機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)考察-第三話「クランバトルのマチュ」

機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)- 第三話「クランバトルのマチュ」の考察です。

※第二話放送終了後~第三話放送開始前までに視聴した感想・考察です。

第二話の考察はこちら

機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)考察-第二話「白いガンダム」
機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)- 第二話「白いガンダム」の考察です。 ※第一話放送終了後~第二話放送開始前...

逮捕されたエグザべの罪状

サイド6の軍警察総局に捉えられたエグザべ。コモリによって「現行犯逮捕、よって地位協定は適用されない」との説明があります。これ以後にも「占領時代に逆戻り」というセリフもあることから、戦時中は中立だったサイド6も戦後、ジオンに占領され、その後地位協定を結んだことがわかります。

地位協定(ちいきょうてい)とは、二国間における国民の役割や権利などの地位を規定する協定

外国の軍隊の駐留など複数の国民が濃厚に接触する機会が増加する際に、両者の摩擦を防ぐために予め締結される。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E4%BD%8D%E5%8D%94%E5%AE%9A

これにより「ジオンは特定の条件が整えば、サイド6に軍隊を駐留させることができる」とわかるので、のちのシャリアの行動の根拠が見て取れます。

もう一つ「エグザべは何の在場で現行犯逮捕されたのか」については、おそらく不法入国でしょう。後でシャリアが「昨日付けの入国許可証」を用意して解放させていることもそうですが、ジークアクス自体がマチュに奪われているため、戦闘などについては(エグザべが黙秘していれば)証拠はありません。

エグザべが取り調べの際、暴行を受けたであろう傷があること、入国許可証のみで開放されていることなどから、彼は戦闘については黙秘を貫いたと考えられます。

状況について話し合うソドンのブリッジの中で「本国の総帥府にこの件を連絡するか」という話題が出たとき、全員に緊張が走ります。「軍の最新鋭機を紛失した」ということが総帥府(ギレン)にバレると、おそらくはキシリアの麾下である彼らの立場は危ういものになります。それを危惧してのことでしょう。

シャリアは特段、慌てる様子もなく(機械制御されているであろう)今日のイズマコロニーの天気を確認した後、ソドンによるコロニー内への侵入を決めました。彼らは軍隊であって、国際法や地位協定以外に、原則として行動を縛るものはありません。また、シャリアは部隊の指揮官であり、ソドンの部隊単位での行動は、任意に認められているはずです。そういった点を考慮して、その後の行動を決断したのでしょう。

現代日本にも通じるマチュの親子関係

場面は変わって、自宅で夕食を食べながら母親と会話するマチュの様子が映し出されます。時間は母親のスマホの画面に写った時刻から、22時過ぎ。おそらくマチュの門限は22時なのでしょう。夕飯のメニューはグラタンがひとつだけですが、既製品ではなく手作りに見えます。サイド6の監査局という、決して楽ではない仕事に務めているであろう母・タマキですが、娘には愛情を持って接しているようです。グラタンというメニュー選びも「前もって準備しておけば、温めて食べられる」という点を考慮していると思われます。

母子の会話は、高校生らしい「将来」に関するもの。「塾が遠いのは嫌?」と尋ねるタマキに「お金がもったいないかなって」と応えるマチュです。母子ともに「本当に言いたいこと」を外しながら、相手の様子をうかがっているところにリアリティがあります。

タマキはおそらく、マチュに自分と同じようなエリートコースを歩んでほしいのでしょう。そのために塾に通って学力をつけて、良い進路に進学してほしい、と考えているはずです。ただ、それをストレートに伝えるとプレッシャーになると考えて「塾の場所が遠いのは嫌か?」と少し外した聞き方をしているわけです。

マチュのほうも、そんな母親の態度がわかっているからこそ「塾に行くのが嫌」という答え方はせずに「お金がもったいない」というズレた答え方をしています。これにもタマキは「アマテの友達はみんな行っているんでしょ」と続けます。友達がみんな行っている=正しい選択だからあなたもやるべき、という理屈です。「バイトしてる子もいる=みんなが行っているわけではない」と応えるマチュですが、これはおそらく今日出会ったばかりのニャアンのことでしょう。

後でわかることですが、マチュが通っているのは進学校のお嬢様学校です。そんな学校で、バイトをしている子が多いわけはなく、母が「友達」と言ったので「今日であったばかりのあの子ももう友だちといっていいだろう」と考えて、言い訳にしようとしたのだと思います。

とはいえ、そんなことはタマキも知らないので「今は勉強でしょ」と、結局は自分が言いたかった本音に近い発言で締めくくります。これら一連の会話シーンで、タマキとマチュの足元が移りますが、回りくどいながらも、正論でアプローチしてくる母親に対して、マチュが少し足を引っ込めているのが印象的です。

忙しい中で自分に夕食を用意してくれ、将来を真剣に考えてくれるような良い母親だからこそ、真正面から反発しづらい、というマチュの難しい心境が伝わるシーンです。

マチュはいかにして「クランバトルへの出場」を決めるか?

マチュの回想としてカネバンの倉庫に持ち帰ったジークアクスと、それを解析するアンキーたちの様子が描かれます。ジークアクスがジオンの最新鋭機であること、用意していたザクが壊れて、クランバトルへの出場が危ぶまれていることなどから、アンキーは「ジークアクスに乗ってクランバトルに出ないか」とマチュを誘います。

ケーンはそこまで反対する様子は見せませんが、ナブとジェジーはマチュが子ども・素人であることから反対します。これは子どもがなし崩し的にガンダムに乗せられ、大人もそれを追認せざるを得ない状況に置かれることが多い、ファーストガンダムをはじめとした歴代ガンダム作品に対するアンチテーゼにも見えます。

このときもマチュは最初にカネバンを訪れた際、子ども扱いされたときと同じように不服そうな表情を見せました。しかし、そのことを回想している入浴シーンでは「バックレたらアンキーに通報されるかも」という心配をしています。ナブやジェジーに「お前には無理」と言われたことが不服だったはずなのに、自分に期待して誘ったアンキーの行動を心配するのは、一見矛盾にも思えます。

マチュがこのとき悩んでいるのは、周囲の反応に対してではなく「自分自身の気持ち」に対してでしょう。「自分は本当にクランバトルに出たいのか?」が、自分自身でわからないからこそ悩み、その根拠を周囲の反応(=出なかったら通報されるかもしれないから、出ないといけない)に求めようとしている、という心理状態ではないでしょうか。

「ジークアクス」という作品は、第三話までの描写だけでも、個人が自分の感など、主体的な意思に基づいて行動を決めることを肯定するような作品であることが読み取れます。なので第三話のテーマは「マチュがいかにして自分の意志で『クランバトルへの出場を決意する』に至ったか」であると言えます。

マチュの想像から読み取れる「失敗できない」プレッシャー

マチュが「ジークアクスに乗って軍警と戦った」ことを「通報されたらどうしよう」と考えたときのイメージは、一瞬ではありますが様々なことが読み取れます。

マチュが通っているのがハイバリー高校(名門お嬢様学校)であることも、この中に記載がありますが、MSに乗って戦ったマチュを想像したネット民の声が印象的です。

・親がエリートなのでプレッシャーでストレスが溜まったのでは
・退学では済まない、人生が詰む
・ハイバリーは学費が高いのにもったいない

実際にはこれらはマチュの想像なので「マチュの心象」が現れていると考えられます。そこで描かれる真理は、現代社会の高校生と何ら変わることはありません。親からのプレッシャーや「失敗できない」という想い、学費がもったいないという心配など、形は違えど、ナブやジェジーからマチュ自身がかけられた言葉ともそう意味は変わりません。

キャラに投影された氷河期世代とZ世代の葛藤

ナブやジェジーは難民街で暮らしていますから、おそらくは1年戦争で住んでいたコロニーから脱出してきた難民=エグザべやニャアンと同じ立場の人でしょう。現代日本で例えるなら「就活で失敗して非正規雇用で食いつないできた氷河期世代」のようなものでしょうか。

マチュは17歳ですから、放映時点の現代日本に当てはめるとZ世代に相当します。マチュがナブやジェジーから子ども扱いされ、不服そうな表情を浮かべるシーンは「Z世代が氷河期世代から説教されてむくれているシーン」と解釈すると、解像度が上がります。

ナブやジェジーは、戦争によって人生設計もできず、生きるのにやっとの状態です。お嬢様学校に通い、エリートコースを歩めるマチュに対して「自分たちのように人生を失敗してほしくない」という思いを持って、あえてあのようなことを言ってるのではないでしょうか。

クランバトルに出場するかどうか、迷っていたマチュですが「またあのキラキラが見れるなら」と、少しポジティブな方向へ心が傾きはじめます。このときのマチュが湯船の中(水中)に沈んでいることも、キラキラ=自由がたびたび海のイメージで例えられることと関連した演出でしょう。

失われたV作戦のコアデータ

物語は、ソドンのサイド6侵入まで進みます。ソドンは軍港こそ無理やり侵入したために、一部の領域を破損した様子ですが、その後はミノフスキー粒子も散布しておらず、ただコロニー中に滞在しているだけです。とはいえ、他国の軍隊がいきなりコロニー内に入ってきたわけですから、人々の生活に大きな混乱を与えていることがわかります。

投稿したマチュは、未だにクランバトルに出るかどうか悩み続けていますが、そのときにフラッシュバックしているのは「素人を巻き込むな、本当に死ぬぞ」というナブのセリフです。第一話で、最初にマチュが「キラキラ」を体験したときもそうでしたが、マチュは「死」を意識するとニュータイプ能力が発現する、という特性を持っています。

「赤いガンダムといっしょに戦えたら」と考え、ガンダムについて調べるマチュですが、この画面に重要な情報が映し出されています。

ジオンがガンダムをリバース・エンジニアリングしてMS開発を行った、という話からもある程度予想できていたことですが、「ガンダムの設計データはほぼ失われた」ということが明言されています。第二話でV作戦のコアデータにアクセスしようとしていたシャアの部下がいましたが、やはりペガサスのメインブリッジが破壊されたことでデータは入手できなかったのでしょう。

インストーラーデバイス=教育型コンピュータか?

また、以下は第一話でマチュがインストーラーデバイスに関する情報を検索した際に表示されたWikiの画面から読み取れる情報です。こちらも合わせて考えてみると、興味深い事実がわかってきます。

アマテが検索したオンライン百科事典「FOORYPEDIA」の「WG-X22100」の記事によれば、ジオニック社が開発・製造したモビルスーツのコンピュータ用インストーラデバイスで、元々は地球連邦軍がV作戦においてガンダムに塔載したカートリッジ式の「V-440」をベースとする。ガンダムを鹵獲して解析したジオン公国軍でも機体性能の向上が認められたため、ジオニック社がV-440の完全模写の形で「WG-X22100」を製造し、既存のモビルスーツに対しても本規格の戦闘コンピュータへの改修を積極的に行った。その結果「WG-X22100」は完成度と汎用性の高さから、ジオン独立戦争で最も多く使用された戦闘用インストーラデバイスとなり、ジオン製・連邦製を問わず、戦後以降のほぼ全てのモビルスーツで互換性を持つこととなった。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A9%9F%E5%8B%95%E6%88%A6%E5%A3%ABGundam_GQuuuuuuX

これは極めて重要な情報です。インストーラーデバイスは、劇中では単に「MSが武器を使用できるようにし、戦闘用のOSがインストールできるもの」とか説明されていません。しかし、それだけでは「戦闘能力の向上が認められた」という点の説明ができません。

「元々はガンダムに搭載されていたデバイスであった」「搭載すると戦闘能力が向上する」ということから考えると、インストーラーデバイスこそ、ファーストガンダムで存在していた「教育型コンピュータ」に相当するものであると考えれます。

重要なことは「V作戦のコアデータが得られなかったことで、実際にはインストーラーデバイスの中身はブラックボックスになっている可能性がある」という点、そして「そのデバイスのコピーが、その後のジオン・連邦のほぼ全MSに搭載されている」という点です。これはどんなことを示唆しているのでしょうか。

私は劇場版の考察で「シャロンの薔薇は、教育型コンピュータ+サイコミュとして作られているのではないか」と考えました。上記の設定を加味したうえでこの点を考え直してみると、次のように説を修正できます。

①アルファサイコミュは「教育型コンピュータ+サイコミュ」

鹵獲したガンダムが赤く塗装され、シャアの手に渡ったのがちょうど「ガンダムのリバースエンジニアリングによる簡易MSの量産案」が採用されたタイミングでした。その後、ソロモン陥落まで時は流れます。その間に「ガンダムの簡易MSの開発」「ザクなど既存MSへのインストーラーデバイスの搭載」「アルファサイコミュの開発」などが進められていったはずです。

アルファサイコミュが「教育型コンピュータ=インストーラーデバイス」とサイコミュ技術の組み合わせとして作られたものだと考えても、矛盾はありません。

②シャロンの薔薇はインストーラーデバイスのデータを処理するAI

すべてのMSにインストーラーデバイスが搭載されたということは、それぞれのMSの戦闘データがすべて蓄積されていく、ということを意味します。現実のAI技術によるビッグデータ活用のように、それらをすべて集積して使うことができれば、非常に優れた「戦闘AI」を作ることができるはずです。

グラナダの地下で、それら「インストーラーデバイスの戦闘データ解析」をおこなっていたAIスーパーコンピュータが「シャロンの薔薇」ではないでしょうか。

③オメガサイコミュは「シャロンの薔薇」から生まれた自動戦闘プログラム

シャロンの薔薇は、シャアが巻き込まれたゼクノヴァによって消失していますが、もしその後も同様の研究が進められていて「多数のMSの戦闘データからMSの自動操縦」を可能にするAIが生まれていたとしたらどうでしょうか。

そもそも、アルファサイコミュとオメガサイコミュは、名前の時点で対になっています。「アルファが目指した何らかの目的を実際に実現したのがオメガである」と捉えるのであれば、2つのサイコミュは同じ目的で作られたものだと考えられます。

アルファサイコミュは、ガンダムによるビットの操縦を可能にしていました。オメガサイコミュは、素人であるマチュの意思に従って、操縦桿に触れることすらなく自動的に期待制御をおこなっています。「ニュータイプによるビットの遠隔操作」が「AIによるMSの自動操作」に進化した、と考えたら、一定の連続性は感じられます。

シャロンの薔薇が「インストーラーデバイスを搭載したMSの戦闘データ」を解析してる場合、当然ながら戦闘能力に優れたニュータイプのデータは特に有為なものとして扱われているはずです。特にジオンの英雄・エースパイロットであったシャアのデータは、重要な意味を持っているはずであり、もしオメガサイコミュの起動に「AIのデータ元となった、シャアに近いニュータイプ特性を持つもの」でないと動かせない、といった条件が存在しているのなら、マチュだけがオメガサイコミュを起動できることにも説明がつきます。

直感に基づいたシュウジとの出会い

ガンダムについて検索する場面で、マチュは初めて「赤い彗星のシャア」を認知します。「変なマスク」という、常識的な感想を呟いた後、ニュータイプの直感により、前日に見たグラフィティが「キラキラ」を表していたことに気が付きます。

グラフィティの場所に向かったマチュは、シュウジと出会います。名前を聞かれ、とっさに小さい頃のニックネームを応えるマチュでしたが、これは単にイケメンに匂いを嗅がれて動揺ことだけが理由ではありません。

グラフィティには赤いガンダムと思わせる印が描かれており、シュウジによってすぐにジークアクスを表す白い印がその隣に付け加えられました。これはグラフィティの作者=シュウジが昨日の戦闘で感応した相手=赤いガンダムのパイロットであることを示しています。

マチュも、グラフィティのことを思い出した時点で、その可能性を直感的に気がついていたからこそ「正体不明のMSのパイロットかもしれない相手」にいきなり本名を話すのをためらい、ニックネームを伝えたのでしょう。

シュウジがマチュの匂いを嗅いだのは、おそらく嗅覚によって相手がニュータイプかどうか見極めようとしているからだと考えられます。ニュータイプ同士の感応というと、通常は視覚・聴覚をイメージしますが、本来であれば嗅覚や触覚など、五感のすべて(あるいはもっと上位な、直感的なもの)で感じ取れるはずだからです。

マチュの匂いを嗅いだことで「ジークアクスに乗っていたのがマチュだ」と確信が持てたからこそ、グラフィティにジークアクスを描き加えたのでしょう。マチュもシュウジの様子を見ていて、すぐにそのことに気が付きました。

マチュがカンを信じていなければ出会えなかった3人

ここで、昨日の戦闘で壊れたインストーラーデバイスの代わりを届けるために、ニャアンが運び屋として登場します。取引を始めようとする2人に対して「割り込まないで!」と怒るマチュですが、一見このシーンは少し不自然にも感じられます。

「単にマチュがせっかちで、自分が先に話したかったから」「すでにシュウジに好意を持ちはじめていて、ニャアンに嫉妬したから」の、どちらとも取れますが、結果的にシュウジがお金を落とし、3人が「クランバトルで戦う」ことの動機づけがなされました。

ニャアン:次ヘマしたらクビ、と言われていて失敗できない
シュウジ:お金がなく、インストーラーデバイスが壊れている
マチュ:クランバトルに出たいが、ひとりでは怖い

という状態にある3人が、

ニャアン:2人の勝利を信じて、インストーラーデバイスを託す
シュウジ:マチュと一緒にクランバトルに出て賞金でデバイスを代金を払う
マチュ:シュウジと一緒にクランバトルに出られる

という三方よしの状態を実現できることになります。しかし、この状況はすべて、非常に稀な偶然から生まれました。マチュがキラキラのことを思い出した直感で学校を早退し、ニャアンとシュウジが取引する直前のタイミングでこの場に来ていなければ、この状況は生まれていませんでした。

第二話は1年戦争時代の話なので除外するとして、第一話に引き続き、マチュの直感・行動によってニャアンとシュウジの運命も大きく変わり始める、という展開になっています。

マチュの提案を受けるかどうか、迷うニャアンでしたが、匂いを嗅いだシュウジは2人をガンダムの隠し場所へと案内します。直前にニャアンが考えていたことが「(シュウジは)こんなに貧乏じゃ持ってるMSもたかが知れてる」ですので、それを匂いから感じ取り「持っているMSを見せよう」と行動したことがこのシーンからもわかります。シュウジは「戦え、とガンダムがいっている」というセリフとともに、クランバトルへの出場を承諾。彼の口癖である「ガンダムがいっている」というセリフが何を示すのかは、まだわかりません。

17バンチ事件の謎

場面は移り、イズマコロニーを訪れる首席補佐官・カムランと、それを出待ちするシャリア・ブルの登場です。本来まったく接点がなかったはずのシャリアとマチュの母親であるタマキの距離が、急に近づいた出来事なのも印象的です。

車中でのシャリアとカムランの会話からは、様々な背景事情が読み取れます。カムランは、シャリアがなぜイズマコロニー内にソドンを侵入させたのか、訝しんでいる様子ですが、シャリアは暗に「シャアの捜索のためで、その件は地位協定の適用除外(だから自分の行動には問題はない)」と伝えます。これも、明確には明言せず「カムランがそう読み取れるように遠回しに伝えている」のがポイントです。

実際には「赤いガンダムを追っていたら結果的にコロニー内に侵入してしまい、不法入国の形になったエグザべを取り戻すために、そういう体裁を整えた」のですが、それをはっきりいうわけにいかないので「表向き、そういう体を取ります」ということをカムランにわかるように伝えたわけです。

ここで「17バンチ事件」という、謎のキーワードが登場しますが、どのような事件なのかは前後の会話からある程度は読み取れます。

・カムランとシャリアには以前から面識がある(以前なにか別の事件で顔を合わせていた)
・カムランの「まだ赤い彗星に振り回されているのか」というセリフ(以前会ったときもそうだった)
・シャリアの「その件は地位協定の適用除外」というセリフ
・カムランの「17バンチ事件の二の舞いは」というセリフ(以前にも、今回と似たようなことがあった?)

以上のことから類推すると、17バンチ事件とは次のような出来事だったのではないでしょうか。

・サイド6とジオンとの間でおきた事件
・シャリアとカムランが初めて知り合ったきっかけ
・シャリアがソドンを率いて赤いガンダムを探す過程で起きた
・ソドンがサイド6の領空内(17バンチ)に侵入し、ミノフスキー粒子を散布した

その際、実際に戦闘にまで至ったかどうかまではわかりませんが、ミノフスキー粒子を散布すれば、民間の電子機器が大きな被害を受けたであろうことは想像に固くありません。サイド6の軍警が非常に好戦的であることからも、ジオンとの間で小競り合い、もしくは戦闘一歩手前の状態にまで至っていたとしても不思議はありません。

シャリアは警戒され、閑職に回されている?

終戦から5年が経つのに、未だにソドンが現役なことについて「ジオンも懐が苦しいのです」と応えるシャリアですが、カムランは「御冗談を」と返します。このやり取りはどういう意味でしょうか。

まず、国としての立場はジオンのほうがサイド6よりも上です。これは地位協定の内容からも明らかです。また、ジオンは戦勝国であり、連邦に対しても優位性があります。「戦争には勝ったが、ジオンにとっては辛勝であり、経済的にはむしろファーストガンダムのときよりも苦しいのでは」と推理している人もいますが、私の考えは違います。

連邦は宇宙から(少なくとも軍事的には)完全撤退しており、まったく手が出せない状態にあります。これは、(木星圏で得られるヘリウム3など)地球圏での生活に必要なエネルギーもジオンに握られることを意味します。戦後の賠償金など、交渉はいくらでもジオンの有利に進められたでしょう。

ジオンは完全に宇宙を掌握していると見られるので、もし戦後の連邦の対応に不足があれば、すぐにでも再度のコロニー落としをはじめとしたより強硬な策を採ることもできるはずです。「ジオンの懐が苦しい」というのはシャリアの嘘でしょう。

そもそもシャリアは1年戦争を勝利に導いた英雄のひとりであり、ソロモン落下を阻止したシャアの部隊の一員としても活躍しています。それが戦後5年を経て、旧式の艦しか与えられていないのは、彼がニュータイプとして警戒され、閑職に回されているからでしょう。もちろん、シャリアとしてはシャアの捜索は自ら希望するところでもあるので不服はないのでしょうが、そういった背景を特に意識せず、冗談だと解釈したカムランに「ジオンの内情はそこまでまだ知られていないな」と安心したのかもしれません。

政治的な立ち回りができるようになったシャリア

地位協定で、ジークアクス絡み(MSによる戦闘やコロニー侵入)が「シャア捜索のため」という理由から有耶無耶になったことで、残る問題は「エグザべの不法入国のみ」となりました。これもシャリアが用意してきた「昨日付けの入国許可証」でクリアされたので、無事エグザべは解放されることになります。カムランとしても、特に事を荒立てる必要はなかったので、シャリアの提案にそのまま乗ったのでしょう。

こうした一連の対応はもちろん、カムランの到着を見越した出待ち、エグザべへの私服の差し入れ、バンドエイドの用意など、シャリアは一見向こう見ずにも見えて、実際には先々の展開を見通しながら様々な準備をしていることがわかります。1年戦争の時点で、ギレンとキシリアの間で板挟みになっていた彼からは想像もできないようなスマートな立ち回りです。これもまた、シャアから学んだことなのでしょうか。

マチュの「本物のマヴ」

クランバトルの開始直前、カネバンに到着するマチュ。「もうすぐ私のマヴが来る」と面々に伝えます。鶴巻作品では、キャラクターがセリフとして口に出したことは非常に重いという特徴があります。ほとんどの場合は、後から伏線として回収されることが多いです。今回は、いつのまにか足元にいたハロも「マチュのマヴ、本物のマヴ」と補足しているので、より重い言葉になっています。

アンキーの口からも「あの子は間合いがわかってるんだ。本物かもしれない」という言葉が出てきます。この言葉から「アンキーは元ニュータイプ関連の研究者ではないか」と予想している人もいますが、私はまだそこまで確信を持つには情報が足りないと考えています。

ジークアクスがコロニー外に出るシーンで、オメガサイコミュからはアラートが鳴っています。これがおそらく、コワル中尉が確認している「オメガサイコミュの起動シグナル」でしょう。実際にその直後のシーンで、シャリアに「ジークアクスが動いた」という連絡が来ていることからも、それがわかります。

民間人と軍人の、マチュへの評価の違い

シュウジの赤いガンダムも出場し、クランバトルがスタート。初めての正式なM.A.V.戦術での戦いに、マチュは戸惑います。1機から先制攻撃を受け、反撃しようと追いかけている間に、もう1機から攻撃を受ける、という展開になります。シャリアによるM.A.V.戦術の解説もおこなわれますが、相手チームの動きは「M.A.V.の基本に忠実」と評価されます。

一方的に攻撃され、反撃できないマチュを心配するカネバンの面々に対して、シャリアとエグザべは「ジークアクスですべての攻撃を回避している」と逆にポジティブな評価を下します。オメガサイコミュだけで、ここまでの機体制御ができること(女学生であれば、そもそも訓練を受けていないMSの操縦はできないはず)に、シャリアは強い興味を持った様子です。

死を意識して発現する空間認識能力

閃光弾で視力を失い、ヒートホークも手放してしまい、絶体絶命のマチュですが、死を意識したタイミングで再びキラキラが発現。もう1機のザクに攻撃される瞬間にマチュを救い出し、身代わりになります。

ここでマチュは、2機の敵機に挟まれながらも、ヒートホークの軌道を読んで誘導するという驚異的な動きを見せます。一見、追い詰められたかに見えたタイミングでの「もう間合いが」というエグザべのセリフは、アンキーの「あの子は間合いがわかってるんだ」というセリフに対応するものでしょう。

ここでいう「間合い」とは、ニュータイプの特徴である「空間認識能力」のことであり、それが「宇宙空間における戦闘」によって、最も鍛えられる、発現しやすいということを示したシーンではないでしょうか。ファーストガンダムにおいても「戦争がなければララァの目覚めはなかった」というシャアのセリフがありますが、戦いがニュータイプ能力を発現させる大きなきっかけになることは間違いありません。

本物のM.A.V.戦術はニュータイプにしかできない

2機目の反撃もシュウジがフォローし、見事戦いはポメラニアンズの勝利に終わりました。エグザべが呟いた「これが本物のM.A.V.」とはどういう意味でしょうか。M.A.V.戦術は、一般的にはシャリアが語ったように「ミノフスキー粒子化による戦闘で、2人1組で先制攻撃を仕掛け続ける戦術」とされていますが、実際にはマチュとシュウジがやったように「ニュータイプ同士が、相互の感応によってお互いをフォローする」という戦術なのでしょう。

第三話のポイントは、以下のとおりです。

・マチュ・ニャアン・シュウジ3人の出会いと、クランバトル出場への決意
・インストーラーデバイスの謎
・本物のM.A.V.戦術

第四話は、いよいよ劇場では描かれていないストーリーへ突入するので、ますます目が離せません。