「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」の考察もいよいよ本記事で最後となりました。ここまでの考察を踏まえて全体を振り返りつつ、考察をスタートした際の疑問であった「ゲ謎」のテーマとはなにか?について考えていきたいと思います。... 続きを読む
カテゴリー: 映画感想
【考察-3/4】「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」- 時貞の正体と血桜の秘密
映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」の作品としてのテーマは何なのか。この点について考察を進めてきました。前回までの2つの記事によって、私は「沙代は純真無垢な少女ではなく、心に闇を抱えた狡猾な殺人者である」、「ゲ謎のストーリーは、妖怪など不可思議な現象をすべて排除したとしても解釈可能なようにできている」という結論に至りました。... 続きを読む
【考察-2/4】「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」- 沙代の真意と「妖怪を見ない」楽しみ方
ひとつ前の記事では「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」について、本作の大凡のストーリーと世間の評価軸について、制作陣はどのような意図で作品を作ったと語っているか順番に紹介してきました。... 続きを読む
【考察-1/4】「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」- 世間の評価軸と制作陣の想い
「ゲゲゲの鬼太郎」で知られる漫画家、水木しげる氏の生誕100周年を記念して作られた映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎(以下、ゲ謎)。血液銀行や「犬神家の一族」を彷彿とさせる因習村など、戦後間もない時代の雰囲気を残しながら、現代にも通じる問題をテーマとして扱った意欲作として話題を集めました。... 続きを読む
ゴジラ -1.0考察:戦後日本のユア・ストーリー
山崎貴監督の映画作品「ゴジラ -1.0(マイナスワン)は、ゴジラ映画に確かな足跡を残しました。... 続きを読む
ゴジラ -1.0から紐解く山崎貴の作家性
2023年11月3日に公開された映画「ゴジラ -1.0(マイナスワン)」。... 続きを読む
【ネタバレあり】ゴジラ キング・オブ・モンスターズの感想
2019年、レジェンダリー・ピクチャーズ製作のゴジラ映画2作目となる「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」が公開されました。キングコングを含む巨大怪獣が存在する世界観「モンスターバースシリーズ」の3作目ともなる本作では、ゴジラとはどのような存在なのか、なぜ「キング(怪獣王)」と呼ばれているのかといった部分に焦点が向けられています。ネタバレを含む本作の感想を語ってみようと思います。... 続きを読む
映画「コマンドー」感想その2:シンディが仲間になった理由
コマンドーのヒロイン「シンディ」について
まずは本作のヒロイン、シンディがどのようなキャラクターなのか確認しておきましょう。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BC旅客機の添乗員。勤務予定の飛行機便がキャンセルとなり、空港ロビーで偶然サリーに口説かれたために、メイトリックスと行動することになる。当初は反抗するが、メイトリックスが娘のためにサリーを追跡していることを知り、彼に協力する。飛行士訓練学校に通っており、軽飛行機ではあるが飛行機の操縦経験もある。愛車はサンビーム・アルパイン。Wikipediaのキャラクター紹介を見ればわかる通り、彼女が主人公メイトリックスと出会ったのは完全な偶然です。しかも、かなり強引に協力を要請されたために、最初は事情もわからず混乱していました。一応、メイトリックスは「娘を誘拐された。救出に協力してほしい」と伝えてはいるものの、明らかに情報が足りておらず、彼女はまったく納得していませんでした。
シンディはなぜメイトリックスを信用したか?
出会ってまだ間もないころ、メイトリックスに半ば無理やり敵の尾行に協力させられました。続けて「囮になって敵を自分のところまでおびき出してほしい」と依頼されたときは、完全に困惑した様子を見せています。ですが、これは彼女にとってチャンスでもありました。なぜなら、メイトリックスと出会って以来、初めて彼女が彼のそばから離れるチャンスだったからです。 シンディはこのとき、表面上はメイトリックスに協力するような素振りを見せながら、実際にはメイトリックスを「異常者だ」として近くにいた警備員に通報するなどの「裏切り行為」を働いています。事情もよくわからないうちに、協力を強要されてしまった彼女の境遇を考えれば無理からぬことですが、彼女は結局、メイトリックスを撃とうとした警備員を突き飛ばして彼をかばい、自らも追われる立場となってしまいました。なぜ彼女はこのような行動を取ったのでしょうか?シンディはメイトリックスをいつ信用したのか?
シンディが登場してから協力者になるまでの、物語の展開を確認してみましょう。 1.メイトリックス、強引にシンディの車に同乗。敵を追跡するよう強要する。 2.ショッピングモールに到着。シンディ、敵をおびき出すようメイトリックスに依頼される 3.シンディ、警備員にメイトリックスを捕まえるよう通報。 4.追跡していた敵(サリー)、シンディとメイトリックスに気がつく。仲間に知らせようとするもメイトリックスと銃撃戦に。 5.警備員に狙われたメイトリックスをシンディがかばい、そのまま協力者となる このように見ていくと、シンディは「当初、メイトリックスを信用していなかったので警備員に通報した」、「後に、心変わりをしてメイトリックスに協力した」ということが見て取れます。従って、彼女の心変わりを促すきっかけがこれらのシーンの中に含まれているはずです。 シンディがメイトリックスを警備員に通報したのが「3」のタイミングですから、1~2は心変わりのきっかけにはなりえません。「1」の段階では自分の車の助手席を外されるなど、かなり乱暴な扱いを受けていますから、おそらくただただメイトリックスにおびえて仕方なく協力していたのでしょう。「2」の段階では「娘が誘拐された」と一応の事情は教えられていますが、状況が切迫していたこともあって十分な説明をする時間がなく、納得した様子は見せていません。彼女がちゃんとした事情を知ることができたのは、「5」の後、再び逃げた敵を追跡するシーンの途中です。 そうなると、消去法でシンディがメイトリックスを信用したのは「4」のタイミングしかありえないことがわかります。描写から読み取れるシンディの冷静さと頭の良さ
つまりシンディは「敵がメイトリックスに気が付き、仲間に知らせようと行動した」のを見て彼のことを信用した、ということになります。敵はメイトリックスに気がつくと、仲間に電話しようとそばに居たシンディから強引に小銭を奪っています。メイトリックスはこの動きに気がつくなり、「敵を電話ボックスごと持ち上げて叩き落とす」というかなり強引な方法で妨害を図り、そのまま警備員を含めた三つ巴の銃撃戦に突入しました。 シンディはメイトリックスと出会って以来、かなり無理やり協力させられているにもかかわらず必要以上に騒いだりせず、あくまで冷静に「事情を聞かせてほしい」と繰り返し訴えています。もちろん、メイトリックスに対する恐怖心もあったのでしょうが、彼の元を離れるときも、泣きわめいて逃げ出したりはせず、周囲の警備員に通報するというかなり落ち着いた安全な方法を取っています。 このような言動から、彼女はかなり冷静で肝が据わった性格であるということがわかります。だからこそ、メイトリックスの存在に気がついた敵がかなり焦った様子を見せたことから、「詳しい事情はわからないが、どうやら彼の言っていることは本当らしい」と判断したのではないでしょうか。「メイトリックスが追いかけていた敵の行動から逆算して、信用できるかどうかを判断した」というわけです。性格が冷静であるだけでなく、判断力があり頭もキレるキャラクターだといえます。 そんな彼女だからこそ、「第三次大戦」とも例えられるその後のメイトリックスの大暴れにも協力することができたのでしょう。日本語訳の独特な言い回しと、強引なストーリー展開、派手なアクションが注目されがちな「コマンドー」ですが、このようにキャラクターの内面が綿密に描かれているのも魅力のひとつだといえるでしょう。... 続きを読む映画「コマンドー」感想その1:なぜベネットは銃と人質を捨てたのか?
映画「コマンドー」の概要
まずはコマンドーについて簡単に復習しておきましょう。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BC かつて精鋭部隊「コマンドー」の指揮官であったジョン・メイトリックス大佐(シュワルツェネッガー)が、悪党によって娘を奪われ、それを取り戻すためにド派手なアクションを繰り広げるというストーリーです。コマンドーの悪役:黒幕のアリアス、ライバルのベネット
コマンドーについて語りたいところは無数にありますが、今回は「ベネットの最後」について取り上げてみたいと思います。そのためにはまず、2人の悪役について説明しなければなりません。 コマンドーには、個性的な悪役が何人も登場しますが、なかでもリーダー格と言っていい存在がベネットとアリアスです。ベネットはメイトリックスの元部下、残忍な性格が災いして舞台を追われ、ずっとメイトリックスに復讐する機会を狙ってきました。アリアスは、昔メイトリックス率いるコマンドー部隊によって国を追われた独裁者。ベネットを雇い、メイトリックスの娘を人質にして、故国の現大統領暗殺を強要した首謀者です。 2人はそれぞれ、主人公に個人的な恨みを持つ「ライバル」と、ストーリーの中で全体的な悪事を進行していく「黒幕」だと考えていいでしょう。どちらもヒーローアクションものには不可欠な悪役ですが、2人のキャラクター像はまったく異なった形に描かれています。自身を正義と信じて疑わない独裁者「アリアス」
先に「黒幕」、アリアスのキャラクター像から見ていくことにしましょう。メイトリックスは劇中で初めてアリアスと顔を合わせたとき、残忍な独裁者だった彼を罵りました。しかし、アリアスは少なくとも表面上は冷静に「故国を導くには(自分のように)厳格なリーダーが必要なのだ」と返します。つまり、「自分を悪人だと自覚していない悪役」として描かれているわけです。主人公への復讐に燃えるライバル「ベネット」
一方のベネットはというと、「主人公への復讐心」がクローズアップされたキャラクターとなっています。ベネットは物語の序盤、アリアスの命令でメイトリックスを捕らえましたが、「お前を殺せと言われたらタダでも喜んでやる」、「(捕らえるのではなく)本当は殺してやりたかった」という趣旨の発言をしています。そしてこれらのシーンでは、ベネットの顔には強い憎しみの表情が映し出されていました。ベネットの運命を変えたアリアスの一言
こうした2人のキャラクター像の違いが対象的に描かれているシーンがあります。英語と日本語訳のセリフを合わせて紹介しているサイトがあるので、そちらから引用させてもらい確認してみましょう。ほかにもコマンドーの名言・名台詞が多数紹介されているのでぜひ見てみてください。 http://toppoi.blog54.fc2.com/blog-entry-620.html 取り上げるのは、メイトリックスが自分たちを裏切ったことを知らず、大統領暗殺の知らせを2人がアジトで待つシーンの会話です。口だけは達者なトーシロばかり I love listening to your little pissant soldiers よく揃えたもんですな。 trying to talk tough. まったくお笑いだ。メイトリックスがいたら、奴も笑うでしょう。 They make me laugh. If Matrix was here, he’d laugh too. ベネット君、私の兵士はみな愛国者だ。 Mr Bennett, my soldiers are patriots. ただのカカシですな。 Your soldiers are nothing.
俺たちならまばたきする間に皆殺しにできる、 Matrix and I could kill every one of them in the blink of an eye. 忘れないことだ。 Remember that. 君は私を……脅しているのか? Are you trying to frighten me? 事実を言っているだけです。 I don’t have to try. 仕事を終えたらメイトリックスは娘を取り返しに来ます。 When Matrix finishes the job, he’ll be back for his daughter. 娘が生きていようがいまいがそいつは……関係ない。 Whether she’s alive or dead doesn’t matter. 奴はアンタを追いかける。 Then he’ll be after you. あんたをメイトリックスから守ることができるのは……俺だけです The only thing between Matrix and you… is me. 怖がっているのは、私ではなく君じゃないのかベネット? It is you that is afraid, Mr. Bennett. 君こそメイトリックスを恐れているんだ。 You are afraid of Matrix. もちろんです、プロですから。 Of course. I’m smart. しかしこちらには……切り札があります。 But I have an edge. I have his daughter.ベネットは、「(暗殺の成否、娘の生死にかかわらず)メイトリックスは必ず自分たちを殺しにやってくる。そのとき頼りになるのは自分だけだ」とアリアスに伝えます。ベネットの目的あくまでもメイトリックスへの復讐であり、最初からそのときを狙って返り討ちにするのが狙いだったということが示されているわけです。 ところが、アリアスはあくまで「大統領暗殺」と「自身の返り咲き」が目的のつもりなので、まったく話が噛み合いません。「私を脅しているのか?」、「メイトリックスを恐れているのは君じゃないのか?」と的はずれな返事をしてしまっています。ところが、このときのアリアスの指摘がその後のベネットの運命を大きく変えることになります。
なぜベネットは挑発に乗ってしまったのか?
目論見通り、娘を取り戻しにやってきたメイトリックスに対し、ベネットは「娘を人質にとり、利き腕を負傷させた上、飛び道具を持たない相手に銃を突きつける」という圧倒的に優位なポジションをとることに成功しました。この時点でほとんど勝利は確実だったはずですが、メイトリックスから「銃なんか捨ててかかってこい!」と挑発されると、あっさり娘を開放。銃も手放して格闘戦を始めてしまったのです。「プロ」を自称していたにもかかわらず、いったいなぜこんな行動を取ってしまったのでしょうか?ベネットはメイトリックスに「トラウマレベルの恐怖心」を抱いていた?
私はベネットが銃と人質を手放した理由は、「メイトリックスへの恐怖心」によるものだったと考えています。 ベネットがメイトリックスを恨んでいる理由について、劇中では「戦いを楽しむ性格を疎まれ隊を追われたから」と説明されていました。ベネットを訓練したのはコマンドー部隊の隊長であったメイトリックスであり、軍の精鋭部隊のことですから、当然厳しいシゴキもあったことでしょう。そんな中で、ベネットはメイトリックスに対してトラウマレベルの強い恐怖心を抱いたのではないかと思われます。彼が執拗にメイトリックスへの復讐にこだわるのも、そうした恐怖心を振り払い、トラウマを克服するためだったのではないでしょうか。 そのことを示す根拠となるシーンが、先ほどご紹介したアリアスとの会話です。会話の中で、アリアスは「君はメイトリックスを恐れている」と指摘していました。しかし、ベネットは落ち着いた様子で「もちろんです」と応え、特に大きなリアクションは見せていません。ですから、彼の言葉通り「メイトリックスを恐れてはいるが、それはプロとしての戦力分析から来るものだ」と解釈することもできるでしょう。「怖いのか?」の一言が秘められたトラウマを刺激
ですが、そのように解釈すると今度は、メイトリックスと対峙するシーンでの行動に説明がつきません。メイトリックスの挑発に対して、最初ベネットは至って冷静に応じる様子を見せませんでした。ところが、徐々にメイトリックスへの憎しみを露わにしていき、「怖いのか?」と言われたのをきっかけに人質と銃を手放しています。そして「てめぇなんか怖くねぇ!」と絶叫。このとき、劇中で最もメイトリックスへの憎しみが現れた表情をしていました。 このときのベネットのリアクションこそ、先のアリアスからの問いかけに対するベネットの「本音」だったのでしょう。第三者から指摘されたときは表面上、冷静に応えられたものの、いざトラウマの原因であるメイトリックス自身に「怖いのか」と指摘されると、それまで押さえつけていた恐怖心が湧き上がってきてしまい、それをかき消そうとあえて強気な態度を取ろうとしたのだと思います。このときのベネットの顔も、よく見ると純粋な憎しみというよりは、恐怖心が入り混じっているようにも見える表情をしていました。 もしかしたら、先にアリアスから「メイトリックスを恐れているのか?」と指摘されていなければ、ベネットは最後まで冷静に戦い、メイトリックスに勝利できていたかもしれません。そういった意味では、彼自身気づいていなかったかもしれない、過去のトラウマを表面化させたアリアスの一言は、ベネットにとって自身の末路を決定づける言葉だったといえるでしょう。... 続きを読む【ネタバレあり】映画感想:2017年版「オリエント急行殺人事件」
映画感想:2017年版「オリエント急行殺人事件」(ネタバレなし)