JRA×けものフレンズ「ウマのフレンズ」のマーケティング戦略を考察

JRA(日本中央競馬会)が、けものフレンズとコラボしたサイト「ウマのフレンズ」を2017年6月30日に公開しました。今回はこのコラボレーションの意図と、どのような戦略を元にマーケティング戦略を行っているのかについて考えてみたいと思います。

「ウマのフレンズ」に関する概要

まずは簡単に「ウマのフレンズ」とはどのようなものなのかご紹介しましょう。リンク先のページを見てもらうのが手っ取り早いと思います。

https://umabi.jp/kemono-friends/

簡単に概要をご紹介すると、

  • けものフレンズとJRA(日本中央競馬会)のコラボレーション企画
  • 「サラブレッド くりげ」、「あおかげ」、「しろげ」などの新たなフレンズが登場
  • けものフレンズ診断、教えて!獣医師さん!、ウマのトリビアなどオリジナルコンテンツが掲載

といったようなサイト内容になっています。「ウマのフレンズ プロフィール」は新フレンズである「サラブレッド くりげ・あおかげ・しろげ」の紹介です。「けものフレンズ診断」はアニメ本編で名探偵(迷探偵)として活躍したアミメキリンが選んだ回答に合わせてあなたが何のフレンズなのか推理してくれる、という内容になっています。

http://animereal.hatenablog.jp/entry/2017/06/30/153951

上記のサイトで、どの選択肢を選んだらどのフレンズだと判定されるのか有志の方が作ったフローチャートが公開されています。(ネタバレ注意)

「教えて!獣医師さん」はアニメ本編のアイキャッチに挿入されていたような、専門家の方による動物(サラブレッド)の解説動画です。「ウマのトリビア」は、フレンズの元動物であるウマに関する専門的な解説がわかりやすい文章で紹介されています。

競馬に関するゆるい情報サイト「Umabi」とは?

さて、ここからはこのコラボレーション企画がどのような意図のもとに行われているのかを考えてみましょう。ウマのフレンズトップページの左下を見ると、JRA・Umabi・けものフレンズの各公式サイトへのリンクがあります。特に注目してもらいたいのが「Umabi」というリンク先です。

http://umabi.jp/

そのリンクをクリックすると、以上のリンク先に飛びます。「Umabi」とはどんなメディアなのか、リンク先の要約文を見てみましょう。

どんなひとでもゆる~く競馬を楽しめちゃうサイト”Umabi”できました。誰でもわかるビギナーズ競馬マニュアルや、小山健さん、綱本将也さん、山根 章裕さん、書き下ろしのオリジナルコミックなど楽しみながら競馬を身近に感じられるコンテンツ盛りだくさん!

この内容から想像できるのは、おそらくUmabiとは新たな競馬ユーザーを増やすためにJRAによって運営されているメディアサイトだろうということです。つまり、今まで競馬にあまり興味がなかった人に競馬に関するニュース記事などをみてもらうことによって競馬に興味を持ってもらうことを目的にしたサイトだと考えられます。

競馬にあまり興味を持ってない人であっても、「芸能人の○○さんが競馬をやってますよ!」とか「競馬に関するこういうイベントをやってますよ」という少しゆるい情報を提供すればみてくれるかもしれません。最初は競馬自体に興味を持てなくても、取り上げられた芸能人やイベントの情報には興味を持ってくれる可能性があるからです。

このように、本来PRしたいもの(この場合は競馬)に関連するコンテンツで集客することを、「コンテンツマーケティング」といいます。

けものフレンズを活用した、競馬ユーザーの増加が目的

先に結論から言ってしまうと、私は「ウマのフレンズ」サイトはこのUmabiの関係者が主導して始めた新たなコンテンツマーケティングのための施策だと思います。

つまり、芸能人やイベントの情報で競馬に興味を持ってもらおうとするのと同じ要領で、「けものフレンズから競馬に興味を持ってもらおう」という狙いで始められたのだろうと考えています。

「ウマのフレンズ」のページにアクセスしてくる人は、ほとんどが「けものフレンズに興味がある人」のはずです。その中で「最初から競馬に興味を持っている人」は少数でしょう。しかし、彼らにとって魅力的なコンテンツを提供していき、繰り返しアクセスしてもらうことによって「徐々に競馬にも興味を持ってもらえれば」というのがこのサイトの目的だと思います。

たとえば、「けものフレンズの情報が見たい→フレンズのモデルになったウマの情報が知りたい→ウマが出ている競馬にも興味が湧いてきた」というような興味の変遷を起こせる可能性もあるでしょう。

現在はまだ閲覧者増加とデータ分析を行っている段階か?

私の仮説が正しいとして、ここからは「じゃあ、ウマのフレンズの企画はどれくらいうまくいきそうか?」を考えていきたいと思います。ただ、おそらくJRAも現時点でこの企画が直ちに利益(競馬ユーザーの増加)につながるとは考えていないはずです。

現在のところJRA公式サイトへのリンク以外にウマのフレンズのサイトから「競馬につながるリンク」は存在しません。もし、すぐに収益化したいと考えているのならもっと利益に直結しやすい出口(たとえば、全国の競馬場のリストとか)を用意しているでしょう。

では、現在の主な目的は何か?というとおそらくはサイトアクセスの増加と、利用者のデータ分析だと考えられます。ウマのフレンズのページにアクセスすると、ポップアップで「あなたは競馬についてどれくらい知っていますか?」というような内容の質問が表示されることがあります。

これは、サイトにアクセスしてくる人のデータを分析するためのものです。もし、「競馬はやったことない、全然知らない」という回答が多ければ、今後はライトユーザー向けのコンテンツが増えていくでしょうし、ヘビーユーザーが一定数いると確かめられたなら、その層をターゲットにしたイベントや商品などが提供されていく可能性もあります。

たとえば、ライトユーザー向けの商品・サービスとしては「新フレンズ サラブレッド くりげ・あおかげ・しろげの関連商品の販売」といった施策が考えられます。ヘビーユーザーに対しては、「馬券を買ってくれた人に対して、けものフレンズ関連グッズをプレゼント」といった企画を行うことも考えられるでしょう。

現時点(サイトオープンから1~2ヶ月)の時点ではまだ、サイトアクセスの増加とコンテンツの拡充を狙っている段階だと思います。しかし、一定のユーザーが確保できてユーザーにどういう人が多いのかといったデータが集まったら具体的な商品やサービスを提供する段階に移行していくと思います。

今後の「ウマのフレンズ」企画の展開予想

ここからは、ウマのフレンズ企画が今後どのように展開していくのか私の勝手な予想をお伝えします。

「馬券購入でグッズ」なら競馬ユーザーは増やせる

「馬券を購入してくれた人には、限定のけものフレンズグッズをプレゼントします」といったキャンペーンを行えば、おそらくグッズ目当てに馬券を買う人はたくさん出てくると思います。(私は競馬に詳しくないので、仕組み上できるかどうかはわかりません)

「それだと、キャンペーンがないときは定着しないのでは?」と考える人もいるでしょう。確かに、キャンペーンによるユーザーの定着率は低いと思われます。しかし、競馬ははまった人は一生続けるものだと思うので、「定着率は低くても、新規ユーザーあたりの利益は大きい」と考えれば効果は決して低くないはずです。

ライト層には新フレンズのグッズ販売が有効

「サラブレッド くりげ」など、新たに登場したフレンズについては「どこがどれだけの権利を持っているのか?」についてはわかりません。おそらくキャラクターについてはJRAは権利を持っていないのではないか、と思いますが仮にそうだとしても利益につなげる方法はあります。

JRAとけものフレンズプロジェクトが共同出資してキャラクターグッズを作り、出資額に応じて利益を配分する、という方法はおそらく可能でしょう。このやり方なら、仮にこの企画が競馬ユーザーの増加に繋がらなくても、JRAは「グッズ販売によって利益を上げる」という新たな収益経路を確保できます。

ほかにもJRAとけものフレンズプロジェクトがイベントを共催して、会場限定でグッズを配布する、といったやり方もあるでしょう。

「競馬人口の増加」、「収益経路の多様化」と、「ウマのフレンズ」のコラボレーション企画はどう転んだとしても将来の利益につながる道が開けています。今はまだ今後どのように進んでいくのかはわかりませんが、さらなる進展が期待されるところです。