【Bパート 成長したかばんちゃんの木登り】
サーバルはかばんちゃんとラッキービーストをかばい、黒いセルリアンに取り込まれてしまいました。ラッキービーストを抱え、船へと向かうヒグマと別れ、かばんちゃんはひとり黒いセルリアンに立ち向かっていきます。
(かばんちゃん、黒いセルリアンの進行方向にある大木の根元に駆け寄る)
かばんちゃん:んっ・・・んっ・・・。
(かばんちゃん、木の根元に絡まっていた蔦の強度を確認する。)
(セルリアン、かばんちゃんがいる木の真横に向かって進行を継続。かばんちゃん、蔦を自分の腰に巻き付け、木を登り始める)
かばんちゃん:この距離からなら・・・。うわっ!
(かばんちゃん、誤って木から落下)
かばんちゃん:うっ、ふっ、いっ、ふあっ!
(かばんちゃん、再び木を登るも途中で落下し、手近な枝に捕まる)
かばんちゃん:うっ、ううっ・・・あっ!
(かばんちゃん、木登りを再開。セルリアンの体内に捉えられているサーバルを発見する。)
かばんちゃん:みゃ・・・うみゃ・・・うみゃみゃみゃみゃみゃみゃ・・・!!!
(かばんちゃん、セルリアンの体高よりも高い枝に到達。)
かばんちゃんのサーバル救出作戦
今回取り上げたシーンは、すべてかばんちゃんのセリフと行動から構成されています。1人の登場人物の行動がここまでクローズアップされたのは、けものフレンズの劇中でも初めてのことです。
かばんちゃんがサーバル救出のためにとった行動をまとめると次のようになります。
セルリアンの進行方向近くにある、セルリアンより背の高い木を見つける。
体に丈夫な蔦をくくりつけ、木を登りセルリアンより高い位置に行く。
セルリアンが木の近くによってきたら、枝から飛び移りセルリアンの体内に侵入する。
セルリアンの体内にいるサーバルを抱きかかえ、蔦を利用して脱出する。
それでは、これらの行動の中からどのようなことが読み取れるか考えてみましょう。
苦手だった木登りにあえて挑戦したかばんちゃん
かばんちゃんは、ヒグマに対してはセルリアン退治の作戦を続行するかのようなことを言っていましたが、サーバル救出を諦めたわけではありませんでした。ラッキービーストと別れる際、目配せしたのもその自分の意志を伝えようと考えたためでしょう。言い換えると、ラッキービーストがその後七色に瞳を輝かせて行っていた「特別な行動」は、かばんちゃんの行動を受けてのものだったと考えられます。
かばんちゃんはセルリアンに取り込まれたサーバルを助けるため、命綱を付けながらセルリアンにダイブすることを考えました。ちょうど飛び移るための木の根本に命綱として使える蔦が巻き付いていたため、短時間で準備を終えることができましたが、おそらく最初から計画していたことではなかったのでしょうから、運が良かっただけだと考えられます。
しかし、かばんちゃんが選んだ木は太く、木登りが決して得意とは言えない彼女にとって登りやすいものではありませんでした。そもそもかばんちゃんが木登りを覚えたのは、サーバルから「実を守るために便利だ」として勧められたからです。
1話のさばんなちほーで初めて挑戦した木登りは、初挑戦だったこともありサーバルの手助けを受けてようやくできた程度でした。ただし、この木登りはかばんちゃんが「生まれて初めて、何事かを成し遂げた瞬間」であったことに留意する必要はあります。サーバルが木登りを勧めたのも、生まれたばかりで何事も自分ひとりではできないことを気にするかばんちゃんに、何かできることを教えてあげたいという気持ちがあったからでしょう。
その後、かばんちゃんが再び木登りに挑戦したのは8話、PPP(ペパプ)のライブを見るときでした。このときはかばんちゃんも少しは上達したと見えて、以前よりも高い木に登ることができました。
今回挑戦した木は、以前登った2本を遥かに上回る規模です。しかも、今まで手助けしてくれていたサーバルはいません。かばんちゃんも最初は苦戦するものの、「うみゃみゃ」と、サーバルが木に登るときの声を思わせる掛け声で一気に目的の高さまで木登りを成功させています。
木登りの上達を通じて、かばんちゃんの成長が描かれた
このかばんちゃんによる木登りのシーンは、「かばんちゃんの成長を暗喩するシーン」として、放映当時からファンの間で捉えられてきました。つまり、以前よりも高い木に登れるようになったこと、サーバルの助けを借りずに自分一人で木登りを成功させたことなどから、「かばんちゃんの長い旅の間にさまざまなことを学び、成長した」ということを視聴者に対して示すためのシーンだという捉え方です。私もこうした見方は正しいと思います。
野生開放で木登りを成功させた可能性
あえて何か付け加えるとするのなら、このシーンのかばんちゃんは「野生開放」を行っている可能性がある、ということでしょうか。木登り中のかばんちゃん(特に、「うみゃみゃ」といい出した後)は、すべて後ろ姿で、正面から顔が描かれていません。仮にこのときかばんちゃんが「野生開放」を行い、その効果で木登りを成功させていたとしたら、かばんちゃんの瞳はそのとき輝いていた可能性もあります。
ただ、野生開放を示す「サンドスターの放出」が見られないので、野生開放を行っていたかどうかを確定できないのが弱いところです。同じように、「野生開放を行っていたかもしれないシーン」の例として挙げられるのは、2話においてサーバルがジャパリバスの運転席を抱えて川を渡ったシーンがあります。こちらも、川を渡っている最中のサーバルの顔が見えないという共通点はありますが、今回と同様サンドスターの放出は見られません。
ですが、「野生開放を行えば必ずサンドスターの放出が見られるのか?」という問題もあるので、「どちらとも取れる」というのが正確なところでしょう。(ちなみに、サンドスターの放出がなくとも野生開放を行っている可能性があると私が考える根拠は、12話で描かれることになります。)
世話になったフレンズのため、自らの命をかけた
もう1点、このシーンから読み取れることは、かばんちゃんが「暫定パークガイド」になる際、ラッキービーストに対して語ったことの目に見える証拠になっている、ということです。
かばんちゃんが山頂で、避難を勧めるラッキービーストに対して「自分はお客さんじゃない。これまでいろいろなフレンズに助けられてきた。パークに危機が迫っているなら自分にできることをしたい」と語り、ミライさんから受け継いだ帽子をかぶったとき、具体的に「今まで出会ったフレンズからどのように助けられたのか?」という点については一切触れていませんでした。
確かに、1話から11話までのストーリーをすべて見てくれば、かばんちゃんがさまざまなフレンズに助けられ、成長してきたということは伝わるのですが、あえて言葉にしてそのことを確認しているわけですから、何か具体例を示したほうが本来は視聴者に対してわかりやすいと言えます。
これが普通のアニメであれば、かばんちゃんが旅の途中でさまざまなフレンズに助けられたシーンを回想として盛り込むような演出がなされたことでしょう。しかし、けものフレンズはそうしたありがちな演出は取りません。代わりに挿入されたのが、今回のシーンだったと考えられるわけです。
「木登り」は、かばんちゃんがサーバルから教えられた技術でした。これによってかばんちゃんは自分の身を自分で守れるようになり、フレンズとして独り立ちすることができたわけです。かばんちゃんが「今まで出会ったフレンズに助けられた具体例」としては、これ以上ないいい例でしょう。
直前のシーンで、サーバルはかばんちゃんをかばいセルリアンに取り込まれてしまいました。これは、「自分にとって特別な存在(かばんちゃん)のために命をかける」という、サーバルの行動原理をビジュアル的に表したシーンだと考えられます。同じように、それに引き続く今回のシーンでも、「今まで出会い、世話になったフレンズたちのために命をかけたい」というかばんちゃんの決意がビジュアル的に描かれたのだ解釈すると、11話を通じて制作者が我々に訴えたいことがとても素直に伝わってくると思います。