「マツコの知らない世界」から学ぶ水族館のマーケティング

2017年5月30日放送の「マツコの知らない世界#105 水族館&インスタントカメラの世界」から、水族館のマーケティング戦略を学んでいきたいと思います。

ドラァグクイーンのマツコ・デラックスが、様々な業界に詳しい専門家をゲストに迎え、業界の最新動向や普通は聞けない裏話を聞く「マツコの知らない世界」。105回めに当たるこの放送では「水族館プロデューサー 中村元」さんがゲストです。

中村さんはかつて、三重県の鳥羽水族館に勤めていました。当時、水族館としては初めての「広報室」を設立。イルカの出産シーンなどを動画に取ってテレビに送り、それを見た視聴者に水族館を訪れてもらうという斬新なマーケティング施策を行っていました。

この方法は、現在デジタルマーケティングにおいてよく用いられる「コンテンツマーケティング」の手法と全く同じです。

初心者でもわかる!コンテンツマーケティングとは?

現在は経験活かして、全国の水族館をプロデュースしているという中村さん。彼が番組中で紹介した「この夏行きたい水族館」の情報から、使えるマーケティングテクニックをご紹介しましょう。

誰も水族館に魚なんて見に来てない

中村さんは、「水族館に来るお客さんは、誰も魚なんて見ていない」と語ります。魚の特徴を紹介する学術的な展示はもちろん、ジンベエザメのような目玉展示ですら、実際にはほとんどのお客さんに見られていないという点を明らかにしました。水族館に魚を見に来る人はほんの一握りという中村さんの主張には、マツコも大いに同意していました。

その後、放送ではカットされてしまいましたが、「水族館での会話は『キレイ』『カワイイ』『誰々に似ている』ばかり」というテロップがあり、水族館のお客さんは「魚以外のことを求めている」という重要なポイントが示されます。

中村さん:入場から5分が興奮度MAXです。お金を払ったばかりだから「元を取らなくちゃ」と誰もが思うわけです。でも、古いタイプの水族館だと入場直後にはしょうもない展示があったりする。そうするとそのしょうもない展示の前で大混雑がおこってしまうんです。

マツコ:世界中の人を少しづつディスってるわね。

人気の水族館に共通するポイントは「水中にいる気持ちになれる」こと

魚を見ていないのだとしたら、人々はなぜ水族館に足を運ぶのでしょうか?中村さんはその理由を「水中にいる気持ち」を体験したいからだと話します。そのために必要なものである、「巨大な水のかたまりのような水槽=水塊」がある水族館は人気になる、とのことでした。水塊とは、以下のような条件を満たす水槽のことです。

  • 水の流れを感じられる
  • 海の広さを感じられる
  • 巨大である

中村さんが厳選し、番組内で紹介された「水塊が美しすぎる水族館」の特徴を続けてご紹介しましょう。

「水中にいる気持ちになれる」水族館

マリンワールド海の中道(福岡)

こちらの水族館には、四方を水槽に覆われ、中央にも柱上の水槽が佇む「うみなかCUBU」があります。この中に入ると、完全に水の中に入ったような気持ちが体験できます。自分の真横をアザラシが通り過ぎていくこともあります。

このほか、太陽の光が差し込む巨大水槽に、人工的に波を起こすことで九州の玄界灘の荒波を再現した「玄界灘水槽」も必見です。

こうした「水中を体験させる仕掛け」によって、訪問客はまさに「水中にいる気持ち」を体験できます。どんな魚がいるか、といったことは一切関係ありません。

中村さん:水族館はデートに最適な施設なんです。動物園やほかのテーマパークは、夏の暑い時期などには「いきたくない」と女性から断られてしまうこともあるでしょう。でも、水族館はちょっと知的で健全、薄暗いしこんでいるから自然な流れで手をつなぐこともできます。

加茂水族館(山形)

1960年台に建てられた水族館ですが、長らく売上が低迷、廃業の危機を迎えていました。しかし、2014年に「クラゲ」を展示の中心としたリニューアルを敢行し、見事復活を果たします。展示している50種類3万匹以上のクラゲはギネス世界記録も達成しています。

クラゲドリームシアター

クラゲ自体を見るのではなく、クラゲを通じて「浮遊感」を楽しめる水槽。クラゲに特化したお陰で最低年間9万人にまで落ち込んでいた入場者数が70万人にまで回復しました。

中村さん:実は、クラゲの数でギネス世界記録をとっても入場者数は回復しませんでした。入場者数を回復させた鍵は「メディアへの露出」です。館長が「クラゲを食べる会」というものをつくり、クラゲアイスやクラゲラーメンといった名物をメディアで宣伝したんです。それらがニュースになって入場者数が増えていったんです。

私も当初は、「クラゲ世界一」という形でこの水族館をメディアに宣伝しましたが、全く取り上げてくれませんでした。ところが、「クラゲラーメンというものがある」という言い方で伝えたら、すぐに取り上げてくれました。

マツコ:ダメだな・・・メディアって・・・。

名古屋港水族館(愛知)

400億以上かけてつくられた、日本最大級の水族館です。

シャチが見られる巨大水槽。日本ではシャチが見られる水族館はここと鴨川シーワールドだけです。

イルカパフォーマンスショーの水中部分を鑑賞できる、水中観覧席。本来であれば水中に潜らないと見られない体験を楽しめます。巨大な水塊ですが、実はこれ以上の超巨大水塊があります。

多数の魚達が泳ぐ「黒潮大水槽」。イワシの群れに餌を投入することで、イワシが集団で餌を食べる「イワシトルネード」を見学できます。イワシの群れを通じて水の大きさや躍動感を体験できる水槽です。

水塊がなくとも集客に成功している水族館

水塊があれば、巨大な水の質量によって「水中にいる気持ち」を再現できます。しかし、巨大な水塊をつくるにはかかる費用も膨大なものになってしまいます。番組で中村さんが続けて紹介したのは、水塊のように大きなコストをかけず、集客に成功している水族館の事例でした。

竹島水族館(愛知)

竹島水族館には、巨大な水塊はひとつもありません。では、どうやって集客しているのかというと、ポイントのひとつが「オリジナリティの高いユニークな解説」です。深海魚の一種であるツボダイが展示されている水槽には「ツボダイはうまいのか?」という解説文があります。学術的な紹介とは違い、思わず見たくなってしまう解説文ですね。

こうしたユニークな解説は、館長の手によって書かれています。学者さんを雇って専門的な紹介文を書いてもらう資金的な余裕がなく、仕方なく自分で書いた所、お客さんに興味を持ってもらうことができたのだとか。最低12万人にまで落ち込んでいた来場者も、こうした施策が功を奏し現在は39万人にまで回復を果たしました。グロテスクといったイメージのある深海生物を「食べてみる」といったユニークな見方が、独自の集客の成功につながっているのです。

サンシャイン水族館(東京 池袋)

限られた空間をうまく利用して、「小さな水塊を大きく見せている」水族館です。

中村さん自身がプロデュースした「ラグーン水槽」。本当は狭い水槽を「奥に行くほど暗くする」ことによって広く見せています。

また、2017年には「天空のペンギン」を始めとした新しい展示もスタートします。天空のペンギンは、屋上に水槽を造ることで、ビルの間を泳いでいくペンギンが、まるで空を飛んでいるようにみえる展示。「ビルの中にあり、広さが限られている」という点は、本来サンシャイン水族館特有の弱点でした。しかし、その点を「屋上を利用する」という方法でカバーし、逆にメリットにつなげることに成功したのです。

まとめ:成功している水族館から学ぶマーケティング

  • 魚ではなく、「水中にいる気持ち」を体験できる「水塊」をつくる
  • 水塊がつくれなければ、ユニークな展示で持ち味を活かす
  • 「資金がない」、「場所が限られる」といったデメリットを独自性に変える

興味を持たれた方は、ぜひ今度水族館に足を運んでみてはいかがでしょうか?