前回記事:
【Bパート トキとアルパカの会話】
前回の考察では、アルパカ・スリとトキがカフェにお客が来ないことについて語るシーンを考察し、次のような仮説を立てました。
トキとアルパカには3つの共通点がある
1.フレンズ化してまだ間もない
2.「仲間」がいない(トキは元々いなかった。アルパカはフレンズ化に伴い、動物の群れから離れた)
3.自分の仲間を増やそうとしている(トキは歌で、アルパカはカフェで)
次の「草むしり」のシーンを考察する前に、カフェでのシーンの映像描写に注目してみましょう。
カフェでの会話シーンのカット割りの特徴
カフェで3人が「お客がなぜ来ないのか」について話すシーンの場面展開を見ていくと次のようになります。
1.(充電のためにお湯が使えなくなって)「大丈夫か?」とかばんちゃんが尋ねる
2.「お客さん全然来ないから大丈夫」とアルパカが答える
3.かばんちゃん、トキが閑散とした店内を見渡す
4.お客が来ない理由について、トキとアルパカが話し合う
それぞれの場面のカット割りを確認すると、次のようになります。
1.かばんちゃんの顔のアップ
2.3人とカフェのカウンター中心
3.カフェの店内全体
4.アルパカの後ろ姿・かばんちゃん、トキの正面からの姿
1~3のカット割りの狙いは比較的わかりやすいと思います。1でかばんちゃんの顔がアップになったのは「自分の都合で充電させてもらうことで、カフェの業務に支障をきたすのでは」と心配するかばんちゃんの表情を見せるためのものです。
2において、3人をカウンターを中心にしてみせるのは3人のカフェ内での位置関係を把握させるためのものです。その後、3のシーンにおいて閑散とした店内を引いた角度から映し出すことで「お客さんがおらず物寂しい様子」と「店内全体における3人とカウンターの位置」を視聴者にわかりやすくしています。
今回注目したいのは、4番目のトキとアルパカがカフェにお客が来ない理由について語り合うシーンのカット割りです。このシーンでは何回かカットが切り替わりますが、「アルパカの顔がほとんど映らない」というわかりやすい特徴があります。
このシーンはアルパカとトキ2人の会話なので、本来であればアルパカとトキ2人の表情が見えるようなカットで映すのが自然なはずです。しかし、トキと聞き手に回っているかばんちゃんの表情は映るものの、掛け合いの相手であるアルパカの表情は全く映っていません。
アルパカに感情移入させることで、視聴者のIQを下げる
この一連のシーンで終始アルパカの顔を映さないのには、ある意図が隠れていると考えられます。それは、「視聴者にアルパカと同じ目線に立ってもらうこと」です。それは、トキに「説明役」をさせるために不可欠な処置でした。
アニメや漫画などでは、独自の設定や世界観を説明するために「登場人物のセリフ」によって説明するシーンが良く見られます。一般的には次のような演出方法がよく見られます。
- 狂言回し(説明係)のキャラクターに説明させる
- 地の文でナレーションを入れる
- モブキャラクターに説明させる
今回のシーンでも、続くシーンでの「草むしり」につなげるために、「なぜ草むしりをしなければならないのか?」という理由を納得できる形で視聴者に伝えなければいけません。しかし、上に挙げた3つの方法はどれもこの場面で使うのは難しいものです。
けものフレンズにはナレーションはいませんし、普段は狂言回しの役割を務めるラッキービースト(ボス)も「カフェが流行らない理由」までは知りません。説明役のモブキャラクターを出すのも唐突過ぎます。
そこで、とられたのが「視聴者をアルパカと同じ目線に立たせ、トキに狂言回しをさせる」という方法です。前回の考察で触れたとおり、アルパカはトキとは異なり「客観的な視点」を持っていません。「自分は山を楽々登れるから、みんなもカフェに簡単に来れるはずだ」としか思っていないのです。
トキはフレンズ化してまだ間もなく、体の変化にもなれていません。本来であれば狂言回しの役割を果たすには不完全なキャラクターでしょう。しかし、「客観的な視点を持っている」という1点についてはアルパカより勝っているといえます。
視聴者を一旦、「客観的な視点」を持たないアルパカと同じ視点まで落とし、「IQを下げる」ことによって、「道が険しく、場所がわからないから誰も来ない」という、普通に考えればわかりそうな理由を、あたかも説得力のある新説であるかのように感じさせることができるのです。
「トキの説明」があると「草むしり」の説得力がアップ
このシーンはカフェにお客が来ない理由についてトキがアルパカと話し合っているように見えて、実は「カフェに来てくれるフレンズをどうやって増やすか、かばんちゃんが知恵を発揮するシーンの前段」でもあります。
現実社会においても「飲食店の販売促進」というのは非常に幅広い問題です。解決手段も多岐にわたり、すぐに最適な解決策を見つけるのは簡単ではありません。要するに、かばんちゃんの活躍をわかりやすく描くための題材としてはテーマが大きすぎるのです。
そこで、トキとの会話によって意図的に「解決法の方向性」を絞り込んでいるのです。「通る人が少ない」、「場所がわからない」という2つのポイントに絞れば、このあとかばんちゃんが提案する方法が適切な解決策になっていると誰もが理解できるからです。
仮にこのシーンを挿入せず、単にかばんちゃんたちに草むしりをさせるだけでも、一応「お店の目印を作った」ということにはできます。しかし、「近くを通るのは鳥のフレンズが多いだろうから、空から見える目印を作った」ということが視聴者にわからなければ「これはいい方法だ!」と思ってもらえないでしょう。
つまり、このシーンは直後に描かれるかばんちゃんの活躍に説得力を深めるために必要不可欠なシーンだったのです。