けものフレンズ12話感想その10:ラッキービーストの最後

諸注意

【Aパート ラッキービースト最後の言葉】

無事に蘇ったかばんちゃんは、皆に祝福されながらサーバルと熱い抱擁を交わします。ですが、差し迫った問題はもう一つ残っていました。

かばんちゃん:それよりも、セルリアンは・・・。

(かばんちゃんとフレンズたち、船が見える位置まで移動。セルリアンは船の明かりに引き寄せられ、船の上に乗る)

(セルリアンが乗った船が沖へと移動する)

サーバル:ボス!

かばんちゃん:ラッキーさん!

(セルリアンの重みで船がまっぷたつに割れる)

ラッキービースト(ボス):か・・・さ・・・。

(セルリアン、船とともに海中に没する。周囲の界面にはサンドスターの粒子が放出され、セルリアンが石化。直後に水平線の彼方から太陽が昇ってくる)

超巨大セルリアン暁に沈む

かばんちゃんとサーバルの関係は、前回までのシーンでほぼ描写が終了しています。残る問題は、日の出までに超巨大セルリアンを退治しなければならないということです。

超巨大セルリアンは、かばんちゃんを助けるためにサーバルが作った紙飛行機に火が付いていたため、その飛んでいく方向へ注意がひきつけられました。狙ったのか、はたまた偶然だったのかはわかりませんが、紙飛行機は船のある方向へ飛んでいったので、セルリアンもそのまま船の方に向かうことになります。

フレンズたちは助け出したかばんちゃんの様子を見ていたため、一時的にセルリアンから注意がそれていましたが、かばんちゃんに指摘され全員で港の方へ向かいます。

全員が船のそばまで近づいたころには、ちょうど船にセルリアンが乗り込もうとするところでした。本来は船のそばにいるはずだったリカオンとキンシコウも、周囲に集まってきたフレンズたちに呼ばれたのか、あるいはラッキービーストに促されたのか、かばんちゃん救出の応援に駆けつけたため、船に残っていたのはラッキービーストただひとりです。

当初の作戦通り、セルリアンが船の上に乗り、重心が移動したタイミングでラッキービーストはすぐさま船を海上に移動させます。これであとは船が沈めばセルリアンを海中に落とすことができるわけですが、問題はラッキービーストがどうやって船を脱出するかでしょう。

ラッキービーストが、自分の逃げ方を事前に考えていたのかどうかはわかりません。しかし、結果的には脱出はできず、船とともに海中に没することになります。船が沈んだ直後に太陽が昇っていることから、時間的にもギリギリの勝負だったといえるでしょう。

かばんちゃん、サーバルとラッキービーストの別れ

かばんちゃんとサーバルは、どちらもラッキービーストと印象的な別れ方をしています。かばんちゃんは、サーバルを助けるために自分が犠牲になることを覚悟してラッキービーストを一瞥しつつ分かれています。ラッキービーストがどの程度かばんちゃんの意図を汲むことができたかは不明ですが、その後ラッキービーストが呼んだ救援でかばんちゃんは結果的に救われることができました。

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一方のサーバルは、初めてラッキービーストと会話した直後に分かれています。最後に聞いた言葉は「3人での旅、楽しかったよ」でした。これをラッキービーストの遺言と解釈するかどうかは意見の別れるところかもしれませんが、ラッキービーストがサーバルも旅の仲間として特別に感じていたことは伺えます。

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同じことは、今回のシーンからも読み取ることができます。船が沈む直前、かばんちゃんとサーバルはともにラッキービーストに対して声をかけましたが、このときラッキービーストも「か・・・、さ・・・」と何らかの言葉を発しています。素直に解釈するのならこれは「かばん、サーバル」と言おうとしていたのだと考えていいでしょう。

セルリアンは海水にサンドスターを奪われた?

セルリアンが海中に没すると、全身が溶岩に変化し、固まってしまいました。先の戦闘中にツチノコたちが脚を岩石に変化させたのと同じで、セルリアンは海水に触れると固まってしまう性質を持っており、だからこそ海を嫌がって近づかないようにしていたのだと考えられます。

これは学校の理科の実験などで習う「浸透(圧)」と似たような原理が作用しているからではないでしょうか。浸透圧とは、Wikipediaによると次のようなものを指します。

浸透圧(しんとうあつ、英語:osmotic pressure)は物理化学の用語である。半透膜を挟んで液面の高さが同じ、溶媒のみの純溶媒と溶液がある時、純溶媒から溶液へ溶媒が浸透するが、溶液側に圧を加えると浸透が阻止される。この圧を溶液の浸透圧という(岩波理化学辞典・同生物学辞典等)。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B8%E9%80%8F%E5%9C%A7

ここで紹介されているのは辞書的な定義なので少しわかりにくいかもしれません。下記のサイトの説明のほうがよりわかりやすいと思います。

https://aji3.com/about-osmotic-pressure/

浸透圧について説明していると時間がかかるので、ここでは浸透の原理を利用しているもので、一般的によく知られている「漬物の作り方」を例にとって説明しましょう。漬物は野菜を塩漬けにすることで、水分を抜き柔らかくすることで作ります。これは「塩によって野菜の水分が奪われる」働きを利用しているのです。

ここで、塩をサンドスターに置き換えて考えてみましょう。セルリアンのほうが動物の体よりも「サンドスターが溶けやすい」性質を持っているとしたら、セルリアンに食べられたフレンズは塩漬けにされた野菜のようにサンドスターを奪われてしまうはずです。

逆に、セルリアンよりもサンドスターが溶けやすい物質と、セルリアンが接触してしまったらどうなるでしょうか?今度はセルリアンが「漬け物状態」になってしまうでしょう。もしかしたら、海水はセルリアンよりもサンドスターが溶けやすい性質を持っていて、そのために海水に晒されたセルリアンはサンドスターを奪われ、フレンズが動物に戻るように元の溶岩に変化してしまうのかもしれません。

かばんちゃんとラッキービーストは、同じ使命を持つ仲間

最後に、「ラッキービーストの気持ち」について考えてみましょう。すでに主要3キャラクターのうち、かばんちゃんとサーバルについては、旅を通じてどのような内面の変化があったか、お互いにどんな気持ちを抱いているかといった面が描写されています。そして今回、ラッキービーストが「最後」を迎えることになりました。

実は、これでけものフレンズの主要3キャラクターは、全員が「仲間を守るために自らを犠牲にする」という経験をしたことになります。サーバルはかばんちゃんとラッキービーストをかばい、そのかばんちゃんは今度はサーバルを救うためにセルリアンに食べられてしまいました。今回、ラッキービーストはかばんちゃんとサーバル、そしてパークのフレンズたちを救うために己の身を犠牲にしたことになります。

かばんちゃんはセルリアンに食べられる直前、サーバルに対する自らの気持ちを語っています。同じように、サーバルはかばんちゃんを助け出すにあたって自らの気持ちを語りました。これらと同じようにラッキービーストもまた海中に沈む前にかばんちゃんとサーバルへの気持ちを語っています。

ラッキービーストが「かばんちゃんへの気持ち」を語ったのは、サンドスターが出る山の山頂においてでした。ラッキービースト当初、ヒトであるかばんちゃんにパークからの退去を進めていましたが、「己の安全を守るよりも、みんなのためにできることをしたい」と語るかばんちゃんに応えて「暫定パークガイド」に設定しています。

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パークからヒトが去ってから、ラッキービーストは代わりにパークガイドロボットとしての役割を果たしてきたはずです。かばんちゃんが現れるまでにどのくらいの時間が経過したのかはわかりません。しかし、彼にとってかばんちゃんは相当久々に現れた「大切なお客様」だったはずです。だからこそはじめは退去を勧め、パークガイドロボットとしての使命を果たそうとしたのでしょう。

パークガイドロボットとしてのラッキービーストの役割は、おそらく「お客様であるヒト、そしてパークの生態系(動物やフレンズたち)を守ること」だったはずです。それは彼がかばんちゃんやサーバルに語ったセリフから読み取れます。

だからこそ最初は「お客様」であるかばんちゃんを逃がそうとしたのですが、それに対するかばんちゃんの応えは、自分が与えられた使命とまったく同じ「パークを守りたい」というものだったのです。このことをラッキービーストは次のように解釈したのではないでしょうか。

かばんちゃんのやりたいことは「パークガイドの使命」と同じである。だから、それをやるにはパークガイドになる必要がある。

そうでなければ、ラッキービーストがあの場面で唐突にかばんちゃんを暫定パークガイドに設定する理由がありません。そして、この瞬間をもってかばんちゃんはラッキービーストにとってお客様ではなく、「同じ使命を持つ同士」になったわけです。

サーバルとラッキービーストは、「旅の仲間」

ラッキービーストの「サーバルに対する気持ち」は、救出されたサーバルが意識を取り戻し、かばんちゃんを助けに戻る直前の会話から読み取れます。サーバルはフレンズですから、パークガイドとしての使命に照らし合わせれば「守るべき対象」の中には入っています。

ただし、「ヒトの緊急時にはフレンズへの干渉が許可されている」という、ラッキービーストのセリフからもわかる通り、あくまでも「フレンズの安全より、ヒトの安全のほうが重要」という重み付けがなされていると考えられます。これは、ロボットであるラッキービーストがヒトによって作られたという背景から、やむを得ない事情でしょう。

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ですが、それでもフレンズがラッキービーストにとって「守るべき対象」であることに変わりはありません。さらに、サーバルに関していえば、「3人での旅、楽しかったよ」といセリフから、その他のフレンズとは異なり「旅の仲間」として特別な思いを持っていることは明らかです。

過去を乗り越え、仲間を手に入れたラッキービースト

ラッキービーストは、ヒトに作られたロボットで、将来的にパークガイドとして使われる予定でした。彼に与えられた使命は「ヒトのお客様を案内し、安全を守ること。パークの生態系を守ること」です。

しかし、ある時期を境にパークからはヒトが去ってしまい、彼の役目は一部分しか果たされずにいました。そんな彼の前に「かばんちゃん」というヒトが現れ、サーバルも加えた3人で旅をする中で、彼は本来自分に与えられた役目を遺憾なく発揮することができたのです。

そして、かばんちゃんとサーバルは旅の中でラッキービーストの「仲間」になりました。彼は今まで持つことのなかった仲間という存在を旅を通じて初めて手に入れたのです。そんな彼が最後に選んだのは、自らのみを犠牲にして仲間を守ることでした。

今回のシーンで、ラッキービーストというキャラクターもまた、ストーリーの中でのその役割を終えることになります。ラッキービーストは3人の中では、最も「過去の呪縛」にしばられた存在だったといえるかもしれません。しかし、そんな彼だからこそ、かばんちゃんに過去のパークのことを伝えることができ、それがかばんちゃんの成長を促す結果に繋がったのです。

ラッキービーストが再生するミライさんのメッセージには、フレンズと仲良く触れ合うミライさんの姿が記録されていました。ミライさんとフレンズたちの姿は、ラッキービーストの目にどのように映ったのでしょうか?もしかしたら、ラッキービーストも旅を通じてその時の彼女たちと同じものを手に入れることができたのかもしれません。