けものフレンズ1話感想その12:「IQが下がる」シーンに隠されたサーバルの気遣い

諸注意

前回記事:

けものフレンズ1話感想その11:紙飛行機へのリアクションからわかるサーバルの複雑な内面
前回記事 【1話 その10】アニメ感想「けものフレンズの謎」:得意なことを見つけ、急速に成長するかばんちゃん 【Bパー...

【Bパート セルリアン撃退後、サーバルがかばんちゃんのもとに近づくシーン】

前回の記事で、

  • 危機が去ったにもかかわらず、サーバルがかばんちゃんにゆっくり近づいたり、うつむいて顔をしかめているのが不自然である
  • サーバルがそうした行動をとったのは、「保護すべき存在だったかばんちゃんに、逆に助けられてしまったこと」、「それによって、『頼られる存在』という自分の立場が崩壊してしまったこと」が理由である
  • サーバルは一見純真そうに見えるが、実は「他人から認められたい。頼りになる存在になりたい」というコンプレックスを抱えている

といったことを考察してきました。今回は引き続き、紙飛行機を見た後のサーバルのリアクションと、その理由を元にサーバルのキャラクター像について考察を進めていきましょう。

前回の記事では、サーバルがかばんちゃんのそばにすぐに駆け寄らず、歩きながらうつむいて「考えていたこと」の内容について以下のような3つの可能性を示唆しました。

サーバルの保護が必要ないレベルまで、かばんちゃんは成長した

  1. セルリアンに襲われたフレンズ(アードウルフ)を助けられなかったことを悔やんでいる
  2. かばんちゃんを守るはずが、逆に守られてしまったことを悔しがっている
  3. 紙飛行機という異質な存在と、それを生み出したかばんちゃんに対して恐怖を感じている

このうち、1番めについては前後の状況から考えて可能性は薄いこと、2番めについては「案外、これが主要な理由だったのではないか」と考えてきました。今回は3番目の理由に考察を進めていきましょう。

3番目の理由について、「紙飛行機という『異質な存在』」、「かばんちゃんに対して『恐怖』を感じている」などと書きましたが、これはその後のリアクションを見る限りでは少し大げさな言い方であることがわかります。それよりも2番目の理由との関連性を考えてみるべきでしょう。

すでに説明してきたとおり、サーバルにとってのかばんちゃんは、世の中のことを何も知らない「新入社員」、あるいは自分が保護してあげないといけない「弟・妹」のような存在でした。しかし、新入社員や弟・妹もいずれは成長するものです。いつかは、もう先輩やお姉ちゃんの保護はいらないくらいのたくましさを身につけるときがやってくるでしょう。

以前の考察でご説明したとおり、かばんちゃんはこの1話の中でも驚くほどの成長を見せています。そういった意味では、すでにサーバルの保護が必要ないレベルにまで成長を遂げたといっても過言ではありません。

参考:【1話 その10】アニメ感想「けものフレンズの謎」:得意なことを見つけ、急速に成長するかばんちゃん

  • 「先輩として、仕事のやり方を教えていた後輩がやがてある分野で自分を遥かに上回るようなスキルを身につけるほどに成長した」
  • 「姉として、幼い妹の面倒を見てきたが、成長してもうあれこれ世話を焼かなくても自立して生活していけるようになった」

このときのサーバルの心情を理解するには、こういったシーンを思い浮かべてもらえばいいのかもしれません。

「別れ」を予感し、あえて明るく振る舞うサーバル

保護すべき対象の成長は、嬉しいことである反面、寂しいことでもあります。なぜなら、それは同時に自分がもう相手から「頼られる存在ではなくなってしまった」ということを意味するからです。それこそ、けものフレンズにちなんで動物に例えるのなら、

野生動物の子どもがひとりで生きていけるようになり、親元を離れる

といった光景のほうが、よりイメージに近いかもしれません。

サーバルは、紙飛行機という見慣れない存在に恐怖したわけでも、それを生み出したかばんちゃんに恐怖したわけでもありません。自分を頼りにしてくれる存在、自分が保護すべき相手だった存在が、もう保護を必要としないくらいに成長を遂げ、自分という存在を必要としなくなることに「恐怖」を感じていたのです。

以上のような考察を前提とすると、この後のサーバルのリアクションに対する見方も大きく変わってきます。サーバルは大げさに紙飛行機に興奮し、かばんちゃんにどうやって作ったのかと激しく問いただします。一見すると、純真なサーバルが興奮して大はしゃぎしているだけに思えますが、それは表面上のことに過ぎません。実際にはサーバルは、

  • たくましく成長したかばんちゃんとの別れの時期が近いこと
  • それによって、また誰からも頼りにされない自分に戻ってしまうこと

を強く意識しています。そして、それらの不安をかき消すため、自分が不安を感じていることをかばんちゃんに悟らせないために大はしゃぎしているのです。私に言わせれば、これもサーバルのコミュ力が高いことを示すシーンのひとつです。「自分が不安になっていることをかばんちゃんに悟らせて、かばんちゃんまで不安にさせないようを明るく振る舞う」という、極めて高度なコミュニケーションスキルを発揮しているからです。

私がこのシーンに関連して披露した解説は、すべて「サーバルがうつむいて険しい表情をしている」という一瞬の演出がすべての論拠になっています。それ以降は、仮説に仮説を積み重ねての考察なので、ある意味では物証が薄弱であるとも言えるでしょう。しかし、こうした細かな演技・演出に隠されたヒントを拾い上げていくと、けものフレンズという作品をより深く楽しむことができると思います。

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