【考察-1/4】「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」- 世間の評価軸と制作陣の想い

「ゲゲゲの鬼太郎」で知られる漫画家、水木しげる氏の生誕100周年を記念して作られた映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎(以下、ゲ謎)。血液銀行や「犬神家の一族」を彷彿とさせる因習村など、戦後間もない時代の雰囲気を残しながら、現代にも通じる問題をテーマとして扱った意欲作として話題を集めました。

この記事では「ゲゲゲの謎」の主なストーリーの流れから、世間一般での評価、制作陣のインタビューなどを取り上げながら、

「高評価・低評価が分かれる理由はなにか」
「それは作品のテーマ性とどのように関係があるのか」

について考察していきたいと思います。

「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」のストーリー

まずは「ゲ謎」のストーリーと、2023年現在における世間での評価をまとめておきましょう。

ストーリーの要約は以下のとおりです。

廃墟となっているかつての哭倉村に足を踏み入れた鬼太郎と目玉おやじ。

目玉おやじは、70 年前にこの村で起こった出来事を想い出していた。あの男との出会い、そして二人が立ち向かった運命について…

昭和31年―日本の政財界を裏で牛耳る龍賀一族によって支配されていた哭倉村。血液銀行に勤める水木は当主・時貞の死の弔いを建前に野心と密命を背負い、また鬼太郎の父は妻を探すために、それぞれ村へと足を踏み入れた。

龍賀一族では、時貞の跡継ぎについて醜い争いが始まっていた。そんな中、村の神社にて一族の一人が惨殺される。

それは恐ろしい怪奇の連鎖の本当の始まりだった。鬼太郎の父たちの出会いと運命、圧倒的絶望の中で二人が見たものはー

https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1702624487

抑えておくべきポイントは、

  • 戦後間もない時期の日本では血液銀行(健康な若者から輸血用などの血液をお金で買う)があった
  • 政財界を牛耳る「龍賀一族」は製薬事業で成り上がり、哭倉村という寒村を拠点・支配している
  • 主人公・水木と鬼太郎の父は目的こそ違うものの、結果的に同じ謎を暴くことになる

といったところでしょう。

「ゲ謎」に対する世間の評価軸

本作の世間的な評価は、私のイメージでは以下2つの観点があるように思います。

鬼太郎ファン、アニメ・映画オタク的観点
=「鬼太郎作品としてできが良い」「アニメ・映画としてできが良い」
キャラ萌え・カップリング厨的観点
=「このキャラのこういうところが好き」「キャラA×キャラBの関係性がいい」

Dr.マクガイヤーの評価

まず「鬼太郎ファン、アニメ・映画オタク的観点での評価」としては、ニコ生・Youtube解説者のDr.マクガイヤーの解説がわかりやすいため引用します。

https://www.youtube.com/watch?v=lbp7ESx1aWk&t=3987s

Dr.マクガイヤーの解説のポイントは以下のとおりです。

①映画は「墓場鬼太郎 第1話」の前日譚でもあり、「アニメ鬼太郎 第6期」の前日譚にもなっている
②「強者が弱者を搾取する仕組み」という近代から現代の日本につながる問題を描いている
③ゴジラ -1.0と比較して日本の「戦争加害者」としての側面を描いている
④昭和の常識と現代の価値観の間でバランスを取っている
⑤PG12に即した残酷さのバランスが取れている

詳しくは本編の動画を見てもらいたいですが、先に上げたように「鬼太郎作品」としての出来の良さと、アニメ映画としての出来の良さの両面を高評する内容になっています。

SNSでのファンの評価

もうひとつ「キャラ萌え・カップリング厨的観点」については、SNSなどでファンの盛り上がりを見ているだけでもある程度は把握できます。キャラクターの内面についての考察や、劇中に散りばめられた伏線の考察、キャラクター同士をカップリングした二次創作などが数多作られていました。

PIXIV:「ゲゲゲの謎」のイラスト検索結果

https://www.pixiv.net/tags/%E9%AC%BC%E5%A4%AA%E9%83%8E%E8%AA%95%E7%94%9F%E3%82%B2%E3%82%B2%E3%82%B2%E3%81%AE%E8%AC%8E

主要スタッフインタビューに見る制作の流れ

次に、どういった意図でこの作品が作られたのか、制作陣の意向を確認してみましょう。

作者である水木しげる氏の生誕100周年を記念して本作が作られた、というのは先程述べたとおりですが、制作元である東映アニメーションが以下のような人材を集めて制作に至りました。

監督:古賀豪
脚本:吉野弘幸
キャラクターデザイン:谷田部透湖

古賀氏は前作「劇場版 ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!」の監督を務め、吉野氏は機動戦士ガンダムSEEDなどの脚本で知られています。谷田部氏は本作と直接的なつながりが示唆されているアニメ第6部のキャラクターデザインを担当しています。

ちょうど、これら主要スタッフが一同に関して本作の舞台裏を語ったイベントの記事がありましたのでご紹介します。

https://news.yahoo.co.jp/articles/0a6f5f902301bd2bb5aac77dc7799a6eb7ebe6ab

記事からは、以下のようなことがわかります。

古賀監督は、同作について「“鬼太郎誕生”というタイトルは最初から決まっていて、最後に鬼太郎が産まれることも決まっていた」と語り、~~~

https://news.yahoo.co.jp/articles/0a6f5f902301bd2bb5aac77dc7799a6eb7ebe6ab

この点については、そもそも水木氏の生誕100周年を記念する作品であることから「鬼太郎の生誕を描く作品を作ろう」という流れになったという意味でしょうから、特に疑問はありません。

古賀監督は「龍賀一族もサイドストーリーが作れるほど、作りこんでいた。(実際のアニメでは)におわせ程度だったが、気が付いてくれている人も多くいる」と話し、吉野さんは「しかも、それが当たっていることが多い!」と喜んだ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/0a6f5f902301bd2bb5aac77dc7799a6eb7ebe6ab?page=2

こちらはSNSでキャラの二次創作が多く作られていたり、考察が進んでいるとの点を受けての発言です。おそらく、先に谷田部氏がキャラクターデザインや設定を考え、それをストーリーの軸の中にどのように配置して組み合わせていくか、というやり方で作られていったのだろうと推察できます。

本作のストーリーは、極めてわかりやすい横溝正史の金田一耕助シリーズ「犬神家の一族」のオマージュになっています。「犬神家」は小説だけでなく何度もドラマや映画で映像化されていますし、ミステリーマニアなどでなくともひと目見ただけで「これ、犬神家だな」とわかったことでしょう。

キャラクターが非常に深みを持って作られているからこそ、劇中で登場シーンが限られていても考察の余地が生まれ、それが二次創作やカップリングの原動力になる、という点もうなずけます。

まとめると、

①「鬼太郎誕生」というテーマが最初にあった
②ストーリーは「犬神家」のオマージュ
③キャラクターを設定・深掘りしそれを元にストーリーに当てはめていった

という点が本作制作の流れを考える上ででのポイントとしてあげられます。

私の身の回りの人の評価

これらに加えて「私の身の回りの人々の評価」についても触れておきたいと思います。そもそも私がこの映画を見に行ったきっかけは、周囲の人々がこの映画をどう評価するかにあたって、議論を繰り広げていたことからでした。私の周囲の人々の間では、高評価・低評価が二分されるような格好になっていました。

高評価をした人々が挙げた理由については、先に上げた2点とほぼ同じなので紹介は割愛します。低評価の理由としては次のような観点が挙げられていました。

  • 「鬼太郎作品」に求める要素の違い:墓場鬼太郎のようなものを期待していたら違うものが出てきた
  • 作中のリアリティラインの変動:「犬神家」のオマージュなのでミステリーかと思ったら妖怪など超常現象がバンバン出てきてどういう目線で楽しむべきなのかわからなかった
  • シンプルにエンタメ性が低い:鬼太郎にそれほど思い入れがない場合、単純にエンタメ作品として気持ちが入り込めなかった

「作品をどのように楽しむか」という点については人それぞれなので、高評価・低評価の理由含めて他人の感性は尊重するべきだと考えています。なのでこれらの評価自体について私は特に思うところはないのですが、ここまで話を聞いた時点で私の中に一つの疑問が浮かび上がってきました。

その疑問を解決するために実際に自分の目で映画を見て確かめることにしたのです。

「ゲゲゲの謎」のテーマはなにか?

他の人々の「ゲゲゲの謎」に対する評価を見て私の頭に浮かんできた疑問とは、

「この作品のテーマは何なのか?」

という点です。

Dr.マクガイヤーが言うように「『強者が弱者を虐げる仕組み』という、近代・現代に共通する日本社会の問題点」が作品のテーマであるなら「テーマがきちんと描けているか否か」という点については、ポジティブ派、ネガティブ派問わず、何らかの共通した結論が出せるのではないか、と考えたのです。

もちろん、作品自体の良し悪しは個人の観点によりますから「テーマはきちんと描けているが、自分は楽しめなかった」という結論でもOKです。しかし「作り手が伝えようとしていることをちゃんと読み取って評価できているのかどうか」という点は重要だと考えました。ちゃんと「作り手の意図を読み解いた上で、自分の好みに合うかどうか判断しないとフェアではないのではないか」と考えたわけです。

前置きが長くなってしまいましたが、ここからはいよいよ、私自身が「ゲゲゲの謎」を見に行ってどのような感想を抱いたのか、次の記事の中で解説していきたいと思います。

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