けものフレンズ1話感想その3:初見で退屈に感じる理由と、その後おもしろく感じられる理由

 

前回記事 【1話 その2】アニメ感想「けものフレンズの謎」:サーバルとかばんちゃん初会話の意味

 

※本シリーズでは、主に下記の観点からストーリーを読み解きます。

  • アニメーションを構成する3つの要素:映像・セリフ・音(BGM・SE)
  • ストーリーを構成する3つの要素:作者の演出・キャラクターの演技・世界観

これらが「効果的に組み合わされているか」によって作品の魅力は変わります。

 

【第1話Aパート 2人の旅立ち】

 

「どうして自分がここにいるのか覚えていない」というかばんちゃん。サーバルは外見的な特長から何の動物か調べようとしますが、結局わからず、図書館に向かうことになります。

 

視聴者にストーリーと世界観を予測させるシーン

このシーンが存在する理由は、視聴者に対して作品の基本的なストーリーを伝えること、そして作品の世界観を想像させることです。たとえば、このシーンで「フレンズ・ジャパリパーク・サンドスター」といったさまざまな固有名詞が出てきます。視聴者はこれらの情報から以下のようなことが推測できます。

 

  • 登場人物(おそらく、何らかの動物が人間の姿になったもの)は、「フレンズ」と呼ばれる
  • フレンズは「サンドスター」から生まれる
  • 新しく生まれたフレンズが自分が何者かわからないことは決して珍しいことではなく、そういう場合は「図書館」に行くと教えてもらえる

 

このように、初見の人でもこのシーンだけである程度は世界観が推測できるようになっています。

 

また、「持ち物の特長から『かばんちゃん』と名付けられた主人公を、サーバルがさばんなちほ-の出口まで案内する」というのが、第1話の基本的なストーリーであることが推測できます。そしてその後は「最低でも図書館にたどり着くまでは、旅を続けるんだろう」ということも予測できます。

 

多くの人が初見時に「つまらない」と感じた理由

このように説明すると、今回のシーンは一見、どんな作品の第1話にもありがちなシーンのように思うかもしれません。しかし、実はこうした物語冒頭の描き方はあまり他所では見られない形なのです。

 

「けものフレンズ」は放送当初、あまり人気が出ませんでした。その理由のひとつが「第1話が冗長すぎてつまらない」といったものでした。このシーンのあと、サーバルがかばんちゃんをさばんなちほ-の出口まで案内するシーンが続きますが、基本的にほのぼのとした掛け合いや移動シーンが続き、これといった盛り上がりどころもありません。そのため、初見だとどうしても退屈な印象を受けてしまうのです。

 

近年の作品では、そうした「退屈な展開」を第1話に持ってくるケースはあまりありません。なぜなら、「第1話のできを見て視聴継続を決定する」という視聴者が多いからです。多くのアニメ制作者は、できるだけ多くの視聴者を第1話で取り込めるよう、冒頭の描き方を次のように工夫するケースが多いと思います。

 

  • ストーリーや世界観の説明を後回しにして、冒頭から派手な盛り上がりどころを入れる
  • 世界観をきっちりセリフで説明してから、ストーリーを展開する
  • ストーリーと世界観の説明を端折り、魅力的なキャラクターを全面に押し出す

 

昔話の「桃太郎」を例にとって考えてみましょう。最初の「盛り上がりどころを冒頭に持ってくる」という描き方なら、「村で鬼が暴れているシーン」から物語がスタートするはずです。なにがなんだかわからないまま、派手な戦闘シーンがスタートするような作品は、近年珍しくありません。

 

二番目の「世界観をセリフで説明する」というやり方は、本来の「桃太郎」の描き方そのものでしょう。「昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました・・・」というふうに、語り手の口から世界観が語られます。近年のアニメや漫画作品でたとえると、地の文や登場人物のひとりの口を借りて、複雑な世界観を説明するところから物語がスタートするような作品は多いはずです。

 

最後の「キャラクターが先に出てくる」という描き方はどうでしょうか?「桃太郎」でこの描き方を採用するなら、「子どもくらいに成長した桃太郎が、野山を元気に駆け回る」というようなシーンからスタートすることになるでしょう。これは恋愛漫画などでよくある冒頭のパターンかもしれません。

 

過剰な演出が削ぎ落とされた、シンプルなストーリー

こうしたよくある「物語冒頭の描き方」と比較すると、けものフレンズの冒頭部分はとても地味なものに感じられるはずです。「狩りごっこ」のシーンは盛り上がりとしてはいまいち力不足ですし、サーバルはともかくかばんちゃんの「キャラクターとしての魅力」はまだほとんど描かれていません。世界観の説明についても、意図的にぼかしているような印象さえ受けます。

 

けものフレンズの第1話冒頭部分だけを見ると、全体的に演出が抑えられているため、どうしてもこの作品を魅力的なものに感じられないと思います。ではなぜ、その後多くのファンを獲得することに成功したのでしょうか?

 

全編を視聴したあとで第1話を振り返ってみると、一見地味に見えたシーンにも実は深い意味があったことがわかります。つまり、「ストーリーの展開上、最低限必要な演出は行われていた」ということです。言い換えると、「その後のストーリー展開の中で不自然になりそうな演出は排除されている」ということでもあります。一般的なアニメ作品が「できるだけ多くの視聴者を引きつけるため、演出を『盛っている』」のに対して、けものフレンズは「無駄な演出を削ぎ落としている」といえるかもしれません。

 

こうしたストイックな作品の魅力は、なかなか最初から伝わるものではありません。しかし、視聴を継続してストーリーへの理解が深まるほど、そうした無駄な部分が一切ない完璧さ、シンプルさは作品の魅力を大きく底上げしてくれる要素になります。では、無駄な部分が削ぎ落とされた第1話の中に、どんな意味が盛り込まれているのか、今後の考察記事で続けて解説していきたいと思います。

けものフレンズ1話感想その4:サーバルのセリフに対する2つの疑問

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Webライター・マーケティングコンサルタントとして活動しています。実務を通じて学んだマーケティングに関するノウハウや最新情報をわかりやすく提供していきたいと思っています。 また、時事に関わるニューズをマーケティング・ライティングといった切り口から解説してみたいと思います。

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