けものフレンズ2話感想その7:アクシスジカの塩を断るサーバルと「すっごーい!」の裏側

諸注意

前回記事:【2話 その6】アニメ感想「けものフレンズの謎」:フォッサとの出会いに見る、サーバルの強さへの憧れ

【Aパート インドゾウとの出会い】

フォッサとの出会いの後、インドゾウと出会った一行(厳密には、歩いていたかばんちゃんと踊っていたインドゾウがぶつかった)。簡単な会話とラッキービーストによるインドゾウの解説のあと、別れて旅を続けます。

かばんちゃん:はぁ~、さらに大きいフレンズさんだったね。

サーバル:それに派手だったね~。

このシーンでも、2人の感想は対照的です。かばんちゃんはインドゾウの大きさ、それも「フォッサよりも更に大きい」という点に注目しています。これは、今までかばんちゃんがほかのフレンズと出会ったときと同じリアクション(外見的特長、中でも他社との差異に注目する)と同じ傾向です。

一方、サーバルが言及したのはインドゾウの「派手さ」でした。言い換えれば、見た目のインパクトが印象に残ったわけです。一見、大きさと同じように外見的な特長に言及したように見えますが、私はこれもサーバルの「強さへのあこがれ」が表に出てきたシーンではないかと思います。つまり、「インドゾウは大きくて派手=見た目からして強そうだ」と言っているのではないか、ということです。

土を舐めて塩を摂取するアクシスジカ

インドゾウと別れた直後、今度は座り込んで何かをしているアクシスジカと出会います。

アクシスジカ:ここの土、舐めると体にいいんだって。「塩」?がどうのこうのらしいよ。お前らもどう!?

サーバル:えー!ホントに?

かばんちゃん:んー、今日は遠慮しときます。

シカなど野生の草食動物は、塩分摂取のために塩を舐めることがあるようです。人間の住む地域と生息域が重なっている動物などは、アスファルトから溶け出した塩を舐めることもあるとか。飼育下の草食動物に対しては、餌の中にミネラルを混ぜて摂取させることがあるようです。

私も簡単にネットで調べてみましたが、「アクシスジカが塩分摂取のために塩を舐める」という記述は見つかりませんでした。アクシスジカはアプリ版には未登場のフレンズです。アクシスジカの個性付けのために、なぜ「塩を舐める」という行為が選ばれたのかは不明です。

ちなみに、先ほどのインドゾウの「踊りが得意」との個性付けはアプリ版で同様の設定があることからきているようです。インドでは映画などで踊りが盛んなのが有名なので、おそらくそこから取られているのでしょう。

アクシスジカを傷つけないよう、配慮を見せるサーバル

このシーンで注目したいのは、塩を勧められたときのサーバルとかばんちゃんの断り方です。サーバルは「えー!ホントに?」と答えています。これは文脈とこの後の行動からいって、事実上「舐めたくない」という意味だと思われます。それに対して、かばんちゃんはより直接的な「遠慮する」という表現を選んでいます。

人から何か誘いを受けたとき、相手を傷つけないように断ろうとして、こういう断り方をする人はそこそこいるかと思います。つまり、サーバルには「相手を傷つけないように断ろう」という意図と、それを実現するための「適切な語彙」があった、ということになります。ここはわりと重要なポイントだと思います。

「単純なフレーズ」がウケたと言われているけものフレンズだが

けものフレンズという作品が話題になったとき、ひとつの理由として「すっごーい!」、「たーのしー!」といった単純な語彙が多用されるという点があげられました。つまり、これらの決まり文句がいろいろな場面で使いやすく、そのために「ファン同士で作中のフレーズを使って盛り上がる」ことができたのが、作品がヒットした一つの理由とされていました。

しかし、実際に作品をよく見てみると、こうした単純なフレーズが使われる場面はわりと限られています。さらに、今回のサーバルの受け答えのように「使っている言葉は平易だが、相手を傷つけないように断るという極めて高度なコミュニケーションのために使われている」セリフもあります。そういった点も合わせて考えると、けものフレンズは「表面的には単純でわかりやすい作品に見えるが、実はなかなか凝った作りになっている」といえるでしょう。

けものフレンズ=ほのぼの は錯覚か?

けものフレンズが、「実像以上に、単純でわかりやすい作品だと思われている」という点について、関連するエピソードをひとつご紹介しましょう。けものフレンズのファンの中でよく使われる派生フレーズのひとつに「君は◯◯のフレンズなんだね!」というものがあります。サーバルの声優を務める尾崎由香さんが、テレビ朝日「ミュージックステーション」に出演した際、司会のタモリさんに対して「すっごーい!タモリさんはイグアナのフレンズなんだね!」と言ったことからも話題になりました。

ところが、この「君は◯◯なフレンズなんだね!」というセリフ、劇中で一度も使われたことのないセリフなのです。詳しい経緯は、ニコニコ大百科の当該記事にかかれているので、気になる方は見てみてください。

参考:ニコニコ大百科 君は◯◯のフレンズなんだね!

劇中で一度も使われていないにも関わらず、多くのファンが好んで使い、出演声優さえも使用したということは、多くの人にとってこのフレーズは「けものフレンズの世界観をよく現している」というふうに感じられたということを意味しています。

つまり、多くのファンはけものフレンズという作品を「動物たちのように悪意や邪心を一切持たないキャラクターたちが、ほのぼのとした純真なふれあいをするアニメ」と捉えている、ということになります。私もこうした多くのファンの皆さんの見方は正しいと思います。というよりも、作品を見ていてそのような印象を持ったのであれば、それを他人があれこれ批評することはできないでしょう。

それに対して、私がこれまで第1話で行ってきたような考察は、この作品を「かばんちゃんの成長」と「サーバルの複雑なキャラクター性」といった、「ほのぼの」とは少し離れた方向性に言及してきました。私はほかのファンの皆さんが抱いているような「けものフレンズはほのぼのとした作品である」という印象を認めながらも、自分の捉え方が間違っているとも思っていません。

「ほのぼの」の裏にあるシリアスなテーマ

つまり、「けものフレンズという作品は、実際には真面目な主張が込められているにもかかわらず、それをあまり表面に出さず、多くの方に受け入れられるほのぼのとした雰囲気をたたえたアニメ」だと思っているのです。もし本当にそのような表現を狙っているのであれば、それは非常に高度なテクニックが求められることですが、だからこそ、この作品は「魅力的なストーリー」を学ぶのに適した題材だと思っています。

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