けものフレンズ2話感想その19:運転席を持ち上げたサーバルが隠していたもの

諸注意

前回記事:【2話 その18】アニメ感想「けものフレンズの謎」:橋を架けるアイデアを思いつくかばんちゃん

【Bパート 運転席の運搬に挑戦】

かばんちゃんの思いつきにより、川に橋をかけることに成功した一行。サーバルが試しに橋を使ってみたところ、見事向こう岸に渡ることに成功しました。

かばんちゃんのアイデアにジャガーは驚き、「魔法みたい」と褒め称えます。フレンズの間に魔法という概念があったことがわかりますが、このあと特に関連する描写は出てこないので「トラブルメーカー」などと同じく単なる比喩表現の単語として知っていたのでしょう。コツメカワウソはサーバルに続いて橋を使いたがり、やはりこの橋づくりも遊びの延長として捉えていることがわかります。

運転席を一人で持ち上げるサーバルの驚異的な力

このあとは実際に、本来の目的であった「ジャパリバスの運転席を向こう岸まで運ぶ」ことに挑戦するわけですが、そのときとった方法は驚くべきものでした。なんと、サーバルが一人で運転席を両手で抱え、橋を使ってジャンプし対岸へ渡るというものです。

いくらフレンズが普通の人間とは違うとはいえ、自分より明らかに重いものをひとりで持ち、しかも連続して長距離をジャンプする光景に驚かされた方も多いと思います。このシーン、実際にやったとしたらどうなるか科学的に検証しようかとも思ったのですが、「空想科学読本」で有名な柳田理科雄氏が検証した記事があるので、そちらを読んでいただくのが早いと思います。

【空想科学ゲーム読本:けものフレンズ特別回】すごーい! サーバルちゃんのガチ跳躍は高度1km以上!? さばんなちほーが誇る脅威のジャンプ力を科学的に分析してみた

リンク先の記事を参照してもらえばわかりますが、サーバルのジャンプ力を科学的に検証すると「何も持っていない状態でジャンプ力は1km以上、運転席を持っている状態でも103mの最高高度に達する」とのことです。

サンドスターとフレンズの技

このシーンについては、「実際に飛んでしまったんだから、どうやったにせよそれだけの力があった」と考えざるを得ないでしょう。ですから、今回はそれとは別の側面からこのシーンを考察してみたいと思います。

後のシーンで判明することですが、フレンズには人間とは大きく異なる特徴が2つあります。

  • 肉体的な活動に「サンドスター」を消費する
  • 一人ひとりが特別な技を持つ

サンドスターは、フレンズが生まれるきっかけにもなっている物語上の重要な存在です。1話でさばんなちほーの背後に見えていた「山」の火口から吹き出している光沢のある粒子状の物質で、このサンドスターが「動物、あるいはその遺物」に触れるとフレンズが生まれるということが2話冒頭のラッキービーストのセリフから判明しています。

後のストーリーの中で、「フレンズは肉体的な活動にサンドスターを消費する」ことを示唆するシーンがあり、そのためフレンズは筋肉など肉体の力だけでなく、電気のようにサンドスターをエネルギーとして使っている可能性があります。

フレンズが持つ「技」とは、1話でサーバルがセルリアンを倒すときに見せたツメによる一撃のように、元となった動物の特徴を活かした必殺技のようなものです。後に、フレンズが一時的に能力を高める「野性解放」と呼ばれる変化も登場しました。

サーバルが見せた力は一時的なものだった?

サンドスターとフレンズの技、そして野性解放がなぜ重要なのかというと、実はこのシーンでサーバルが驚異的な力を発揮できたのはこれらの力が背景にあるからではないか、と考えることもできるはずです。

まず、サーバルが「普段から1km以上ジャンプできる」のであれば、そもそもストーリーのいろいろな部分で辻褄が合いません。ですから、このシーンで運転席を持ち上げることができたのは「火事場の馬鹿力」のようなものだったと考えた方がいいでしょう。

従って、「肉体だけでなく、サンドスターをエネルギーとして使った」か、もしくは「フレンズの技や野性解放を使った」か、いずれかの方法で一時的に身体能力を高めていたと考えたほうが辻褄が合います。

実際に、サーバルが「野性解放」を使っていた可能性を示唆する演出もあります。野性解放を使っている間、フレンズは「瞳が光る」という特徴をみせることが後に描かれますが、実はこの運転席を運ぶシーン、運転席を持ち上げ、最初にジャンプして以降サーバルの顔(瞳)が一度も描かれないまま川を渡りきってしまうのです。ですから、もしかしたら顔が写っていない間、サーバルは野性解放を使用して瞳が発光していたのかもしれません。

実はこれまでにも描かれていた「フレンズの身体能力の高さ」

本当は、このシーンで重要なのは、「サーバルが驚異的な力を発揮できた理由」ではありません。むしろ、メタフィクション的な視点に立って、「なぜこんな破天荒な運び方を選んだのか?」という演出上の意図を探ってみましょう。

前回の考察から、運転席を向こう岸に運ぶ方法には「運転席を支えられる力がある運搬者が、川の上の足場を使って渡らなければならない」という制限が加わっていると説明しました。これらの条件を見たさないと、それまでのセリフや演出との整合性がとれないからです。

言い換えると、これらの条件を満たしさえすれば別の方法で運転席を運んでもよかったわけです。たとえば、実際に作った橋は途切れた足場をロープで繋いだ「浮橋」のような構造になっていますが、もう少し足場同士の間隔が狭ければ、ジャガー・コツメカワウソも加わり3人で運転席を持って運んでもよかったはずです(かばんちゃんは運転席を持ち上げる力がない)。

しかし、そのように描かなかったということは、このシーンで「フレンズには、人間を上回るすごい力がある」という部分を描きたかったからだと考えられます。よくよく考えてみれば、いくら泳ぎが得意とはいえ3人のフレンズを乗せたいかだを引っ張りながらゆうゆうと川の流れの中を泳ぐジャガーも、人間を遥かに上回る身体能力があるのは間違いありません。1話でかばんちゃんを助け、セルリアンの攻撃を受け止めたカバの戦闘能力も人を遥かに上回るものでしょう。

サーバルの馬鹿力は「視聴者への目くらまし」だった?

時系列的に現してみると、

  • さばんなちほーでみせたサーバルの身体能力
  • セルリアンとの戦闘で見せたサーバル&カバの戦闘能力
  • ジャガーの遊泳能力
  • サーバルの運転席運搬

というふうに、段階的に「フレンズの身体能力は人間を遥かに上回っている」ということを描いてきていることがわかります。とはいえ、今回のシーンは「いくらなんでも落差が大きすぎる」というふうに考えた人も多いのではないでしょうか?私はこのシーンは別の部分から視聴者の目を背けるためにあえて落差を大きくしているのだと思います。

その「視聴者の目を背けさせたい部分」とは「かばんちゃんの成長」です。もしこのシーンで、運転席の運搬方法が「フレンズ3人で力を合わせて運ぶ」といったより想像しやすい方法であったとしたら、どうだったでしょうか?おそらく運搬方法を思いついたかばんちゃんの発想力が、視聴者の心に大きく印象づけられたことでしょう。

かばんちゃんはそれまでの自分の限られた経験や前後の状況から「この場所には元々橋がかかっていたのではないか?」という推理を行い、しかもそれを組み立てるという「驚異的な知力」を発揮しています。かばんちゃんはこの後も毎回、驚異的な思いつきによって問題を解決していきますが、「橋をかける」という解決策は第2話に持ってくるネタとしては明らかに過剰なものです。普通はもっとシンプルな解決策でなんとかなる程度の問題を設定するでしょう。

考えてみてください。昨日まで「紙飛行機を作って敵の気をそらす」というようなことをやっていた子が、次の日には「川に橋を架けていた」のです。本来、演出の落差が大きいのは「かばんちゃんの知力」の描かれ方なのです。

かばんちゃんの有能さを隠すための演出

私が思うに、まず2話のストーリーができあがった時点で「川に橋を架ける」という解決策をかばんちゃんが思いつくことが決まったのだと思います。このオチは、今までの解説でも説明したとおり様々な伏線から成り立っているので、簡単に変えることはできません。

しかし、おそらくそこまで決まった時点で「2話で橋をかけちゃうの?もうこの子(かばんちゃん)、この先なんでもできちゃうって思われないかな?」と不安になったのではないかと思います。そこで、「かばんちゃんの急速な成長」という落差の大きい演出から目をそらせるために、よりビジュアル的にインパクトの大きい「サーバルの馬鹿力」を描いたのではないか、というのが私の仮説です。

実際にはたつき監督に聞いてみない限り確かめようはありません。しかし、ここで見せたサーバルの馬鹿力が、さらにその後の展開の伏線として活かされているのも見事なところです。具体的にどんなシーンで活かされるのかは、今後の考察で明らかにしていきましょう。

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