ノイエ銀英伝7話感想・考察その4「理想と現実が乖離していくヤン・ウェンリー」

7話「イゼルローン攻略(後編)」
~フェザーンの登場とヤン・ウェンリーの幸せ~

戦いは終わり、ヤンはフレデリカに本国への通信を指示する。司令室を去る際、シェーンコップのそばでヤンは「何が武人の心だ」とつぶやく。一方、ゼークトを見限ったオーベルシュタインは本国に向けて帰還しつつ、今後の身の振り方を思案していた。

同盟軍がイゼルローンを占拠したとの知らせは、遠く離れたフェザーン自治領にも届いていた。自治領主アドリアン・ルビンスキーは、ニコラス・ボルテックにヤン・ウェンリーのことを調べさせるよう指示を出し、不敵に微笑むのだった。

同盟に帰還したヤン・ウェンリーは、無傷でイゼルローン要塞を陥落させた英雄「ミラクル・ヤン」、「魔術師ヤン」と褒め称えられる。勝った、勝ったと無責任浮かれる大衆の様子にヤンは憤るが、同時に同盟が有利な状況で講和が望めると将来への希望を口にした。一刻も早い平和の実現と自身の退役を望みながらも、ままならない世の中の流れに「せめてブランデーくらいは好きに飲みたい」と望むヤンであった。

ラインハルトに近づいたオーベルシュタインの思惑

オーベルシュタインは、自分の進言を聞こうとしないゼークトを見限り、ひとり旗艦から離脱。要塞主砲によって葬られるのを免れました。彼はその時点で戦後のことを考えており、司令官のそばにいながらただひとり生き残った自分に責任が負わされることになるだろうと予想しています。

そもそも、艦隊を離脱したこと自体上官からの命令ではないので、軍務を無視して戦場から逃亡したことになります。極めて不利な立場であり、処刑されることになったとしても不思議はありません。

ここで思い出してほしいのは、オーベルシュタインがこの任務につくにあたってキルヒアイスに話しかけ、ラインハルトとの接触を図っていたことです。ラインハルトたちは自分に敵対するものが身辺に近付こうとしてきたのではないかと警戒していましたが、事前に今回のような事態になることを想定してラインハルトの知遇を得ようとしていたのかもしれません。

オーベルシュタインは「真の勇気がないものは語るに足らん」と発言しており、これは言い換えると「語るに足るものは真の勇気を持つもののみ」となります。帝国側で「真の勇気=必要なリスクを恐れず、判断を誤らない者」といえばラインハルトです。彼が自らの身を護るために、あるいは「語るに足る相手」を得るためにラインハルトと接触するのは十分に有り得ることだとこの時点から推測できます。

第三の勢力、フェザーン自治領とルビンスキー

銀河系には、「ゴールデンバウム超銀河帝国」と「自由惑星同盟」という2つの勢力が存在していますが、第三の勢力として「フェザーン自治領」が存在していました。今までは名前だけの登場でしたが、今回はじめて自治領主(ランデスヘル)であるアドリアン・ルビンスキーが登場します。

とはいえ、まだワンシーンだけの登場であり、「ヤン・ウェンリーについて調べるように」との指示をニコラス・ボルテックに与えただけで、具体的にどのような勢力なのかは判然としていません。今後の動向が注目されます。

理想がかなわないまま、成果だけを挙げ続けるヤン

同盟に帰還したヤンは、その空前絶後の実績により「ミラクルヤン」、「魔術師ヤン」と褒め称えられました。事前にシトレが予想していたとおり、文句のない実績によってヨブ・トリューニヒトにその立場を認めさせるのに成功したと言えるでしょう。

ただし、ヤンはこうした状況をあまり喜んではいませんでした。彼の目的はあくまでも「帝国に有利な立場を築いた後の講和」であり、戦いに勝ったと騒ぐことではありません。それでもユリアンは「褒めてくれているんだから素直に喜べばどうか」と語りますが、「勝っているうちはいいが、負ければ手のひらを返す」と意に介す様子はありませんでした。

このときのヤンは、「自分が望んでいるのと違うことをやるよう求められ、なんとかうまくやっているが望みとは違う形で評価されている」という状況です。客観的に見れば「幸せ」に見えるかもしれませんが、本人はまったく幸せではないでしょう。

最後に「ブランデーぐらい好きに飲ませてくれ」とユリアンに頼んだのは、そうしたままならない状況に置かれた彼の心情を表したセリフだといえます。