「ボブネミミッミ」に隠された心理的効果(3/3):だんだん好きになっていく理由

(2/3のまとめ)

ポプテピピックの肝である「シュールなギャグ」と「パロディ」は視聴者が慣れてしまうと効果が薄れる

心理学の見地から見た「馴化」=慣れの特徴を知ると、ボブネミミッミが視聴者の「慣れ予防」に効果を発揮することがわかる

前回はポプテピピックという作品の中におけるボブネミミッミの「箸休め」という役割に注目してみましたが、今度は視点を変えて「ボブネミミッミを見る視聴者の気持ちの変化」について考えてみましょう。

前回は「馴化(慣れ)」の特徴について取り上げました。人がなぜ刺激に慣れていくのか、具体的なメカニズムはまだ明確にはされていませんが、「慣れ」のメカニズムと人々の感情の変化を組み合わせて説明した「相反過程理論」という説が存在します。今回はこの相反過程理論を元にしてボブネミミッミがもたらす効果を考えてみたいと思います。

本記事は3つに分割されています。前半の記事はこちら

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相反過程理論とは?

こちらは、「慣れ」が起きるメカニズムを説明したひとつの仮説です。以下のリンクで詳しく説明されているので、興味がある方は読んでみてください。

http://readingmonkey.blog45.fc2.com/blog-entry-773.html

事例:熱いサウナに入ったときに起きる感情の変化

わかりやすいように、上のリンク先で紹介されている事例を引用してご説明しましょう。

※ 今田寛(1988)「獲得性動機に関する相反過程理論について 1」『人文論究』38(1),pp.45-62

1.平静な状態から高温のサウナ室に入る
2.しばらくすると熱のために苦痛と不快におそわれる
3.しかし、それをしばらく我慢していると馴れがおこってやや耐えられるようになり、それがしばらく続く
4.次にサウナ室を出ると、ほっとした開放感を伴う快さを経験する
5.しかし時間とともに再び感情はもとの平静なベースラインの状態に戻っていく

事例を元にして、相反過程理論が表す感情の変化をより一般的に表すと次のようになります。(あくまで、この後の説明のため、わかりやすさを重視して表現しているので、専門的な検知から見ると違う点もあるかもしれませんがご容赦ください)

1.刺激が与えられると、先に「不快感」が現れる

2.しばらくすると「慣れ」によって不快感は弱まる

3.続いて「快感」が現れる

4.しばらくすると快感は和らぎ、平常状態に戻る

もちろん、何らかの刺激を受けたとき、必ずこうした感情の変化が起きるわけではありません。しかし、サウナに入ったときの他にも、「ホラー映画を見たとき」や「バンジージャンプなど、恐怖系アトラクションを体験したとき」など、相反過程理論で気持ちの変化が説明できるシチュエーションは数多くあります。

つまり、相反過程理論とは、ある刺激によってプラスとマイナス、2つの感情が生み出されたとき、最初はマイナスの感情のほうが大きくても、後からプラスの感情のほうが大きくなるような種類の刺激であれば、時間の経過とともに「マイナスの刺激は小さく、プラスの刺激は大きくなっていく」ことを表しているといえます。

実は、ポプテピピックが放送され、回を重ねるごとに「ボブネミミッミ、最初は苦手だったけどだんだん耐えられるようになってきた」、「最初は嫌いだったけど、今では本編よりボブネミミッミのほうが楽しみ」といった視聴者の声が徐々増えてきています。SNSや掲示板、ネット上での口コミや動画サイトでの書き込みなどに同様の証言は数多くあるので、気になる方はチェックしてみてください。

私は、こうした視聴者の心理の変化は「相反過程理論によって説明できるのではないか?」と考えました。先程、私が相反過程理論の説明に用いたプロセスに沿って、「ボブネミミッミが好きになっていく過程」をシミュレーションしてみましょう。

1.刺激が与えられると、先に「不快感」が現れる

すでにご紹介してきたようにボブネミミッミには、「絵柄・声優・原作ネタの改変」という3つの特徴があります。なかでも特に制作を担当したAC部が表す独特の絵柄には拒絶反応をしめす人が多く「いらない・キモい・狂気・つまらない・不安になる・怖い」といったネガティブな感想を漏らす視聴者も少なくありませんでした。このように、ボブネミミッミは絵柄を中心に「最初に不快感を想起させる要素が多く含まれている」と言えそうです。

2.しばらくすると「慣れ」によって不快感は弱まる

ボブネミミッミは毎回、本編中に複数回挿入されます。しかも、A・Bパートそれぞれで内容がまったく変わらないため、いくら刺激の度合いが強いとはいっても視聴者も次第に慣れていくことができるはずです。特に、Aパートでとまったく同じ映像が流れるBパートでは、刺激は相当弱まることでしょう。

3.続いて「快感」が現れる

基本的にボブネミミッミはネタこそ原作の4コマ準拠ですが、オチについては映像化に伴う改変が見られます。いくつかのネタについては、先にアニメ本編で描かれているものを再度ボブネミミッミが取り上げる、といったパターンもありました。「不快感」に慣れた後であれば、ボブネミミッミのこうした要素が好意的に受け取られていくようになっても不思議はありません。

制作を請け負っているAC部は、元々シュールな絵柄で知られており、本コーナーではメンバーが声優を務めています。いわば、「絵と声をよりシュールにしたセルフパロディ」を、「シュールギャグとパロディがウリな元作品中に挿入している」わけです。元々面白さを生みそうな要素は十分すぎるほど整っていると言えるでしょう。

4.しばらくすると快感は和らぎ、平常状態に戻る

こうした一連の過程を見ていくと、ボブネミミッミに対する人々の捉え方は、純粋に相反過程理論よって説明できる感情変化に基づくものであって、論理的なものではないことがわかります。実際、私が知る限り、ボブネミミッミを嫌いという人・好きという人の中で「どこがどう面白く、どこがつまらないのか?」を明確に説明している方はそう多くありません。ボブネミミッミについては、

「まだ慣れていないから不快感が勝っている」、「もう慣れてしまったから好きになった」

といった、感情的な変化しか自覚できないのかもしれません。