めて「クソアニメ」と呼ばれるポプテピピック。本作を構成するさまざまなネタがどのような意図を持って組み込まれたのか、その演出意図を考察します。今回取り上げるのは第5話です。

ポプテピピック「#5 イモ☆ヨバ」の内容まとめ

キャラクターボイス

Aパート:金田朋子(ポプ子)、小林ゆう(ピピ美)

両者の共演作品:

http://lain.gr.jp/voicedb/individual/costar/1177/cowork/229/page/3

Bパート:中村悠一(ポプ子)、杉田智和(ピピ美)

両者の共演作品:

http://lain.gr.jp/voicedb/individual/costar-search?s=%E6%9D%89%E7%94%B0%E6%99%BA%E5%92%8C&u=%E4%B8%AD%E6%9D%91%E6%82%A0%E4%B8%80&submitCostar=%E6%A4%9C%E7%B4%A2

https://dic.pixiv.net/a/%E7%A3%81%E7%9F%B3%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%93

Nice boat.

「このコーナーは大人の事情により急遽映像が差し替えられました。」というテロップとともに、ボートを映した環境映像が流れる。アニメ「School Days」の最終回放映時に起きた映像差し替え事件のパロディ。

http://dic.nicovideo.jp/a/nice%20boat.

#5 イモ☆ヨバ(妹なんて呼ばないで!IMOYOBA)

セイントカルチャー学園に通う女子高生・桜木伊予は、先輩の北条に淡い恋心を抱いていた。北条先輩はサッカー部キャプテン兼生徒会長、成績は学年トップの人気者。普通ならあまり接点のない2人だったが、伊予の父親(ピピ美)と北条の母親(ポプ子)が再婚したことで、義理の兄妹になることに。憧れの人と恋人ではなく、兄妹になってしまった伊予は複雑な想いを抱きながら、家族4人の共同生活をスタートする。

しかし、両親は仕事もせずパチンコ三昧。勉強や睡眠まで妨害され、伊予と北条先輩は苦難を強いられる。「先輩と一緒なら」と厳しい暮らしに耐え忍んできた伊予だったが、ついに生活資金が底をついてしまう。我慢の限界を迎えた伊予は、一向に行いを改めようとしない父親に包丁を向けるものの、すんでのところで北条が間に入り、自らの肉体で父親をかばう。

北条先輩「俺のために、止めてくれ・・・。おまえがいなくなっちまったら・・・俺・・・」

思わぬ形で北条の思いを知ることになった伊予。晴れて結ばれた2人は学校を卒業後、無事に結婚する。2人の間には祖父母(ポプ子とピピ美)にそっくりな双子が生まれた。

兄貴がホームランを打つRTA

再び大人の事情により本編映像が差し替えられたとのテロップ。「ゆっくり実況」のスタイルで、実写の「兄貴」がバッティングセンターでホームランに挑戦する。7秒11のタイムで見事記録達成。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%86%E3%81%A3%E3%81%8F%E3%82%8A%E5%AE%9F%E6%B3%81

ポプテピクッキング(煮)

テレビの料理番組のようなスタイルで、今週のオススメおかず「煮」を紹介する。調理法は、ただ切った野菜を鍋に入れ水で煮るだけ。助手のポプ子は何を見ても「あっ!」というリアクション。

ボブネミミッミ「急に出てきて助言言うキャラ」

次の休みに行く旅行の相談をするボブ子とミミ美の前に、「急に出てきて助言言うキャラ(フクロウ)」が登場する。暗に、アウトレットパークに行きペットショップでフクロウの餌を買うよう勧めるが、「自分で行け」とあしらわれる。

みみんがみ

ピピ美から「掛け算の3の段」をいうように言われたポプ子。

ポプ子「みみんがみ!」

ピピ美「みみんが?」

ポプ子「み!」

褒められて伸びるタイプ

「褒められて伸びるタイプ」を自称するポプ子。ピピ美に頭をなでて褒められるが、なぜか褒めているピピ美の頭が伸びていく。Bパートでは、古畑任三郎のOPのようなテロップが表示される。

しゃっくり

2人とも頭に天使の輪がついているポプ子とピピ美。ポプ子は涙ながらにピピ美に詫びる。こうなった原因は、ポプ子のしゃっくりが止まらないことにあった。遡ること10分前、「しゃっくりを100回すると死ぬ」という迷信を信じたポプ子は、しゃっくりを止めるため99回目で自爆。ピピ美を始め周囲一帯を巻き込み死亡する。

ボブネミミッミ「見てない」

映画を見るため待ち合わせをするボブ子とミミ美。視線を感じた2人は、そばにいたサングラスを掛けた男性に「何見てんだ」と詰め寄る。男性は「見てない」と一貫して否定。

ミッキーのものまね

明らかにミッキーマウスと思しきキャラクターのものまねを披露するポプ子。権利に厳しいと言われるディズニーに配慮するためか、声には効果音をかぶせ、映像は影絵のような状態で行う。ピピ美は冷静に「ミッキーは引き笑いしねぇだろ」とツッコミ。

不思議の国のアリス

「不思議の国のアリス」に登場するうさぎを思わせるキャラクターが登場。お茶会に遅れちゃう、と走り出すも、うさぎに気づいたポプ子がそれを追いかける。うさぎの進む先は地平線まで果てしなく続く道路。ポプ子はどこまでもうさぎを追い続ける。

より詳しい流れを確認したい方は本編をご覧ください。以下のサイトも参考になります。

http://anicobin.ldblog.jp/archives/52907804.html

作品中に挿入されたパロディの元ネタについては、下記のリンクが参考になります。

http://mr-bluesky.hatenablog.jp/entry/2018/02/04/033425

https://matome.naver.jp/odai/2151770314032186301

ポプテピピック5話のポイント

シュールさがかなり抑えられた構成

アニメオリジナルパートの「イモ☆ヨバ」をはじめとして、全般的に5話のネタはシュールさがかなり控えめになっています。イモ☆ヨバの場合、恋愛ものあるあるを下敷きにしつつ、そうした世界観にありがちな「複雑な家庭事情」をブラックユーモアたっぷりに描いています。

ヒロインの伊予は一見純粋で真面目な娘に見えますが、追い詰められて「父親を刺そうとする」という狂気に走りました。そして、彼女と北条先輩の間に生まれた子どもたちは、家庭をまったく顧みなかった彼らの祖父母(ポプ子とピピ美)の遺伝子を色濃く受け継いでいます。「今最高に幸せ」と語る伊予に対して、彼女たち4人が本当に幸せな家庭を築いていけるのか、見る人が思わず不安になってしまうような終わり方ですが、ストーリーが暗示する不穏な部分はかなりわかりやすいので、理解できない視聴者はほとんどいなかったでしょう。

ほかにも、どんな料理にもわざとらしくオーバーなリアクションをする料理番組を風刺した「ポプテピクッキング」。「2×2=4(ににんがし)」から掛け算の3の段をポプ子が勘違いしてしまう「みみんがみ」など、その他のネタも何が面白いのか論理的に説明可能です。つまり、それだけシュールさ(奇抜さ)が抑えられていると言えます。

ポプテピピック第5話の演出意図を考察

5話のテーマは「風刺」か?

5話に含まれるネタをよく観察してみると、その多くに「風刺」の要素が入っていることが見て取れます。ここでいう風刺とは以下のようなものです。風刺はパロディと似ている部分もありますが、違っている部分もありイコールなものではありません。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A2%A8%E5%88%BA

風刺(ふうし、諷刺[1]とも)とは、 多くの場合、変化を誘発あるいは阻止する意図をもって、主題(人物、組織、国家など)の愚かしさを暴きだし嘲弄する、文章・絵画・劇・映像等さまざまな文化的領域で使われる表現技法である。

技法としてパロディと似ている面もあるが、同義ではない。パロディは滑稽な効果をもたらすために、誇張された方法で他の芸術作品を模倣するユーモアの一形式である。それゆえにパロディは何らかの模倣による表現であるが、風刺は必ずしも模倣ではない。また、ほぼ全てのパロディは必然的にユーモラスな調子を帯びているのだが、風刺はユーモラスである必要はなく、事実多くの風刺作品は悲劇に含まれる。風刺の主要な目的は政治的・社会的・倫理的な変化の誘発(もしくは抑止)であり、ユーモアは二次的な目的となる。ユーモアを含んだ風刺は、巧妙かつ偽装的であり、いわゆる「笑えない」要素を含んでいる。

「風刺」と「パロディ」の違いに着目すると、ポプテピピック5話の特徴がより良く理解できます。たとえば、「イモ☆ヨバ」は明らかに、「乙女の純情」や「女の子のラブロマンスへのあこがれ」のウラには「恋は盲目(周囲が見えなくなる狂気)」や「(客観的には)幸福とはいえない家庭事情」が存在するという風刺になっているとわかるはずです。

ボブネミミッミの「助言言うキャラ」は、ネタの中で他人を手伝うふりをして遠回しに自己の利益を得ようとする態度が非難されていますし、しゃっくりを止めようと自爆して周囲を巻き込んでしまったポプ子は、悪い結果を避けようと悪あがきしてかえって結果を悪化させてしまう人の風刺になっているといえるでしょう。

「不思議の国のアリス」で示された数学ネタと風刺

もう1点、EDを飾る「不思議の国のアリス」ネタについても言及しておきたいと思います。ファンタジー作品の古典として知られる不思議の国のアリスですが、実は作者のルイス・キャロルは元々数学者であり、作中には当時の数学問題や数学者に対する様々な風刺が込められていると言われています。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8D%E6%80%9D%E8%AD%B0%E3%81%AE%E5%9B%BD%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%82%B9

https://matome.naver.jp/odai/2143018694192400801?&page=3

本編のラストは、永遠に続いていくかに思われる直線道路を進んでいくうさぎを、まったく同じ速度で追いかけるポプ子、という構図で描かれています。これは有名なパラドックスの問題である「アキレスと亀(ゼノンのパラドックス)」を彷彿とさせる光景です。

http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%A2%E3%82%AD%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%81%A8%E4%BA%80

もしかしたら、パロディの元ネタである「不思議の国のアリス」と同じように、ポプテピピック5話全編のテーマが「風刺」であることを示す制作者のサインなのかもしれません。