映画「コマンドー」感想その2:シンディが仲間になった理由

日本では平田勝茂氏の翻訳で、放映から30年以上経っても根強い人気を誇る映画「コマンドー」。本作では、たまたま主人公と出会ったことから彼の戦いに協力することになるヒロイン「シンディ」が登場します。今回は偶然出会っただけの彼女がなぜ主人公に味方してくれたのか、その理由を考えてみたいと思います。

コマンドーのヒロイン「シンディ」について

まずは本作のヒロイン、シンディがどのようなキャラクターなのか確認しておきましょう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BC

旅客機の添乗員。勤務予定の飛行機便がキャンセルとなり、空港ロビーで偶然サリーに口説かれたために、メイトリックスと行動することになる。当初は反抗するが、メイトリックスが娘のためにサリーを追跡していることを知り、彼に協力する。飛行士訓練学校に通っており、軽飛行機ではあるが飛行機の操縦経験もある。愛車はサンビーム・アルパイン。

Wikipediaのキャラクター紹介を見ればわかる通り、彼女が主人公メイトリックスと出会ったのは完全な偶然です。しかも、かなり強引に協力を要請されたために、最初は事情もわからず混乱していました。一応、メイトリックスは「娘を誘拐された。救出に協力してほしい」と伝えてはいるものの、明らかに情報が足りておらず、彼女はまったく納得していませんでした。

シンディはなぜメイトリックスを信用したか?

出会ってまだ間もないころ、メイトリックスに半ば無理やり敵の尾行に協力させられました。続けて「囮になって敵を自分のところまでおびき出してほしい」と依頼されたときは、完全に困惑した様子を見せています。ですが、これは彼女にとってチャンスでもありました。なぜなら、メイトリックスと出会って以来、初めて彼女が彼のそばから離れるチャンスだったからです。

シンディはこのとき、表面上はメイトリックスに協力するような素振りを見せながら、実際にはメイトリックスを「異常者だ」として近くにいた警備員に通報するなどの「裏切り行為」を働いています。事情もよくわからないうちに、協力を強要されてしまった彼女の境遇を考えれば無理からぬことですが、彼女は結局、メイトリックスを撃とうとした警備員を突き飛ばして彼をかばい、自らも追われる立場となってしまいました。なぜ彼女はこのような行動を取ったのでしょうか?

シンディはメイトリックスをいつ信用したのか?

シンディが登場してから協力者になるまでの、物語の展開を確認してみましょう。

1.メイトリックス、強引にシンディの車に同乗。敵を追跡するよう強要する。

2.ショッピングモールに到着。シンディ、敵をおびき出すようメイトリックスに依頼される

3.シンディ、警備員にメイトリックスを捕まえるよう通報。

4.追跡していた敵(サリー)、シンディとメイトリックスに気がつく。仲間に知らせようとするもメイトリックスと銃撃戦に。

5.警備員に狙われたメイトリックスをシンディがかばい、そのまま協力者となる

このように見ていくと、シンディは「当初、メイトリックスを信用していなかったので警備員に通報した」、「後に、心変わりをしてメイトリックスに協力した」ということが見て取れます。従って、彼女の心変わりを促すきっかけがこれらのシーンの中に含まれているはずです。

シンディがメイトリックスを警備員に通報したのが「3」のタイミングですから、1~2は心変わりのきっかけにはなりえません。「1」の段階では自分の車の助手席を外されるなど、かなり乱暴な扱いを受けていますから、おそらくただただメイトリックスにおびえて仕方なく協力していたのでしょう。「2」の段階では「娘が誘拐された」と一応の事情は教えられていますが、状況が切迫していたこともあって十分な説明をする時間がなく、納得した様子は見せていません。彼女がちゃんとした事情を知ることができたのは、「5」の後、再び逃げた敵を追跡するシーンの途中です。

そうなると、消去法でシンディがメイトリックスを信用したのは「4」のタイミングしかありえないことがわかります。

描写から読み取れるシンディの冷静さと頭の良さ

つまりシンディは「敵がメイトリックスに気が付き、仲間に知らせようと行動した」のを見て彼のことを信用した、ということになります。敵はメイトリックスに気がつくと、仲間に電話しようとそばに居たシンディから強引に小銭を奪っています。メイトリックスはこの動きに気がつくなり、「敵を電話ボックスごと持ち上げて叩き落とす」というかなり強引な方法で妨害を図り、そのまま警備員を含めた三つ巴の銃撃戦に突入しました。

シンディはメイトリックスと出会って以来、かなり無理やり協力させられているにもかかわらず必要以上に騒いだりせず、あくまで冷静に「事情を聞かせてほしい」と繰り返し訴えています。もちろん、メイトリックスに対する恐怖心もあったのでしょうが、彼の元を離れるときも、泣きわめいて逃げ出したりはせず、周囲の警備員に通報するというかなり落ち着いた安全な方法を取っています。

このような言動から、彼女はかなり冷静で肝が据わった性格であるということがわかります。だからこそ、メイトリックスの存在に気がついた敵がかなり焦った様子を見せたことから、「詳しい事情はわからないが、どうやら彼の言っていることは本当らしい」と判断したのではないでしょうか。「メイトリックスが追いかけていた敵の行動から逆算して、信用できるかどうかを判断した」というわけです。性格が冷静であるだけでなく、判断力があり頭もキレるキャラクターだといえます。

そんな彼女だからこそ、「第三次大戦」とも例えられるその後のメイトリックスの大暴れにも協力することができたのでしょう。日本語訳の独特な言い回しと、強引なストーリー展開、派手なアクションが注目されがちな「コマンドー」ですが、このようにキャラクターの内面が綿密に描かれているのも魅力のひとつだといえるでしょう。