田中芳樹氏原作の小説「銀河英雄伝説」が、2018年4月から再アニメ化されました。今回は第1話である「永遠の夜の中で」の冒頭のシーンを取り上げてみたいと思います。
銀河英雄伝説 Die Neue These(ノイエ銀英伝)
『銀河英雄伝説』(ぎんがえいゆうでんせつ)は、田中芳樹によるSF小説。また、これを原作とするアニメ、漫画、コンピュータゲーム、朗読、オーディオブック等の関連作品。略称は『銀英伝』(ぎんえいでん)。原作は累計発行部数が1500万部を超える[1]ベストセラー小説である。1982年から2009年6月までに複数の版で刊行され、発行部数を伸ばし続けている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8A%80%E6%B2%B3%E8%8B%B1%E9%9B%84%E4%BC%9D%E8%AA%AC
本作は1988年~2000年に渡って、一度OVAの形式で一度アニメ化されています。私は旧アニメ版は全話視聴していますが、原作は読んだことがありません。
第1話「永遠の夜の中で」
宇宙暦796年、帝国歴487年初頭、ラインハルト上級大将率いる二万隻の銀河帝国軍艦隊は、イゼルローン回廊を抜けて自由惑星同盟方面へと進行。迎え撃つ自由惑星同盟軍は帝国軍の二倍に及ぶ四万隻の艦隊を動員し、帝国軍艦隊を三方から包囲しようとしていた。メルカッツ大将らラインハルト麾下の5人の提督は、”撤退”を意見具申するが……。
http://gineiden-anime.com/story.html
銀河英雄伝説 Die Neue These 第1話の概要
ストーリーは、旧アニメ版と同じく「アスターテ会戦」から始まります。第1話ということもあって、作品の雰囲気を伝えることが重視されており、細かい設定などについてはあまり触れられません。本編はほとんどCGを駆使した戦闘シーンで構成されています。
短いながらも世界観の要点が詰まった冒頭のシーン
「馬車に乗る人々」を映し出すところから物語は始まります。馬車という現代から考えるとレトロな乗り物を出すことによって、見る人は一瞬、「中世、もしくはそれをベースにしたファンタジーな世界の話なのかな」という印象を受けますが、そうではないことが直後のシーンで判明します。周囲を包む轟音に、馬車の人々が何事かと空を見上げると、上空には巨大な宇宙戦艦が飛行している様子が描かれるのです。
この時点で、視聴者はこの作品がファンタジーではなく、SFを描いたものであることに気づかされます。さらに、きらびやかな舞踏会を楽しむ貴族たちが、宇宙戦艦を見上げる描写と合わせて、視聴者は以下のようなメッセージを受け取ることができるはずです。
・宇宙船のようなハイテクがある時代なのに、一般の人々は馬に乗らざるを得ないような貧しい生活を強いられていること
・それとは対象的に、貴族たちは豪勢で優雅な生活を営んでいること
これらのことから、SF作品ではあるものの、貧富の格差がある世界観であり、かつ、そうした世界観設定を丁寧に描写するような作品である、ということがわかります。
銀河英雄伝説のテーマは、歴史と人物
冒頭のシーンでは、その後、以下のようなナレーションが続きます。
ここに描かれた事々が、あなたの知っているものに近く、ここに現れた人々があなたの知っている人に似ていたとしても、それは歴史の偶然であり、必然である。
このナレーションから、この作品は「歴史」、そしての中でさまざまな役割を演じる「人々(人物)」をテーマにしたものであることが提示されます。世の中にはストーリーのテーマ性をあらかじめわかりやすく提示する作品と、そうでない作品がありますが、銀河英雄伝説は前者に該当するということが示されました。
おそらく「幼少期のラインハルト」と思われる人物が宇宙船を眺める光景を映してOPテーマが始まります。
OPは旧作と同じく、登場人物の紹介
旧アニメ版は全部で4部にわかれており、それぞれに異なるOPテーマが存在します。今回も同じようにエピソードが描かれるかは現時点ではわかりませんが、OPは旧アニメ版を彷彿とさせる作りです。
本作は登場人物が多く、歴史群像劇のような雰囲気がありますが、OPではそうした個性豊かな登場人物が多数登場します。いわばOPそのものが登場人物紹介のようになっているわけです。
最初は主人公であるラインハルトと、その部下であり親友のキルヒアイスが登場し、彼らが属する勢力である銀河帝国の面々が登場します。その後、彼らが戦うことになる自由惑星同盟の面々が登場し、最後はもうひとりの主人公であるヤン・ウェンリーが登場して終わり、というシンプルな流れです。EDの映像もほぼ同じパターンで構成されています。
Aパート冒頭:3勢力の説明と主人公ラインハルト、キルヒアイスの登場
ここからいよいよ、本格的に本編が始まります。物語のスタート時点である宇宙暦796年には、宇宙に「ゴールデンバウム朝銀河帝国・自由惑星同盟・フェザーン自治領」の3勢力が存在することが示されます。しかし、とりあえずはこれらの勢力が三すくみの状態になっていると説明されるのみで、それぞれについての詳しい説明はありません。つまり、今回の話の中ではそこが要点ではないということになります。
続いて、宇宙戦艦の中で星を眺めている主人公「ラインハルト」の元に、「キルヒアイス」がやってきます。キルヒアイスはラインハルトを「閣下」と呼ぶので、2人が上司・部下の関係にあることがわかりますが、同時に「キルヒアイスの身長」というプライベートな話題も口にしているので、2人が親しい間柄であることもわかります。
ここでキルヒアイスは、ホログラムの投影機を用いて映像を映し、ラインハルトに「反乱軍」の様子を説明しました。2人の会話から、彼らが艦隊を率いて敵との戦いに赴くところであることがわかります。さらに「敵の数が自軍の2倍であり、しかも三方から自軍を包囲しようとしている」ということが判明しました。
普通なら驚いたり、焦ったりするところですが、ラインハルトは特に動揺した様子を見せません。それどころか、「老人どもは青くなっているだろう」と語っているときの表情には、明らかな余裕が漂っています。この時点で、おそらくこの状況はラインハルトの予想の範囲内だったのだろう、ということが推測できます。
最初に示されたテーマが真っ先に描かれる
先に、この作品のテーマは歴史と人物である、とご説明しましたが、今回ご紹介した最初のシーンでは、それらが真っ先に描かれることとなりました。この作品はSFでもあるため、世界観などについてより詳しく説明したり、主人公を取り巻く人々を描くなど、より主人公の「外側」から描いていくという方法を取ることも可能だったはずです。
しかし、この1話ではそうした世界観に関する説明は必要最小限に抑えられ、まず「3つの勢力が覇を競っている」という事実と、「主人公はどんな人物で、今どういう状況にいるのか」というところから描き始めています。
最初に明確にテーマが示されたことと合わせて考えても、今回の新アニメ版は脇道によらず、「ストレートに作品の主題を集中して描く作品」になるのではないかと考えられます。