前回記事 【1話 その12】アニメ感想「けものフレンズの謎」:「IQが下がる」シーンに隠されたサーバルの気遣い
【Bパート 2人の別れと再開】
セルリアンを撃退した2人に、ついに別れのときが訪れます。両手いっぱいに紙飛行機を抱えたサーバルが、ジャングルちほーへ向かうかばんちゃんをゲートから見送ります。
かばんちゃん:ありがとうございました。本当に・・・サーバルさんがいなかったら・・・僕・・・。
サーバル:かばんちゃんはこんなにすっごい技を持ってるんだもん。何があっても大丈夫だよ。何の動物かわかったら、またさばんなちほ-にも寄ってね。
かばんちゃん:はい、必ず・・・。
サーバル:そうだ!今度会ったときは「サーバルちゃん」って呼んでね。話し方ももっと普通に、もうお友達だから
かばんちゃん:わかりました。
ここまで一緒にやってきた2人の別れを描くシーンです。感動的なシーンですが、ここにもいろいろな考察の種が潜んでいます。
サーバルが抱えていた紙飛行機を作ったのは誰か?
まず注目してほしいのは、別れを迎える2人の様子です。サーバルの手には、いくつかの紙飛行機が抱えられています。ここまでのストーリーの中で、紙飛行機の材料となる紙があったのは、ゲートの案内板に備え付けてあった「パークの地図」しかありません。なので順当に解釈すると、「セルリアンを撃退した後、2人でゲートまで戻り何枚か地図をとってきて紙飛行機を作った」ということになります。おそらく、紙飛行機に興味津々なサーバルのために、かばんちゃんが作り方を教えてあげたのでしょう。
では、なぜ作る描写を入れなかったのでしょうか?理由は、12話までを通してみた後であれば割りと明らかで、おそらくあの紙飛行機のうちのいくつか、あるいは全部が「サーバルが作ったもの」であるということを現時点では視聴者に伏せておきたかったからでしょう。
別れのシーンで「かばんちゃんはこんなにすっごい技を持ってるんだもん」といっているシーンでも、サーバルの目線が紙飛行機に向いていますし、「紙飛行機を作れるのはかばんちゃん独自の特技」であるという先ほどのシーンまでの描写と合わせて考えると、「初見で1話のこのシーンまで見た時点」においては「紙飛行機はサーバルのためにかばんちゃんが作ってあげたもの」だと解釈するのが自然です。
しかし、紙飛行機はその後のストーリーの中で印象的な再登場を果たすことになります。そのシーンを見た後であれば「かばんちゃんがこの時点でサーバルに紙飛行機の作り方を教えていた」のであろうことが推測できます。紙飛行機の再登場をより印象的なものにするため、あえて「紙飛行機を誰が作ったのか」を描写せず、どちらともとれるようにしていたと考えられます。
日暮れまで別れたくないほど仲良くなった2人
別れのシーンは、セルリアン撃退直後とは異なり日暮れを迎えており、少なくとも1時間以上、場合によっては数時間が経過していることを示唆しています。紙飛行機の作り方を教えるのにそんなに時間がかかったとは考えにくいので、「2人とも別れるのが嫌で、日暮れまで一緒に過ごしていた」ということがわかります。この時点で2人の間には特別な絆のようなものが芽生えていた、と考えられるでしょう。
不自然なのは、日暮れまで別れたくないほど仲良くなった相手と別れなければならないにもかかわらず、2人とも泣いていないということです。けものフレンズは、前編を通して登場キャラクターが涙を流すシーンが2回しかありません。しかもその2回は両方ともサーバルが涙を流すシーンです。ほかのキャラクターが泣いているシーンがないので、比較の仕様がないのですが、サーバルは決して「涙もろくないキャラクター」ではない、ということがいえます。
かばんちゃんは、声やCGモデルの演技を見れば、泣きそうになるのを必死にこらえているのがわかります。しかし、サーバルは一見すると、懸命に涙をこらえているようには見えません。これはどういうことなのでしょうか?
サーバルのコミュニケーション能力の高さを確信させる場面
前回までの考察で、サーバルというキャラクターの人間性について、
- 頭は悪いがコミュニケーション能力は高い
- かばんちゃんのことを「守ってあげなければいけない対象」と捉えていた
ということをお伝えしてきました。私の考えでは、このシーンもサーバルのコミュニケーション能力の高さを示すシーンであるといえます。サーバルはかばんちゃんと別れたくないはずです。にもかかわらず、「自分が何者か知りたい」というかばんちゃんの目的を優先させるために、自分の感情を抑えて送り出そうとしているのです。
サーバルが涙を流さないのは、泣けば自分がもっと悲しくなるのはもちろん、「かばんちゃんを悲しませないため」です。自分が別れたくないといって涙を流せば、かばんちゃんは余計出発しづらくなるに違いありません。それは、単にかばんちゃんがサーバルに気を使って出発しづらくなるというだけでなく、「かばんちゃんの方も、サーバルと別れたくない」と感じていることにサーバルも気がついているからです。
「自分の感情を抑え、なおかつ相手の感情を推し量って、その上で自分がその場で取るべきリアクションを取る」
これは極めて高いコミュニケーション能力がなければできない複雑な対応です。サーバルのコミュニケーション能力の高さを示す証拠として私が今まで紹介してきたシーンは、それだけで明確な証拠とはいえないものでしたが、このシーンだけは「サーバルが高いコミュニケーション能力を持っている」ということを前提にしないと演出の辻褄が合いません。
- 今日初めて出会ったばかりなのに、
- 日暮れになるまで別れたくないほど深く相手のことを理解し、
- その相手と互いに別れなければいけないにもかかわらず涙をこらえて送り出す
これだけのことをするキャラクターのコミュニケーション能力が「低い」と想定するほうが無理があるでしょう。
それでも、「実はサーバルはそれほどかばんちゃんのことを思っていなくて、さぱさぱした性格だった」というのであればまだわかりますが、そうでないことはこの直後のシーンを含め、今後のストーリーの中でいくらでも証拠が出てきます。
涙も回想も使わず、キャラクターの関係性を描く演出
私がこの別れのシーンで素晴らしいと思うのは、「涙や2人が一緒に過ごすシーンを描かずに、この別れが2人にとって耐え難いほど辛いものである」ということを描いている点です。わかりやすい方法をとるなら、サーバルとかばんちゃんを2人とも泣かせればいいわけです。ですが、そういった安直なことはせずに、2人の絆を示すのにうってつけのシーンである紙飛行機の作り方を教えるのに教えてもらう場面すら、後のシーンの感動を増やすためにあえて描写しない。こういった高度な描き方に感動を覚えます。
このシーンだけでも、けものフレンズのストーリーが並のものではないということがよくわかると思います。
「けものフレンズ1話感想その13:紙飛行機の謎と、涙を見せない別れ」への1件のフィードバック