ポプテピピック第6話「#6 第30期電脳戦」を考察

ポプテピピックもいよいよ第6話、折返しとなる地点に差し掛かっています。ギャグアニメである以上、どうしても視聴者に慣れられてしまうとその面白さが薄れてしまいます。回を増すごとにどんどんハードルが上がっていくわけですが、制作陣はどのような演出によって新しい笑いを提供してくれるのでしょうか?

ポプテピピック「#6 第30期電脳戦」の内容まとめ

キャラクターボイス

Aパート:三瓶由布子(ポプ子)、名塚佳織 (ピピ美)

両者の共演作品:

http://lain.gr.jp/voicedb/individual/costar/930/cowork/491/page/1

Bパート:下野紘(ポプ子)、梶裕貴(ピピ美)

両者の共演作品:

http://lain.gr.jp/voicedb/individual/costar/918/cowork/2010/page/1

ヘルシェイク矢野

「進路相談でパラディンになりたいって言ったら怒られた」と愚痴るポプ子。しかし、ヘルシェイク矢野のことを考えていたピピ美は完全に上の空で、怒られてしまう。

マグマミキサー村田

「ヘルシェイク矢野」の続き。パラディンを諦め、魔物ハンター(Bパートでは唐揚げ屋さん)を目指す旨をピピ美に語るポプ子。しかし、相変わらずピピ美は上の空。「またヘルシェイク矢野のこと考えてる」と思うポプ子だったが、実はピピ美の頭の中にあったのはマグマミキサー村田のことだった。

#6 第30期電脳戦

日本将棋連合四天王の一人目、鎌瀬将一七段と挑戦者ポプ子アマが将棋で対局する。鎌瀬七段は1手も指すことなく投了。ポプ子の背後には「神の一手」を持つピピ美が憑いていた。

https://dic.nicovideo.jp/a/%E8%97%A4%E5%8E%9F%E4%BD%90%E7%82%BA

ポプ子は続く第35期女王・イッテゾン・ちえこ、第123代永世名人・億千万京兆も撃破。だが、敗北したイッテゾン女王は砂に変わり、億千万永世名人は機械だったということが判明する。「お前には真実を知る資格がある」と億千万に促されたポプ子は、ピピ美とともに最上階へと向かっていく。

最上階でポプ子を待ち受けていたのは、神の一手を極めしマザーAI・PP1000だった。PP1000は、今までポプ子に憑いていたピピ美は、「自分のホログラムに過ぎない」と告げる。解説の松林角太郎九段は、「最高の生身の棋士を作り出し、それを打ち破ることがPP1000の目的」と分析。ポプ子に憑いていたピピ美は離れ、PP1000との対局が始まる。AIは将棋研究の果てに、「人間を支配することで将棋界をより良くする」という答えを導き出したのでは、と仮定する松林九段。聞き手の女流三段・一之橋歩は「怖いですね」と感想を漏らす。

激しい攻防の末、2人がいたビルの最上階は崩壊。生き残ったポプ子は、声を頼りにピピ美を探す。ピピ美はリボンだけの姿に成り果てていたが、AIの核となる部分は無事だった。本当にこれでよかったの?と尋ねるポプ子に、ピピ美は元気よく「OK!ブラボー!」と応える。

ボブネミミッミ「ご当地◯◯」

初めての土地にやってきたボブ子とミミ美。ボブ子は「ご当地三点倒立」を始める。「は?」と理解に苦しむ様子のミミ美に対し、ボブ子はご当地さかあがり、ご当地組体操、ご当地ピッチャー第1球を投げました、ご当地空振り三振、ご当地甲子園初戦敗退を披露する。ミミ美は最後までボブ子の行動を理解できない。

彼ピッピ

テレビを見ていたポプ子とピピ美。自分の彼氏を「彼ピッピ」と呼ぶ女性に「ないわー」というポプ子。ところがピピ美は「私は悪くないと思う」と真逆の反応。思わずポプ子は「ピピピッピ」とつぶやく。

ペンライト

ライブ会場らしきところで、ペンライト(サイリウム)を振って応援するポプ子。そのとき突然ペンライトがポプ子に対して語りかけてくる。「我が名は・・・」と言いかけるペンライトを遮り「ディムロース!」と叫ぶポプ子。しかし、ペンライトは「違う」と否定。

https://dic.pixiv.net/a/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%A0%E3%83%AD%E3%82%B9

ポプテピクッキング

バレンタインデーに向けて、ポプ子とピピ美はチョコレート作りに挑戦する。「ストップ」というまで砂糖を入れるとポプ子に伝え、砂糖をボウルに入れ始めるピピ美。ポプ子は「ストップ」というが、ピピ美はやめることなく砂糖を入れ続けていく・・・。

ボブネミミッミ「二度寝」

学校へ行くため、お布団くんに別れを告げるボブ子。しかし、お布団くんは敷布団くん、カーテンくん、安眠枕くんと協力してボブ子に二度寝をさせようとする。本来ボブ子を起こす役割を持つはずの目覚まし時計くんまで自爆し、ボブ子は全員にお礼を言いながら二度寝する。

YouTuber

YouTuberのように、視聴者に見てくれたお礼を言い、チャンネル登録を促すポプ子。その後、ニコニコしていた表情が一変、真顔で「登録しなかったそこのお前、今からお前ん家行くから」と告げる。画面が暗転し、延々と玄関のチャイムが鳴る音だけが響き続ける(Bパートは玄関をノックする音に変わっている)

より詳しく全体の流れを振り返りたい方は、本編を再びご覧になるか、以下のリンク先を参考にしてください。

http://anicobin.ldblog.jp/archives/52949004.html

本編中で使われたパロディの元ネタについては、下記のリンク先に詳しく記載されています。

http://mr-bluesky.hatenablog.jp/entry/2018/02/15/151442

https://matome.naver.jp/odai/2151830906467538501

ポプテピピック6話のポイント

「見方によって解釈が異なるネタ」が多数

6話の流れを要約した部分をもう一度確認してもらえばよく分かるのですが、今回の要約は「」書きで表現した部分が非常に多くなっています。言い換えれば、そのようにしか表現できなかった箇所が多いということです。

たとえば、冒頭の「ヘルシェイク矢野・マグマミキサー村田」の部分を見てみると、ピピ美が「ヘルシェイク矢野のことを考えている」ということは、ピピ美本人にしかわかりません。だからこそ、ポプ子も二度目のとき、ピピ美が先程とは異なって「マグマミキサー村田」のことを考えているということがわかりませんでした。

アニメオリジナルパートである「#6 第30期電脳戦」についても同じことがいえます。劇中、敵役であるPP-1000は自身の目的をはっきりとは明言していません。視聴者に対しては、解説の松林九段が「こうではないか」というそれらしい説を教えてくれていますが、それが真実である保証はどこにもないのです。元ネタになっている将棋の解説もそれと同じで、指し手の良し悪し、形勢判断などは解釈する人によって異なる場合もあります。

このように、明確な「答え」が出せないネタを多く扱っているのが今回のポプテピピックの特徴だといえるでしょう。

ポプテピピック6話の演出意図を考察

今回のテーマは「トリックアート」か?

ポプテピピックの5話は「風刺」をテーマにした回だったと私は解釈しています。それに対してこの6話は「トリックアート(トロンプ・ルイユ)」がテーマだったのではないかと考えられます。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%83%A6

トリックアートとは、目の錯覚を利用して見る人を騙すような意図が盛り込まれた芸術技法のことです。Wikipediaによれば、

シュルレアリスムにおいてよく用いられた手法・技法である。

とされており、シュールギャグが作品を形成する大きな柱のひとつであるポプテピピックとは相性がいい手法であるといえます。

より正確にいうなら、ひとつの絵の中に別の絵を紛れ込ませる「だまし絵(ダブルイメージ)」のほうが近いと言えるかもしれません。ただし、どちらも基本的には視覚を中心にした芸術手法のことを指す言葉なので、今回のポプテピピックで使われた演出意図を指す言葉としては正確とは言えないでしょう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9A%A0%E3%81%97%E7%B5%B5

なにか適切な言葉がないか、考えてみたのですがいいものが思いつきませんでした。

解釈の仕方次第でネタはどのようにも評価できる

6話の特徴が最もわかりやすく現れているのは、やはりアニメオリジナルパート「#6 第30期電脳戦」でしょう。このパートは、いきなりポプ子が対局しているシーンから始まります。4話「#4 SWGP2018」と比較すると、あちらが「スポーツバトルもの」、こちらが「知的バトルもの」と表現できるのですが、SWGPのほうでは「ポプ子とピピ美の出会い(過去の因縁)をしっかり描いていたのにもかかわららず、今回はそうした描写はありません。

ポプ子は将棋連合四天王を次々に撃破して行きますが、2人目のイッテゾン女王、3人目の億千万永世名人は明らかに人間ではありません。それなのに、解説と聞き手の2人も、ポプ子も特にそれに驚くリアクションをしていないため、視聴者も「ああ、ここはそういう世界なんだ」と納得してしまいがちです。しかし、これも本来であれば必要な説明をあえて端折ることによって、「解釈によってどうとでも取れる演出」が意図的に組み込まれていると考えられます。ちょうど、SWGPでは「ポプ子がロボットだとバレて逃げ出す」という終わり方をしたのとは対照的です。一見「本当のスケルトンとは違う、ルール無用のバトル」のように見せかけていますが、SWGPのほうはきちんとルールが存在していたのです。

最終的に、ポプ子は将棋連合を支配するマザーAI・PP-1000と戦いこれに勝利します。しかし、やはりPP-1000自身の口から、自分の目的が明確に語られることはありませんでした。視聴者は松林九段が語る解釈を信じるか信じないか、自分で選択することになります。

将棋界への風刺と取るか否かも「見る人次第」

そして、メタ的な視点に立つと、この松林九段の発言は実際の将棋界に対する風刺・皮肉になっていると解釈することもできます。今回、パロディの対象として「将棋とAI」が取り上げられたように、近年、将棋界は人工知能とさまざまな面で関わり、その影響を大きく受けていました。ときには、事件や騒動を巻き起こし、一般のニュースなどで取り上げられる機会も少なくありませんでした。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%86%E6%A3%8B%E9%9B%BB%E7%8E%8B%E6%88%A6

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%86%E6%A3%8B%E3%82%BD%E3%83%95%E3%83%88%E4%B8%8D%E6%AD%A3%E4%BD%BF%E7%94%A8%E7%96%91%E6%83%91

いわば、将棋界は、現在最も「AIとどう付き合っていくべきか」という点が強く問われている業界だったといえるのです。

見ようによっては、今回の6話のネタはこうした将棋界に対する風刺・皮肉になっていると解釈することもできます。たとえば劇中において松林九段は、「AIは人間を支配することで将棋界をより良くしようとしている」と語っています。聞き手の一之橋女流三段は、それに対して「怖いですね」と返しました。このシーンは、解釈の仕方によって無数のとり方ができます。

  • AIは「将棋界を良くするためには人間の存在が邪魔だ」と考えているのか?
  • 松林九段もその考えを支持しているのか?あるいは、客観的に紹介しているだけか?
  • メタ的な視点で現実の将棋界を見たとき、上記の説は正しいと言えるのか?
  • 聞き手の一之橋女流だけがこの説に恐怖の意思を表しているが、その一之橋女流自身が劇中では一番信用できないと思わせるような描写が多い。

このように、少し気になるところをピックアップしただけでも論点が無数に出てきます。どこをどう理解するかによって解釈が無限に生じるため、明確な答えをだすのはほぼ不可能だと言っていいでしょう。

こうした「とり方によってどうとでもなるようなネタ」ばかりを集め、それをパロディやシュールネタとして表現したところにポプテピピック6話の面白さが凝縮されているのではないでしょうか。