「最低賃金の引き上げに反対する」という考え方

近年、労働環境改善のための方策として「最低賃金の引き上げ」が話題に登る機会が増えてきました。「労働者の所得が増えれば、生活が楽になる」という論法ですが、実はこれと全く逆の考え方もあります。今回は、最低賃金を引き上げに向けた社会の動きとあえて真逆の方向から、労働者にとって働きやすい環境について考えてみたいと思います。

最低賃金引き上げを求める声は強まっている

4月15日にも、労働賃金の引き上げを求めたデモが都内で行われました。

「最低賃金、時給1500円なら夢ある」若者らデモ

このように、主に働き手の側から、労働賃金の引き上げを求める声は後を立ちません。ブラック企業や長時間労働による過労死など、劣悪な労働環境で働かされている労働者を救う方策として、最低賃金の引き上げが有効だと考えられていることがわかります。

しかし、シンプルな疑問ですが、最低賃金を引き上げれば本当に働きやすい社会は実現できるのでしょうか?

ライター業には最低賃金の縛りがない

私は現在、個人事業主として働いています。前職では会社に雇用されていましたが、持病の悪化により退職してしまいました。退職後しばらくは実家で療養を続けていましたが、体調の回復が芳しくなかったため、「再び会社勤めをするのは無理だろう」と考えました。

そうして始めたのがWebライターの仕事です。フリーのWebライターは基本的に雇用ではなく業務委託契約になるため、最低賃金のような縛りはありません。私はライター業をはじめた当初は、記事制作の仕事の募集がその都度掲載されるクラウドソーシングサイトで、1件ずつ案件を受注する、という方法で仕事を始めていきました。

当初は、ライターとしてのスキルも未熟だったため、経験不問の初心者向け案件から始めていきました。文字単価でいえば0.1円、時給換算すると200円位だったと思います。1日8時間働いても1600円くらいにしかなりません。とても生活してはいけませんが、当時は病気療養中、かつ実家ぐらしだったので「稼げないよりはマシ」と思ってやっていました。その後、徐々に経験を積んでスキルアップしていった結果、今ではライター業だけでも生活していけるだけの金額を稼げるようになりました。

先ほど説明したとおり、ライター業は業務委託なので、最低賃金の縛りはありません。しかし逆にいえば、ほかの業界ではありえないくらい、「初心者の参入障壁が低い業界」でもあります。実際、アルバイトやパート感覚でライター業をしている主婦や学生の方も大勢います。そして、最初はライターの収入だけで生活していけなくても、「自分のペースでスキルアップしていける」というのもメリットです。

もし、ライター業が雇用契約しかなく、かつ最低賃金が設定されていたとしたら、私の現在のキャリア形成はできなかったと思います。現在も、雇用契約のライター職はありますが、当時の体調が悪く、ライターとしてのスキルも未熟だった私では、とてもそうした仕事は務まらなかったでしょう。

このように、最低賃金には「ある業種における、仕事の最小単位を決定する」という側面もあるのです。最低賃金が引き上げられるということは、「その仕事で、最低限求められる仕事のレベルが上がる」ということにもなります。果たしてそうした傾向が、労働環境の改善につながるのかどうか、私は少し疑問です。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする