ノイエ銀英伝5話感想・考察その3「憂国騎士団の襲撃」

5話「第十三艦隊誕生」
~同盟の思想弾圧とユリアンのヤンへの想い~

そのとき、ヤン宅の玄関に過激な国家主義者集団「憂国騎士団」が姿を現す。憂国騎士団は、慰霊祭でのトリューニヒトの演説にヤンが起立しなかった点を取り上げ、弾劾すると宣言。警告として手投げ弾を宅内に投げ込んできた。

ヤンは散水機の出力を上げて反撃、憂国騎士団のメンバー一人の顔が明らかになる。その人は、慰霊祭でヤンを注意したクリスチアン大佐だった。荒らされた室内を片付けるユリアンのそばで、ヤンは無残に割れてしまった父の形見の皿を寂しそうに見つめる。

憂国騎士団による襲撃の直後、ヤンは統合作戦本部長・シドニー・シトレ元帥からの呼び出しを受けた。ユリアンから「准将が正しいと信じている」と激励されたヤンは、統合作戦本部に赴く。

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自分の被害には鈍感だが、他人の被害には敏感なヤン

慰霊祭からジェシカを連れ出し、空港へ送った後、帰宅したヤン・ウェンリーを尋ねる怪しげな集団が登場します。彼らは過激な国家主義者の集まり「憂国騎士団」であり、慰霊祭でのヤンの態度に腹を立てて、弾劾すると叫びました。

おそらく命まで取られることはないでしょうが、見せしめとしてヤンに暴行を加えるくらいのことは考えていたのでしょう。ヤンが返答をせず、無視を決め込んだため、憂国騎士団はヤンの自宅に手投げ弾を投げ込んできました。このとき、ヤンの行動はすばやく、即座に散水機を使って反撃しています。

トリューニヒトの演説に起立せず、クリスチアン大佐から咎められたときなど、ヤンは基本的に自分が直接矢面に立たされているときはそれほど大きな反応は示しません。しかし、ジェシカが拘束されそうになったときなど、他者にも危害が加えられそうになったときは非常に素早い反応を示します。

もし、自分だけがターゲットにされていたのなら、彼ももっとのんびりとしていたかもしれませんが、手投げ弾が投げ込まれた時点で一緒に暮らすユリアンも被害を受ける可能性が出てきました。そのため、少しでも早く彼らを追い払おうと、過激な反撃に打って出たのだと思います。

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憂国騎士団の襲撃に対して、ユリアンは意外そうな表情を見せていますから、やはり慰霊祭でヤンがとった行動は知らなかったとみていいでしょう。皮肉にも憂国騎士団の通告から、ヤンが慰霊祭で演説時に起立しなかったことを知り、「表面だけでも従う素振りを見せればいいではないか」とヤンに注意しています。

ヤンやジェシカだけでなく、ユリアンにもこうした認識があるということは、やはり同盟における思想や言論の自由は、かなり損なわれていると考えていいでしょう。帝国との長く続いた戦争の中で、「戦争に協力しないものは敵」という認識が根付いてしまっていることが見て取れます。

ユリアンのセリフにもあるように、実際にはそうした雰囲気を快く思わない人も多いようです。同時に「表立って国家を批判するような行動とると、過激派から狙われることになって危険」という認識も存在していて、「本音はともかく、表面上は帝国との戦争を応援しなければならない状況」が作られていると考えられます。

ヤンが憂国騎士団に反撃した理由は?

憂国騎士団は数も多く、武装しているため、通常なら反撃しようとしたりせず、逃げるという選択肢もあったはずです。それなのにヤンがあえて反撃に出たのはなぜでしょうか?

まず考えられるのは、「軽い反撃で退散するはずだ」という目論見があった可能性です。ヤンは憂国騎士団のことを「数を頼むごろつきども」と呼んでおり、そういった集団がどういう弱点を抱えているか、歴史から学んでいたのかもしれません。

加えて、ヤンは憂国騎士団の正体にある程度察しがついていたのではないでしょうか。ヤンがトリューニヒトの演説に起立しなかったことを知っている人間は限られています。慰霊祭はもちろん、テレビ中継で同盟全土に向けて放送されていたはずですが、あのとき会場にいて、かつヤンの間近にいた人物でなければ、ヤンが起立しなかったことに気づくことはできなかったでしょう。実際、憂国騎士団のメンバーのうち、素顔が明らかになった人物は、慰霊祭でヤンを咎めたクリスチアン大佐でした。

ヤンは論理的に納得出来ないことには従わない頑固な性格をしていますが、戦いに関する限りそういった自分のこだわりを優先させて理に背く行動をすることはありません。憂国騎士団との戦いについても、十分な勝算あって行ったものだと考えるべきでしょう。

 ユリアンからにじみ出るヤンへの敬意

襲撃の後、ヤンはキャゼルヌ少将から連絡を受け、統合参謀本部に向かうことになります。隣で聞いていたユリアンは、キャゼルヌとの通信が終わるやいなや代わりの制服を用意するなど、完全にヤンの意を組んだ行動をとっています。生活のサポート、一般常識にかけた行動のフォローなど、ヤンにとってユリアンは欠かせない存在になっているといえます。

家を出る前、憂国騎士団の襲撃に触れ「だんだんと悪い時代になっているようだ」と語るヤンに、ユリアンは次のように応えました。

「僕、いろいろと余計なことを申し上げたりしますけど、そんなこと気になさらないでください。正しいとお考えになる道を歩んでいただきたいんです。誰よりも准将が正しいと僕、信じてます」

これはユリアンの心情を現しているだけでなく、ユリアンの価値観・思想を表す言葉としてとらえることもできます。

憂国騎士団が現れたときのリアクションからもわかる通り、ユリアンは「本音とは違っても、表面上相手に合わせる」といった行動をとれる人物です。同時に、保護者であるヤンにも物怖じせず、ダメなところはダメと指摘できる気概も持ち合わせています。

これら言動から読み取れる特徴に加え、今回のセリフからは「ヤンに対する並々ならぬ尊敬の念」を読み取ることができます。彼にとってヤンは保護者、つまりは父同然の存在ですから尊敬の念を抱いても別段不思議はありません。

おそらく、ユリアンがここで言いたかったことは「自分はあなた(ヤン)のだめなところは指摘するが、それ以上にあなたのいいところを知っていて尊敬している」ということでしょう。この「ヤンに対する敬意」を考慮に入れないとユリアンというキャラクターの人物像を正しく理解することはできません。