けものフレンズ10話感想その18:かばんちゃんの引き立て役、アミメキリン

諸注意

けものフレンズ10話感想その17:かばんちゃんの推理とひらめき
【Bパート 白い影の正体に気がつくかばんちゃん】 かばんちゃんたちがロッジに滞在し始めてから3日目の朝です。雨は止...

【Bパート 名探偵アミメキリンの迷推理?】

ついに白い影の正体に気がついたかばんちゃん。そのことを周囲に伝えようとしますが、その声はアミメキリンにかき消されてしまいました。

アミメキリン:わかりました!犯人はオオカミさんです!

一同:えーっ!

アミメキリン:オオカミさんは事件を起こし、自分の漫画を話題にするつもりだったのです。無名な作家のかわいそうな動機だったのです。

タイリクオオカミ:・・・それはいいとして。

アリツカゲラ:肝心のお化けはどうやっているのです?

アミメキリン:双子だったのです!だから同じ匂いで、その・・・気づかなかったのです!

アリツカゲラ:それだと、速いとか大きい理由が・・・。

タイリクオオカミ:私の双子は白くて透明なのか・・・。

アミメキリン:三つ子なら可能!いや、いっそ四つ子でもいいです!

アリツカゲラ:お、落ち着いてキリンさん!

サーバル:熱くなりすぎだよ!

間違い推理担当のアミメキリン

ついにかばんちゃんが事件の犯人に気がついたとき、かばんちゃんの声を遮るものがいました。それは自称名探偵のアミメキリンです。これまでも折あらば自分の推理を披露する機会を伺っていたアミメキリンは、ここぞとばかりに自分で考えた「迷推理」を披露することになります。

アミメキリンが犯人だと名指ししたのはオオカミでした。なぜ彼女がオオカミを犯人だと考えたのか、その理由はもっともらしい動機があるからです。彼女が語った動機とは「ロッジで事件を起こし、自分の作品を有名にする」というものでした。

おそらくは、ロッジに出現する謎のお化け(セルリアン)を題材にした漫画を書き、実際にそれと似た事件を起こせば、漫画に注目を集められる・・・。そういった目的でオオカミが事件を起こしたとアミメキリンは考えたのでしょう。

ミステリー作品には、間違った推理を披露するお笑い担当の登場人物がよくいます。たとえば、金田一耕助シリーズに登場する等々力警部などが有名でしょう。こうした人物は、探偵の推理が進展したタイミングで自身の誤った推理に基づき、容疑者を逮捕するなどして事件をかきまわします。

アミメキリンが今回果たしたのもまさにそれと同じ役目だったというわけです。

アミメキリンの推理が間違っている理由

こうした迷探偵役の登場人物が推理するとき、よくあるのが「最も怪しい人物」、つまりは表面的に動機がはっきりしている人物を犯人だと決めつけることです。今回アミメキリンが「最も動機がはっきりしている」と考えたのがオオカミでした。

しかし、こうしたやり方には大きな問題があります。それは「トリックが立証されない限り、本当に事件の謎が解けたとはいえない」ということです。アミメキリンも、犯人がオオカミだと決めつけた途端、「じゃあ、白い影をどうやって出現させていたのか?」とツッコミを食らっていました。

アミメキリンが考えたトリックは、「犯人は実は双子だった」というものです。実際、双子が入れ替わったりするトリックは古典的な手法としてミステリー作品でも使われています。このときアミメキリンが双子であればトリックが成立する理由として述べたのが「臭いが同じだから気が付かないはず」というものでした。

実際、双子であれば臭いで別の個体だと判別できないのかどうかはわかりません。しかし、そんなことを考えるまでもなくアミメキリンの推理には無理があることはすぐにわかります。オオカミ、アリツカゲラが指摘したように、「目にも留まらぬ速さで動いた」、「白く宙に浮いていた」といった、白い影の持つ他の条件を満たしていないからです。

この点に対しても、アミメキリンは「三つ子、四つ子なら可能!」と力説していましたが、これは要するに「臭いで判別できない共犯者が複数いればトリックは成立する」といいたかったのでしょう。たしかに理論的には可能かもしれませんが、そのトリックが行われたという証明ができない限り(たとえば、オオカミの共犯者を捕まえるなど)、確かな謎解きとはいえません。

アミメキリンの推理はノックスの十戒にも反している

実はこの他に、メタ的な視点で見てもアミメキリンの推理が間違っていると考えられる根拠があります。それは、このけものフレンズ10話がミステリーとして、視聴者に謎を問いかける構成になっているからです。

ロッジに雨が振り、擬似的にクローズドサークルの条件が満たされたこと。物音や臭いで、周囲にほかのフレンズやセルリアンがいないとされていること。そして事件が起こるたびに新しい情報が提供され、最後にはかばんちゃんが「謎を解くタイミング」まで明確に示されたことで、10話はひとつのミステリー作品として成立する要件を一通り満たしているのです。

言い換えると、ここまで劇中に示された手がかりから、視聴者もかばんちゃんと同じように謎の真相を推理することができるはずだ、ということです。

ミステリー作品が、「読者に謎解きを楽しんでもらうためのもの」である以上、読者と作者との間に最低限のルールが必要になります。そうでないと、未知の登場人物や現代には存在しないハイテク危機を出現させるなどの方法をトリックとして使うこともできるようになるので、読者は事実上推理が不可能になってしまうからです。

そうした、ミステリー作品における作者と読者の間のルールのひとつに、「ノックスの十戒」というものがあります。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%8D%81%E6%88%92

すべてのミステリー作品が、ノックスの十戒を守っているわけではありませんが、古典的なルールなので、ミステリー作品が作られる場合には必ず参考にされるのは間違いありません。このノックスの十戒の中に、

双子・一人二役は予め読者に知らされなければならない

という記述があります。

10話がもし本当にミステリー作品としての体裁を備えているのなら、「実はオオカミは双子でした」などというトリックは用いられるはずがありません。なぜなら、オオカミが双子であることを示すヒントが劇中にまったく含まれていないからです。

アミメキリンの推理は、完全にこの後行われるかばんちゃんの推理を引き立てるための当て馬にされてしまいました。そして次回、いよいよかばんちゃんの口から事件の真相が語られることになります。

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