クラウドソーシングは「多様な働き方」を実現するか?(1/2)
の続きです。
前回のまとめ
クラウドソーシングは、「多様な働き方を実現する」と言われているが、本当だろうか?
- クラウドソーシングサイトは、受注者に報酬の2割という高い手数料を要求する
- クラウドソーシングサイト上の実績は、サイト上でしか役に立たない
- そのため、実力がある人ほどクラウドソーシングサイトを使わなくなる
前回は、受注者の側から見たクラウドソーシングの問題点をご紹介してきました。今回は発注者の側から見たクラウドソーシングサイトの問題点をご紹介したいと思います。
発注者は「成果物の出来」だけに関心がある
発注者がクラウドソーシングサイトを利用する目的は簡単です。不特定多数の受注者に対して同時に仕事の依頼を行うことで、必要な労働力を速く、安く手に入れることです。いわば、オークションをいいものを速く、安く買うのと同じ理屈ですね。
発注者にとっての理想は、クラウドソーシングサイト上で仕事を発注し、期限がくれば成果物ができあがっていて受け取って取引終了、という流れでしょう。しかし、仕事の難易度が上がってくると、この流れを実現するのは徐々に難しくなってきます。
実際には、受注者の能力や個性は多種多様だからです。そのため、多くの発注者は徐々に「大勢に発注して一番いい条件の人を毎回選ぶ」というやり方よりも、「いい作業者を見つけて、継続的にその人に発注する」というやり方を行うようになっていくでしょう。
このときに問題なのは、発注者はあくまで「成果物の出来」だけに関心があるという点です。言い方を変えれば、発注者は受注者の働き方には特に関心はありません。どんな仕事の進め方だろうと、成果物を出してくれさえすれば問題ないわけです。「そんなの普通の仕事だって当たり前じゃないか」と思われるかもしれませんが、この点は「多様な働き方」という点と照らし合わせると大きな問題になります。
発注者は「自分のやり方に合わせてくれる受注者」を求めるようになる
たとえば、ある発注者が受注者Aと継続的に仕事をやり取りする関係を築いていたとしましょう。さらに業務を拡大するため、新たな受注者Bを雇うことになったとします。このとき、発注者はおそらく受注者Bに対して「受注者Aと同じ条件で」仕事をすることを望むはずです。なぜなら、受注者ごとに仕事のやり方が違うより、同じ方が対応するのが楽だからです。
このとき、おそらく発注者は先にやり取りしていた受注者Aとのやり取りの仕方を「自社の仕事のやり方」としてフォーマット化し、A以降に契約するすべての受注者に対してそのやり方で仕事をするよう(有形・無形にかかわらず)求めてくるはずです。
このとき、受注者Aに注目してみましょう。最初は、発注者から言われたとおりに仕事をしているだけで、特に問題は生じないはずです。しかし、受注者Aが経験を積み、より効率的な方法で仕事ができるようになってきたら、「発注者のやり方に合わせるのではなく、自分が考える効率的な方法で仕事をしたい」と考えるようになるでしょう。もちろんその頃には、クラウドソーシングサイトの手数料負担にも疑問を持つようになっているはずです。
しかし、クラウドソーシングサイト上の発注者は、受注者Aがやり取りしていた相手だけに限らずそれぞれの発注者が「自分のやり方」を持っています。そして、彼らにとって最も業務を効率化する方法とは「受注者の仕事のやり方を自分たちのやり方に合わせること」になるのです。つまり、「自分たちのやり方に合わせて働いてくれる人」を求めるようになるということです。
これは業種や業態の垣根を超えて共通することだと思いますが、一般的にスキルのある人ほど、自由な働き方を求めるようになる傾向があると思います。その傾向は実績を積み、自分の仕事のやり方に自身を持つようになるほど、さらに強まっていきます。多くの企業で確かな実績を上げた人が、「出世して所属する企業のあり方を変えようとする」か、「独立して自分のやり方でできる会社を作ろうとする」か、どちらかの道を選ぶのに似ています。
クラウドソーシングの問題点は、こうした傾向と全く親和性がない、という点です。有り体に言えば、クラウドソーシングサイトは単に「ネット上で効率よく仕事を受発注できる仕組み」でしかありません。これを突き詰めていけば、「型の決まった仕事を、型の決まった仕事しかできない人に効率良くやらせる」という形になるのは、ある程度自明のことであるといえます。しかしそれは、「自由な働き方」とはまったく真逆の方向性です。「型の決まった仕事」をやるだけなら、単に仕事場をオフィスから自宅やコワーキングスペースに置き換えただけだからです。
もちろん、それでも通常のオフィスワークのように時間や場所を完全に拘束されているよりは、働き方の自由度が高まるという意見はあるでしょう。たしかにそれは正しいと思います。また、「リモートワークを効率的に行う仕組み」として、クラウドソーシングサイトに一定の有用性があるのも認めざるを得ません。
しかし、私は「実力が付けばつくほど使いたくなくなる仕組み」という一点から、クラウドソーシングサイトの将来についてあまり希望的な観測を持てずにいます。もし、クラウドソーシング業界が将来的に発展していけるような方向性を目指したいのであれば、「優秀な人がこぞって集まりたいと思うような仕組み」を考えていくことが、今後の課題ではないかと思います。
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