「けものフレンズ」がアニメ業界にもたらす影響を考察

先日放映終了したアニメ「けものフレンズ」。前評判は決して高くなかった作品ですが、徐々に人気が集まり、最終回放映日にはなんと全世界のTwitterトレンドで2位に輝くほどの人気を集めました。これほどの人気が出た作品ですので、今後のアニメ業界のマーケティング手法に大きな影響を与えると考えられます。

けものフレンズがヒットした理由

まず、なぜ「けものフレンズ」がここまでの人気を集めたのか理由を考察してみたいと思います。けものフレンズは、フレンズ(アニマルガール)と呼ばれる動物少女たちが、ジャパリパークと呼ばれる架空の島を舞台に冒険をする、というストーリー。放映中に分析されたヒットの理由として次のようなものがあります。

  • 「すごーい!」、「たーのしー!」など、わかりやすいフレーズがSNSでの拡散を促した
  • 「IQが溶ける」と形容される、フレンズたちのほのぼのとしたやりとりが、視聴者の心を癒やした
  • 一見、明るいストーリーに見える影にさまざまな謎や伏線があり、考察が盛り上がった

しかし、こうした分析に対しては批判の声もあります。「ストーリーが素晴らしいのであって、『わかりやすいフレーズ』など個別の要素を取り出してヒットの理由とするのは間違っている」という意見です。私もけものフレンズを全編視聴しましたが、「素晴らしいストーリー自体がヒットの理由」という見方は正しいように思います。

プロジェクトの縮小が、予想外のヒットをもたらした

そもそも、アニメ「けものフレンズ」は、けものフレンズプロジェクトというメディアミックス戦略の一部として計画が進められてきました。アニメのほかにゲーム、漫画での「けものフレンズ」がそれぞれ進行していましたが人気が上がらず、ゲームは2016年末にサービス終了、漫画も2017年3月号をもって連載終了しています。

アニメ版はこのように、他のメディアの人気が右肩下がりの中で制作され、2017年1月~3月にかけて放映されました。制作体制も約10人と非常に少人数で行われ、プロジェクトとしても余裕のない状態で制作されたことを伺わせます。

しかし、結果としてそうした経緯が逆に功を奏したといえるのかもしれません。少人数制作のため、監督であるたつき氏が演出・コンテなどを兼任することになり、監督のイメージがそのまま作品に反映されやすくなったのです。制作体制に関しては限られた情報源しかないため、推測するしかありませんが、「プロジェクト縮小による少数精鋭体制」が素晴らしい作品を生み出す要因になったのはたしかといえそうです。

ヒットの理由は歪められ、単純化されて広まる

「少数精鋭の体制から、素晴らしいストーリーが生み出された」、これをけものフレンズヒットの理由だと考察してきました。ここからは、けものフレンズのヒットがアニメ業界にどのような影響をもたらすかを考察してみたいと思います。

まず、「擬人化」や「単純なフレーズ」など、「けものフレンズの中に含まれていた要素の一部を組み込んだアニメ」が増えていくことでしょう。すでに考察してきたとおり、それらはヒットの断片的な理由ではあっても、根本的な理由ではないのですが、このようになると推測した理由は「真似しやすいから」です。

アニメ製作会社のプロジェクトリーダーになったつもりで考えてみて下さい。あなたが「けものフレンズみたいなストーリーの素晴らしいアニメを作りたい!」と考えたとしましょう。そのあと、具体的にどうやってそれを実現するのでしょうか?脚本家に「素晴らしいストーリを書いてくれ!」と無茶な要求をするのでしょうか?それとも自分でストーリーを考えて「これが素晴らしいストーリーです」と上司やほかのメンバーを説得するのでしょうか?

おそらく、あなたの話を聞いた人は「そのストーリーがどのように素晴らしいのか、理由を説明してくれ」というはずです。本来、ストーリーの素晴らしさというのは、実際にそのストーリーを体験して感動したときに実感として理解できるものです。しかし、それを言葉で伝えるとなると、具体的なキーワード・固有名詞に落とし込まなければなりません。

結果として、「けものフレンズには『擬人化要素』が入っている。だからうちのアニメも擬人化でいきましょう」とか、「けものフレンズは『わかりやすいフレーズを連呼している』、うちにも入れましょう」という話になってしまうことでしょう。同様に、上司から「けものフレンズはCGアニメでヒットした。だからうちもCGでアニメを作ろう」などと指示が出るかもしれません。悪くすると、「けものフレンズは10人で作れたんだから、うちも10人もいれば作れるだろう」などと、無茶な要求をされてしまう可能性さえあるでしょう。

「成功例の形だけのコピー」が増え、全体の質を落としていく

私もライター=クリエイターの端くれですから、このようにストーリーの素晴らしさが理解されず、歪められてしまうのには憤りを感じます。しかし、ストーリーのすばらしさというのは、本来複雑すぎて言葉では表現しきれないものです。

実際、けものフレンズは放映後すぐに人気を集めたわけではなく、「1話切り」した人も大勢いました。そうした人に対して面白さを伝えようとするとき、ネット上で盛んに見られた言葉が「とりあえず3話まで見ろ」というフレーズです。言い換えると「素晴らしいストーリーでも、理解するには3話見なければいけない」ということかもしれません。

マーケティングの世界でも、これと同じような現象は起きます。成功したマーケティング戦略があると、人々はその成功例を真似しようとします。結果的に「高度な戦略・戦術はわかりやすいキーワードに置き換えられ、単純化されて形だけ真似される」ことになります。しかし、そんな形だけのマーケティング戦略が果たしてよい結果をもたらすでしょうか?業界を問わず、こうした「成功例の形だけのコピー」は増えていっているように思います。

このようにいうと、私はアニメ業界やマーケティング業界の行く末に悲観的なのではないかと思われるかもしれませんが、そうではありません。けものフレンズを例に上げると、ヒットの理由が「単純なフレーズである」といわれたときに「それは違う。ストーリーだ」と声を上げた人たちは少なくありませんでした。形だけのコピーが増えていることによって、逆にストーリーの大切さも認識され始めていると私は感じています。プロジェクト行き詰まりからヒットが生まれたけものフレンズに、ぜひあやかりたいものです。

コメント

  1. より:

    ポケモンなんかはわかりやすい例でしたね(。・ω・。)
    ポケモンがヒットしたあとは、人間ではないキャラクターが大量に登場・使役して戦わせるタイプのゲームが雨後の竹の子のように量産された記憶があります。

    • hifumi1239 より:

      コメントありがとうございます。
      たしかに、ポケモンはキャラクターを収集するタイプのゲームが流行する引き金になったと思います。
      けものフレンズの場合、擬人化という要素がヒットの前にすでに流行していたので、その部分を切り口にして真似するのは難しかったのかもしれません。
      代わりに、「一見ゆるそうな雰囲気の世界観だが謎が多い」というような作品が増えていく気がします。