けものフレンズ12話感想その18:かばんちゃんの「パークの外」への想い

諸注意

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【Bパート 「まかせて」の謎と「パークの外」】

パーティーの途中、サーバルと2人で観覧車に乗ったかばんちゃん。ゴンドラが一番高い位置まで移動したとき、ラッキービーストがミライさんのメッセージを再生し始めて・・・。

サーバル:うわーっ!パークが遠くまで見えるね。

かばんちゃん:うん、怖いけどキレイだね。

(ラッキービースト、ミライさんのメッセージを再生する)

ミライさん:ふう、最後に一回は乗っておかなくちゃね。・・・結局、パークの職員は島を出ることになりました。短い間でしたけど、私はこの島で出会えたたくさんの奇跡に感謝しています。きっとまた・・・ラッキー、留守をよろしくね。

ラッキービースト(ボス):まかせて。

ミライさん:ごめんね、すぐ戻るから。・・・あっ。

(風が吹き、ミライさんは帽子を飛ばされる)

もう一人のサーバル:ミライさーん!

かばんちゃん:外・・・。

観覧車から見るパークの風景が描かれなかった理由

サーバルたちによって、何らかの意図で地上を遠ざけられ、観覧車に乗せられてしまったかばんちゃん。隣のゴンドラが落下するなど少々アクシデントはありましたが、高い位置まで移動したゴンドラからはパークの光景を広く見渡すことができました。

このシーンの演出では少し不自然な点があります。これまでの傾向なら「パークが遠くまで見える」と言っているのですから、サーバルたちが見ている遠くの光景をそのまま視聴者にも見せようとするはずです。似たようなシーンとしては、超巨大セルリアンを倒した直後、セルリアンの残骸である溶岩を見るキンシコウとツチノコの様子や、ラッキービーストを探すフレンズたちの様子を描いたシーンがあげられます。

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これらのシーンではフレンズたちの表情を正面から映していません。その意図は「視聴者もフレンズと同じ目線に立ってもらうこと」にあるのではないかと解説してきました。だとしたら、今回の観覧車のシーンも「観覧車から見えるパークの光景」をあえて描かなかったことに理由があるはずです。

キャラの感心は「パークの外」に向いている

私は、サーバルもかばんちゃんも、言葉の上でこそ「外の光景」を気にしているものの、実際には別のことを考えていたからために、このような描き方になったのではないかと思います。つまり、とりあえずの話題として風景の話をしたものの実際には上の空だったということです。

サーバルが何のことを考えていたのかは比較的想像しやすいでしょう。そもそも2人が観覧車に乗ったのは、サーバルがフェネックらと共謀して何かを企んでおり、かばんちゃんを一時的にパーティー会場から遠ざけるための仕組まれた行動だったと考えられます。ですから、サーバルに関していえばその仕掛けのことを気にしていたと考えれば辻褄があいます。

かばんちゃんが何を考えていたかは、この後のミライさんのシーンについて考えると、自然と想像がつくのではないでしょうか。

ミライさんは「パークの外」に向かう

メッセージの中でミライさんは「パークの職員は島を出ることになった」と語っており、最後の思い出づくりとして観覧車に乗っていたと考えられます。職員が島を退去することになった理由は、セルリアンを倒すために爆撃を行い、それで島の中に被害が出てしまったからでしょう。

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ジャパリパークはヒトを楽しませるためのテーマパークです。その中で爆撃を行ったということになると、パークにお客を入れるにあたって支障が生じるはずです。施設が爆撃に巻き込まれて被害が出てしまったかもしれませんし、観光ルートの地形が変わってしまった可能性もあります。

ラッキービーストの「まかせて」に秘められた謎

ミライさんはパークでの体験に感謝の言葉を述べると、ラッキービーストに後事を託しました。ラッキービーストは「まかせて」といつものように応えています。劇中では、ラッキービーストの「まかせて」というセリフは「その後ろくなことにならないフラグ」のような形で取り扱われていました。例えば、ラッキービーストが「まかせて」といった後、これまでのストーリーの中では次のような展開になっています。

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このように見ていくと、ラッキービーストが「まかせて」といった後にはだいたいろくな展開が待ち受けていないということがよくお分かりいただけると思います。そのため、このセリフは一見「ギャグの振り」のように解釈してしまいがちなのですが、今回のメッセージ再生によって実は「ミライさんからパークのことを託されたときのセリフ」でもあったということが判明します。

ラッキービーストにしてみれば、かつての主人であるミライさんから「パークガイド」という大事な仕事を任されたときの返事と同じ言葉です。当然、毎回心のなかではやる気と自信に満ち溢れた状態でかばんちゃんたちに「まかせて」と見栄を切っていたに違いありません。それなのに、実際には毎回このセリフの後でトラブルが待ち受けていたわけですから、毎回対応に困ってフリーズしていたのも無理はないでしょう。

メッセージは、ラッキービーストに「すぐ戻る」と伝えたミライさんが、風に帽子を飛ばされれ、もうひとりのサーバルから話しかけられたところで終了しています。ミライさんの姿が初めて映像で確認されたのは10話でしたが、このとき(パークの退去から1週間前)にはすでに帽子の紐が切れていました。このことがかばんちゃん誕生の遠因になっています。

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かばんちゃんが「外・・・」とつぶやいた理由

かばんちゃんは一連の映像を見たあと、「外・・・」と軽くつぶやいています。私は、かばんちゃんが観覧車から外の風景を見ている際、「うわのそら」だったのは、この「ジャパリパークの外」について考えていたからではないかと思います。

観覧車に乗る直前、サーバルから「船があったらパークの外に行ってみたかったか」と聞かれたとき、かばんちゃんは「いつかでいい」と応えていました。実際、これはこの瞬間のかばんちゃんにとっては「本心」だったに違いありません。しかし、サーバルの質問によってかばんちゃんの胸の中に、しまっていたはずの「パークの外の世界への想い」が蘇るきっかけが生じたといえます。

そして、偶然とは言えその後乗った観覧車の中で再生されたミライさんのメッセージも「パークの外の世界」に関連したものでした。ミライさんら職員がパークを退去するという発言は「ヒトはパークの外に行った」という、これまでのシーンから予想されていた展開を裏付ける証拠だったからです。このとき、かばんちゃんは「パークの外に行けばヒトに会える」と確信したのではないでしょうか。

自分の本心を押し殺していたかばんちゃん

観覧車に乗る前のかばんちゃんは、少なくとも本人の意識の中では「今はパークの外に行けなくても、いつかいければいい」と思っていたはずです。しかし、「行けなくてもいい」ではなく、「いつか行ければいい」と考えていたということは、「行きたい」という気持ち自体は持っていると解釈できます。かばんちゃんとしては、「パークの外に行きたいのは山々だが、そのための手段である船をセルリアン退治で失ってしまったので、行こうにも方法がない」と考えていたのでしょう。

私は、過去の考察の中で「かばんちゃんというキャラクターは旅の中での経験から自らの意思で『パークガイド』という生き方を選んだ」と説明してきました。そして、「その時点でかばんちゃんというキャラクターの内面はすべて描写されたので、キャラとしての役割は終了している」とも述べています。

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ですが、今回のシーンでは、かばんちゃんの内面には「本当はパークの外へ行ってみたかった」という気持ちが隠されていたことが明らかになりました。この部分に決着をつけない限り、本当の意味でけものフレンズというストーリーが完結したとは言えません。12話の残りの部分はその点がフォーカスされて描かれていくことになります。