ノイエ銀英伝5話感想・考察その2「ヤンの頑固な人柄と世話女房ユリアン」

5話「第十三艦隊誕生」
~変わらないヤンの人柄とユリアンの将来の夢~

ヤンとジェシカは車に乗って慰霊祭の会場を遠ざかったが、途中で暴走するトラックに絡まれ、危うく事故に巻き込まれそうになってしまう。幸い、ヤンの運転でことなきをえるものの、ヤンはジェシカを空港まで送る。

思わぬ形で久々の再開を果たしたヤンとジェシカは、空港のロビーでしばらく語り合う。ジェシカを見送った後、帰宅したヤンはユリアンと夕食をとる。ユリアンは近い内に学校を卒業し、軍人の道に進みたいとヤンに告げるが、ヤンは「自分に気を使って軍人になる必要はない」と諭した。

世界の士官学校

起こるはずのない、作為的な事故

慰霊祭でトリューニヒトの支持派に目をつけられてしまったヤンとジェシカは、空港までの道のりの途中で暴走するトラックに襲われます。劇中でははるか未来が舞台ということもあって、自動運転車が実現しています。普通に考えれば、不意の災害時などを除いて事故を起こさないレベルになっているはずです。それでもトラックがヤンたちの車めがけて突っ込んできたわけですから、明らかに作為的な事故と考えていいでしょう。

ヤンはとっさの判断から運転を手動に切り替え、トラックを避けて事故を防ぎました。自動車は自動運転が基本だとするなら、運転技術を持っている人そのものが少ない可能性もあります。ヤンは軍人ですから、訓練の一環として運転技術も習得している可能性があり、そういった意味でも運が良かったといっていいでしょう。

 好きな女性にも理屈ありきで接してしまうヤン

無事、空港までたどり着いたヤンは、ジェシカと久々に語り合います。ジェシカは、自分が慰霊祭の場でトリューニヒトを批判したことについて、「嫌な女だと思ったでしょう?」とヤンに問いかけます。

ジェシカとしては、理想のために命を捧げたラップの死そのものに疑問はないものの、安全な場所にいながら他者の自己犠牲を賛美するトリューニヒトの態度が許せなかったのでしょう。しかし、ジェシカ自身が語ったように、不満があるからといって場所柄もわきまえずにそれを周囲にアピールしようとすれば、不快に思う人も少なからずいるはずです。

ヤンは「そんなことはない」といい、ジェシカを励まそうとしますが、彼女の表情はまだ暗いままでした。第二艦隊を見事に指揮して味方を守ったヤンを褒め称える一方、彼以外の提督を批判し、「多くの犠牲を出したのだから恥じるべきだ」と続けます。

しかし、ヤンは味方を守れず大きな犠牲を出すのも、敵兵に多くの犠牲を強いるのも道義の上では同じことであり、「戦いの勝ち負けに善悪はない」としてジェシカの意見に同意しませんでした。

たしかに、理屈の上ではヤンのいうとおりですが、ジェシカは婚約者を失って失意の状態にあり、かつ命を狙われた直後なのですから、上辺だけでも彼女の意見を肯定して共感して見せることもできたはずです。そうしなかったところに、ヤンのコミュニケーションにおける不器用さが現れています。

トリューニヒトの演説に共感できなかったから起立しなかった点といい、ヤンは万事を論理的に考え、納得できないことには一切同意しないという頑固な性格をしています。しかし、そんなヤンの以前とまったく変わらない様子を見たことで逆に緊張が解かれたのか、ジェシカはここではじめて笑顔を見せました。

ジェシカは今はなき婚約者を一貫して「ジャン・ロベール」と呼び、ヤンに対しても丁寧な言葉づかいで一線を引いた態度をとっています。ヤンの態度が士官学校時代から変わらないのに対して、ジェシカの方は年齢や立場に合わせて相応な振る舞い方を身に着けていっているのが対照的です。

女房役が板についているユリアン

ヤンが帰宅すると、ユリアンが夕食を作って待っていました。特にヤンが連絡をしていた様子はありませんが、突然の帰宅にも慌てる素振りはありません。軍人の生活は不規則な場合も多いはずですし、ヤンの性格からいっていちいち連絡しているとも思えませんから、こうした突然の帰宅には慣れっこなのでしょう。

ユリアンが夕食を用意していたのも、キャゼルヌ少将から連絡をもらっていたためでした。「美人と手をとって式典を抜け出した」というような笑い話として、ユリアンが余計な心配をしないよう配慮して伝えているところにキャゼルヌの気配りが感じられます。

ユリアンの将来の進路について

ユリアンが作ったアイリッシュシチューを食べながら、2人はユリアンが学校を卒業した後の進路について話し合いました。「早めに単位をとって卒業し、その後は軍人の道を歩みたい」と語るユリアンでしたが、ヤンは「急ぐ必要はない」、「軍人になる必要はない」と返します。

卒業を急ぐ理由について、ユリアンは「ヤンに迷惑はかけられないから」と説明しました。彼はトラバース法に基づいて引き取られた養子であり、ヤンの実の息子ではありません。自身を養っていることがヤンにとって生活的な負担になっていると考えたのでしょう。

しかし、ヤンは「経済的な心配はない」として、早く卒業する必要はないと応えました。たしかに、ヤンは若くして将官の地位にありますし、お金がかかる趣味を持っているようにも見えません。トラバース法では育てた子どもが軍人にならなかった場合、学費を返還しなければなりませんが、その点についても心配ないと語っています。

保護者のヤンが構わないと言っているのですから、本来であればこれ以上ユリアンが気を使う必要はなさそうに思えます。しかし、以上のような会話を交わした後も、ユリアンはなにか思うところがありそうな表情をしていました。

実際、ユリアンが主に金銭的な負担を心配して軍人になろうとしていたのは間違いないでしょう。ですが、それだけが理由とは限らないはずです。たとえば、彼が自身の将来を考えるにあたって「軍人」という仕事に憧れを抱くような特別な理由が存在したのかもしれません。

しかし、このシーンではその理由が明確に描かれることはありませんでした。突如家の前に現れた「憂国騎士団」によって、2人の平和な食事の時間は終わりを告げることになります。