ノイエ銀英伝12話感想・考察その1「メカニックとの対立を回避したポプラン」

12話「死線(後編)」
~現場に波及する、意識の違いに基づく対立~

同盟軍を領土内に誘い込むラインハルトの策略により、同盟軍は補給の危機に見舞われていた。当初は平穏が保たれていた占領地住民との関係も破綻し、兵士たちは補給を待ちながら残り少ない食料を分け合っていた。

ジークフリード・キルヒアイス中将は、同盟軍の補給艦隊を捕捉、攻撃を仕掛ける。わずかな犠牲で補給艦隊を壊滅させた帝国軍は、ラインハルトの指揮のもと全面的な反撃を開始した。ウランフ中将率いる同盟軍第十艦隊は、ビッテンフェルト中将の帝国軍黒色槍騎兵艦隊と遭遇。ビッテンフェルトは惑星を盾にして死角からの攻撃を開始する。他の同盟軍艦隊も次々に帝国軍と接触し交戦状態に突入していく。

ヤン・ウェンリー率いる第十三艦隊は、濃いガス帯に覆われた周辺星域の特徴を利用し、
空戦隊による接近戦で敵を撹乱してからの脱出する計画を立てる。オリビエ・ポプラン大尉、ウォーレン・ヒューズ大尉、サレ・アジズ・シェイクリ大尉、イワン・コーネフ大尉ら、第八十八独立空戦隊出身のパイロットたちは、スパルタニアン(艦載機)で出撃し、帝国軍のワルキューレと戦闘を開始した。

ところが、機体は思うように動かず、ヒューズ、シェイクリらは戦死してしまう。帰投したポプランはメカニックのトダ技術大尉に詰め寄るも、彼らが補給不足のために十分な食事が取れていないことを知る。ポプランはトダに非礼を詫び、今度こそ帝国に一矢報いることを誓った。

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なぜラインハルトは同盟の動きを察知できたのか?

ラインハルトの計画では、補給が滞った同盟軍に後方からの補給が行われる際、それを襲った直後のタイミングで反撃することになっていました。補給が不足し、兵士たちが精神的にも肉体的にも疲弊する状況を待ってから攻撃することで、戦況を有利に導く意図があったと考えられます。

ですが、そのためには後方から補給艦隊が出撃したことをいち早く察知しなければなりません。劇中では特に語られていませんが、同盟軍の占領地周辺にも少数の偵察部隊を潜ませていたとみて間違いないでしょう。

今回の戦場は帝国にとっては自国領に当たります。当然、星域間の主要な航路はすべて把握しているでしょう。補給艦隊はイゼルローンを経て各前線部隊へ補給を届けるはずですから、それらの航路のいずれかに偵察部隊を潜ませておけば、動きを察知するのはそう難しくないはずです。

補給艦隊の司令官は「無能」だったのか?

キルヒアイス艦隊と接触した同盟補給艦隊の司令官は、呑気にチェスに興じるなど全く危機感のない様子でした。おそらく自分自身が最前線にいるという自覚がないために、緊張感を持たなかったのでしょう。2万隻もの敵艦隊が現れた際も、なぜ自分たち補給艦隊が狙われたのかその戦略的な意義を理解できていませんでした。

この司令官が軍人として無能だったのは間違いありませんが、どちらかというとこういった描写は「前線と後方との意識の差」を強調する演出として解釈したほうがいいでしょう。もしかしたら、前線で戦う各艦隊の中にも、彼のような「無能な軍人」はいたかもしれません。しかし、彼らはすでに補給に窮し、苦しい状況に立たされています。このように緊張感のある状態であれば、たとえ無能な軍人であっても生き残るために最善を尽くそうと試みることでしょう。

12話ではこの後、同盟軍と帝国軍との戦いが描かれますが、その際この司令官のようなわかりやすい無能な軍人は登場しません。ですが、それは「前線には有能な軍人がいて、後方には無能な軍人がいる」ということではなく、単純に危機感の違いが行動に現れた結果だと言えます。こうした演出は、華々しく戦う者たちを美しく描きながらも、特定の役割を持つ者たちだけが「悪役」に見えないようにする配慮だといえるでしょう。その意図はすぐ次のシーンに当たる「空戦隊とメカニックの衝突」にも現れてきます。

立場が違う者たちの「意識の違い」が描かれる

第十艦隊が帝国軍と接触したのを皮切りに、同盟軍の各艦隊は帝国軍との戦いに突入していきました。ヤンの第十三艦隊は撤退の準備こそ整えていたものの、すぐには引かず「ガスが濃い」という周辺星域の地の利を活かして接近戦を行った後、スキを見て脱出しようと計画します。すでに帝国領の奥深く進行してしまっているため、単純に引くだけでは却って追撃による危険が大きいと判断したのでしょう。

ポプランら空戦隊は出撃前には冗談を言い交わすなど強い自信と余裕を見せていました。彼らの描写は限られていますが、ベテランのパイロットであることはそのふるまいからひと目で分かります。ところが、戦闘に突入するや目立った活躍を見せることなく2名があっさり撃墜されてしまいました。戦いの最中、「照準が狂っている」、「出力が上がらない」といったセリフがあったように、彼らは整備不良によって思うように実力を発揮できなかったことが後に判明します。

当然、ポプランはメカニックを責め立てますが、対応したトダ技術大尉から「メカニックはほとんど飲まず食わずの状態にある」と告げられ思わず動揺する様子を見せました。メカニックらはトダ「技術大尉」という階級からもわかるとおり、兵士というよりも「技術屋」です。彼らのような技術将校は戦闘行為には参加せず、戦闘を行う兵士たちのサポートを行います。

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1017336845

人的資源が枯渇している同盟の現状を考えれば、民間から徴用されたメカニックも数多くいたでしょう。さらに、補給が滞っている前線では、いざというときに戦闘に参加しない彼らへの食料配分は、それ以外の兵士たちと比べてかなり減らされていたと考えられます。戦いに負ければ彼らも命が危ないわけですから、さすがに意図的に整備ミスを見逃した可能性はないでしょうが、自分たちとは違い十分な食事をとっているパイロットたちに対して、鬱屈した感情を抱えながら整備を行っていたかもしれません。

ポプランは事情を察するや、すぐ彼らに謝罪しましたが、もしそうでなければ同盟軍は通常の士官と技術士官との間に見えない軋轢を生じさせてしまっていたかもしれません。あるいは、劇中で描かれていないだけで、同様の問題は各艦隊の、さまざまな場所ですでに顕在化しているとも考えられます。

11話「死線(前編)」における主要なテーマは、フォークやロボスといった司令部、本国にある最高評議会と前線との「意識の違い」です。特に司令部と前線との対立は危険な水準に達しており、「中間管理職」であるグリーンヒル総参謀長は頭を悩ませていました。

今回は、こうした部門ごと・立場ごとの意識の違いがまた別の側面から描写されたといえます。ポプランは自分と異なる立場にあるものの意識に触れ、行いを正しましたが、フォークやロボスには未だそれができていません。他者を理解し現実を正確に受け止められるものと、そうでないものがそれぞれどのような今後を歩むのか注目していきましょう。