ゴールデンボンバー、楽曲無料配布から読み解くマーケティング

音楽ユニットのゴールデンボンバーが、テレビ朝日「ミュージックステーション」の番組内で新曲「#CDが売れないこんな世の中じゃ」を発表。同時に楽曲を無料ダウンロードできるQRコードを写すというパフォーマンスを行いました。この背景にどのようなマーケティングの意図があるのか考察してみました。

楽曲無料配布は「バズ・マーケティング」である

ゴールデンボンバーの新曲「#CDが売れないこんな世の中じゃ」は、CDの売上が全盛期の1/3にまで低迷している現状を憂いた歌詞になっています。「どうせCDを出しても売れないから、無料で配布する」というのが今回のパフォーマンスを行った理由のようです。まず、これらの行動からすぐにわかるポイントをピックアップしてみましょう。

  • テレビで無料配布を告知したわけなので、事務所は当然了承している
  • 歌詞から、「CDが売れない状況をどうにかしたい」のが理由であるとわかる
  • 新曲のタイトルに「#」がついていることから、Twitterを意識していることがわかる

まず、いくらCDが売れないからと言って、ゴールデンボンバーのメンバー独断でこのような行動が起こせるわけはありません。事務所もこの行動の意義を理解し、支持してやらせているものと考えられます。

次に、「どうせCDが売れないから無料で配布する」とは言っているものの、完全に自暴自棄になっているわけではなく、「本音ではCDが売れてほしい。だけど売れないから配布する」という意図があるのは明らかでしょう。つまり、今回のパフォーマンスがCDの売上につながるだろうと考えているわけです。

最後に、新曲の冒頭についている「#」に注目してみて下さい。Twitterでは「#」の記号はハッシュタグと呼ばれ、この記号をつけるだけでリンクとしての機能を果たします。ハッシュタグがついていると、同じキーワード同士でリンクとして機能するため、今回のパフォーマンス、及び新曲が「Twitterを始めとするSNS上で広まってほしい」という思いが見て取れます。

このような点から総合的に判断すると、ゴールデンボンバーのパフォーマンスは実質的な「バズ・マーケティング」であることがわかります。つまり、普通はどんな歌手でも「1枚でも多くCDが売れてほしい」というところを逆に「売れないから無料で配るよ」ということで「なんでそんなことをするの?」と視聴者に考えさせ、興味を持ってもらおうとしているわけです。

パフォーマンスを通じて新曲に興味を持つ人が増えれば、SNSでの情報拡散が期待できます。曲に興味を持つ人が増えれば、相対的にCDの売上も増えるだろうと予測しているのでしょう。

「愛あるファン」を増やすのが真の目的

しかし、問題は「楽曲を無料で配ってしまって、本来買うはずの人も買わないのではないか」という点です。この点については、次のような仮説が考えられます。

  • 今回の楽曲そのものが、ゴールデンボンバーのファンを増やすためのマーケティング施策である
  • 「無料配布しても、本当のファンならCDを買ってくれる」と考えている
  • 「今回のCD売上自体は下がっても、ゴールデンボンバーのファンが増えれば将来的にはプラス」と考えている

1番目の説は、今回の楽曲はマーケティングのために作られたもので、それ自体利益を目指したものではないという意味です。なので、この曲自体のCD売上が下がっても広まりさえすれば問題はありません。

2番目の説は、いわばファンの愛に期待したものです。今回の楽曲の中で「唯一CD売上が落ちていない歌手」として挙げられているAKB48は、CDに握手会の参加券・人気投票の権利など別の価値をつけることでCD売上を維持しています。AKBのメンバーは「人気投票の票数はファンの愛です」と述べており、同じ理屈でいえば「愛のあるファンならば、アーティストの利益につながるCD購入をしてくれるはず。そういったファンを増やすのが大事だ」となるはずです。

3番目の説は、1番目、2番目の説を発展させたものだといえるでしょう。さきに解説したとおり、「愛のあるファン」=CDを買ってくれる人を長期的に増やしていけるのであれば、そのためのマーケティング施策は正しいことになります。

実際には、以上のような理由を総合的に判断した結果、今回のパフォーマンスに踏み切ったと考えられるでしょう。ゴールデンボンバーの今回の試みが吉と出るか凶と出るか、それはまだわかりません。しかし、閉塞した史上に新たな一石を投じようとする行為に対して、私は敬意を評したいと思います。