前回記事:【3話 その5】アニメ感想「けものフレンズの謎」:トキはなぜ歌を歌うのか?
【Aパート ラッキービーストの余計な一言】
ラッキービースト:トキの鳴き声は、カラスに似た濁った声でとってもうるさかったんだって。
トキ:うぐっ!
かばんちゃん:ぼ、僕じゃないです!僕は・・・。
トキ:ぐわぁぁ・・・。(手の力を緩める)
かばんちゃん:うわあああ!僕は好きですよ!トキさんの歌!
トキ:ホント?照れるわね。
かばんちゃん:はい、大きくて、遠くまで聞こえそうですよね。
ラッキービースト:鳴き声は鼻声っぽいとも言われ、それを題材にした昔話なんかもあったんだって。
トキ:うぐわぁぁ・・・。(手の力を緩める)
かばんちゃん:わああああ!ぼ、僕じゃないです!僕じゃないですから!ラッキーさん!わかりましたから!大丈夫ですから!
かばんちゃんが自分のファンだと知り、喜んでいたトキですが、ラッキービーストの余計な解説によってとんだギャグシーンになってしまいました。
ラッキービーストの発言はいたずら目的だった?
そもそも、ラッキービーストはどうしてこんな発言をしたのでしょうか?理由としては以下のようなことが考えられます。
- ガイドロボットとしての役目に従い、動物の解説をしようとした
- 喜んでいるトキを見ていたずらをしようとした
- かばんちゃんを怖がらせていたずらをしようとした
ラッキービーストは、はっきりと明言されてはいないものの、ここまでの描き方を見る限り明らかにジャパリパークのガイドロボットです。ですから、動物の解説は本来の役割を果たす仕事になります。
しかし、このシーンのラッキービーストには明らかに不審な点があります。「ナキゴエハハナゴエッポイトモイワレ」などと、まるで本当に機械音声のような棒読みでトキの情報を解説しているのです。これは、「ロボットだから、トキががっかりするのも気にせずにネガティブな内容の解説を行った」、あるいは「わざと淡々と解説しているふりをしていたずらをしようとした」という2通りの解釈ができます。
私はどちらかと言うと、「いたずら説」の方をとります。ラッキービーストは意外と感情豊かなキャラクターです。これまでのシーンの考察でも明らかにしてきましたが、一見無感動なロボットに見えて実はおちゃめな面もあり、色々なシーンで今後もそうした面が描かれていきます。私に言わせればサーバルよりも感情豊かなキャラクターといってもいいと思います。
空から見るジャパリパークの各ちほー
ここでトキとかばんちゃんの眼下にあるが鮮明になります。前後のカットを見る限り、おそらく雲の合間を抜けたのでしょう。
トキ:あなたはサバンナから来たんだっけ?あんな暑いところよく通ってきたわね。
かばんちゃん:はい、暑かったです。トキさんはどちらから来たんですか?
トキ:あの森の上を通ってきたわ。私は暑すぎるのも寒すぎるのも嫌ね。
この会話で、かばんちゃんはサバンナについて初めて「暑かった」と明言しています。サーバルとの会話でも話題にはのぼっていましたが、かばんちゃんの口から直接「暑かった」と語られるのは初めてのことです。
さばんなちほーとじゃんぐるちほーの境目、そしてトキが「上を通ってきた」と語る「森」が描かれます。この「森」があるちほーは、今までに登場したちほーとは異なりこれから先進んでいくちほーの伏線です。実際の動物であるトキは、かつて東アジアに広く分布していました。このトキがどのちほーで暮らしていたのか、明確にはわかりませんが、動物のトキと同じく広い地域を転々としているのかもしれません。
けものフレンズは背景の描写が美しいことでも評判です。
ジャパリパークのカギを握る物質「サンドスター」
かばんちゃん:でも、すぐ隣なのに暑さや湿気、結構違うんですね。
ラッキービースト:サンドスターによって、温度・湿度・日差しまでもが変化してるんだ。サンドスターには謎が多く、僕らもまだわからないことだらけだよ。
かばんちゃん:サンドスター・・・。
トキ:あそこから出るのよね(「火山」の方角を見る)。あなた、今年の噴火で生まれたんですって?
かばんちゃん:そうみたいです。
トキ:何の動物かわかるといいわね。
ラッキービーストの口から、物語のカギを握る謎の物質「サンドスター」に関する情報が語られます。サンドスターについては、1~2話において「動物、あるいはその遺物をフレンズ化させる」ということが判明していました。今回はそれに加えて「ジャパリパーク内の、多様な気候に分かれた複数のちほーの環境はサンドスターによって生み出されている」ということが新たにわかりました。
そうなると、いろいろなことがわかってきます。たとえば、仮にサンドスターが動物をフレンズ化させるとしてもそこに元々多様な生態系が広がっていない限り、数多くのフレンズが生まれるわけがありません。2話でワンカットだけ登場したフレンズも含め、すでにたくさんのフレンズが劇中に登場しています。これら多様なフレンズたちを生み出す土壌となっている、様々な気候帯に分離したジャパリパークの生態系そのものが、サンドスターによるものだった、という重大な事実が判明したのです。
また、「サンドスターが吹き出す場所」として、火山らしきものが映ります。キラキラと光る巨大な立方体が大きな火口から吹き出している様子が描写されています。1話でかばんちゃんとサーバルが出会った際も、同じ山からサンドスターが噴火し、その影響によってかばんちゃんが「生まれた」とサーバルによって推測されています。
トキとの比較から、かばんちゃんの正体に迫る
ここで、サンドスターを軸にしてかばんちゃんとトキを比較してみましょう。トキは、「動物からフレンズになってまだ間もなく、体の変化に慣れていないキャラクター」として描写されています。一方、かばんちゃんは「自分が何者なのか」さえわかりません。
どちらもサンドスターの影響によってフレンズになっていながら、一方は動物であったころのことを覚えており、もう一方は覚えていない・・・。この描写から「かばんちゃんは『動物の遺物からフレンズ化した存在である』」という仮説が成り立ちます。
つまり、トキの場合はフレンズ化する以前から「生きていた」ので、当時の記憶がある。かばんちゃんの場合は、フレンズ化する以前は「動物の遺物=体の一部や死骸など」であったので、「自分が何者なのか記憶がなかった」と解釈できるのです。これらの描写から、初見時であってもかばんちゃんの正体にある程度迫ることが可能なのです。
以上のような仮説を立てたあとでこのシーンを見ると、以前とは違う感想を抱くのではないでしょうか?このシーンでトキはかばんちゃんに「早く何の動物かわかるといいわね」と言っています。トキにとってこの発言は、単なる社交辞令や世間話ではありません。
なぜなら、トキ自身が「フレンズ化して間もないため、体の変化に戸惑っている」からです。トキは動物であったときの記憶が残っているからこそ、当時とは体が変わってしまったことに戸惑っているのです。一方、かばんちゃんが抱えている悩みはそれとは真逆の「自分が何の動物だったのかわからない」という悩みです。つまり、それぞれ抱える悩みの方向性こそ正反対なものの、2人には「フレンズ化したことで悩みを抱えている」という共通点があります。
すなわちトキは「同じ原因で悩みを抱える同志」に対して、励ましの言葉をかけていたのです。
アニメや漫画ではよく「現在(あるいは過去に)、同じ悩みを抱えている人を励ますシーン」がよく見られます。このトキとかばんちゃんが一緒に飛ぶシーンは、風景の美しさやサンドスターの伏線を紹介しているようでありながら、実は2人の共通点を浮き彫りにし、2人の内面的な触れ合いを描くシーンでもあったのです。
さて、2人がこうしてお互いを理解しながら山頂を目指している間、サーバルは一体どうしているのでしょうか?次回は一人断崖絶壁に挑戦するサーバルについて考察したいと思います。