前回記事 【1話 その10】アニメ感想「けものフレンズの謎」:得意なことを見つけ、急速に成長するかばんちゃん
【Bパート 紙飛行機でセルリアンの注意をそらし、見事撃退する】
セルリアンの石を狙おうとするも、なかなかスキがつけず攻めあぐねるサーバルの横を通過する紙飛行機。サーバルを助けるため、かばんちゃんがパークの地図を折りたたんで作ったものでした。サーバルはセルリアンに攻撃を仕掛けるも、一瞬速くかばんちゃんが触手に狙われてしまいます。触手に捉えられそうになるかばんちゃんですが、すんでのところでカバに窮地を救われます。
カバ:変わった子ね。でも、サーバルを助けようとしたのね。
散々、「自分の身は自分で守らないとダメ」といっていたにもかかわらず、わざわざついてきてピンチになると助けてくれるあたり、カバがただのおせっかい焼きではなく、優しいキャラクターであることがわかります。特に「変わった子ね」と独り言をつぶやくシーンでは非常に優しい声をしていて、人前ではあえて厳しく振る舞っていることが伺えます。
カバの助けもあって、サーバルは見事セルリアンを撃退。かばんちゃんの元に歩いていくことになるのですが、ここでひとつ不自然な部分があります。
かばんちゃんのもとに近づくサーバルの様子は次のように描かれています。
- 遠く離れた位置から、ゆっくり歩いて近づいていく姿が横から描かれる
- かばんちゃんの表情を映すようにして、うつむいたままかばんちゃんに近づくサーバルの後ろ姿が描かれる
- 一瞬、うつむいて険しい表情をするサーバルが描かれた後、顔を上げ「すっごーい!なにあれ!?」とかばんちゃんに問いかける笑顔のサーバルが描かれる
一体、なぜこのような演出がなされたのでしょうか?
紙飛行機を見た後の、サーバルの不可解なリアクション
初めてけものフレンズを見たとき、私はこのシーンに強い違和感を覚えたことを記憶しています。まず、かばんちゃんに近づいてくるとき、ゆっくり歩いてくるのが不可解です。まるで何かを考える時間を稼いでいるかのように見受けられます。
視聴者にサーバルの表情がわからないようにしているのも不自然です。実際、同じようにかばんちゃんもサーバルの姿を不審に思ったのか、動揺した様子を見せています。
サーバルの表情が画面に映されたとき、最初は怪訝な表情をしていますが、一瞬で笑顔に切り替わりその後「すっごーい!」と紙飛行機に興奮した様子を見せています。コミカルな効果音とともに、拍子抜けしたかばんちゃんのリアクションが描かれており、シリアスなシーンが一転してギャグシーンへと移行しています。ファンの間では「IQが下がるシーン」ともいわれています。
サーバルの表情が曇っていた理由は?
このシーンには、次のような疑問があります。
- サーバルがかばんちゃんに話しかける間に「何か」を考えていたのだとしたらそれは何か?
- なぜ、かばんちゃんの前に来たら表情が一変したのか?
まず、サーバルに険しい表情をさせた「考え事」の正体を考察してみましょう。前後の状況から、次の3つの可能性が考えられます。
- セルリアンに襲われたフレンズ(アードウルフ)を助けられなかったことを悔やんでいる
- かばんちゃんを守るはずが、逆に守られてしまったことを悔しがっている
- 紙飛行機という異質な存在と、それを生み出したかばんちゃんに対して恐怖を感じている
セルリアンに襲われたフレンズ(アードウルフ)は、この後のエピソードからサンドスターを奪われており、動物に戻っていたことが判明しています。しかし、この時点ではサーバルにも視聴者にも、そのことは明かされていません。よってこの時点でサーバルにわかるのは、「誰かが襲われた可能性がある。うまく逃げおおせているかもしれないし、そうでなければすでに食べられてしまった後だろう」ということだけです。確実に「誰かが食べられてしまい、助けられなかった」とはいえない状況なので、これが「考え事」の原因である可能性は低いといえるでしょう。
次に、「保護する対象だったはずのかばんちゃんに、逆に守られてしまったことを気にしている」という可能性ですが、これは十分ありうるように思います。
以前の記事の中で、サーバルとかばんちゃんの関係を「新入社員と、教育係になった少し上の先輩」にたとえて説明した部分がありました。サーバルは、カバとの掛け合いでもわかるとおり、知り合いのフレンズからは「ドジー」「ゼンゼンヨワイー」「おっちょこちょい」と思われています。そんな、周囲からあまり実力を認められていないサーバルの前に現れたのが、ジャパリパークのことを右も左も分からない「新入社員」同然のかばんちゃんだったのです。そのように考えると、どうしてサーバルがあれほど張り切ってかばんちゃんをここまでガイドしてきたのか納得がいくと思います。
ようは、普段周囲から頼りにされない自分を、初めて頼りにしてくれる相手ができたことが嬉しかったのです。「上の兄弟姉妹が何人かいる状態で育った末っ子に妹や弟が生まれて、初めて『お兄ちゃん・お姉ちゃん』に慣れて張り切っている」とたとえたほうがわかりやすいかもしれません。そう考えると、このシーンは「自分が保護しなければいけない『新入社員(あるいは、妹・弟)』に、逆に助けられてしまった。『頼りになる存在』としての自分のアイデンティティが崩壊してしまったシーン」であるともいえるのです。
参考:【1話 その8】アニメ感想「けものフレンズの謎」:カバとの遭遇まで、ほかのキャラが登場しなかった理由
サーバルは「頼りない」と思われていることを気にしていた?
以上の仮説は、サーバルが「他人から頼りない存在と思われていることを、内心では案外気にしている」、「かばんちゃんを自分が守らなければいけない、と強く意識している」という点を前提としています。後者のほうは、言われてみればある程度受け入れられるかと思いますが、前者のほうはここまで見ていても「あまり意識しなかった」という人が多いのではないでしょうか?
実は、私もそうでした。サーバルというキャラクターは一見無邪気で純真、愛らしいキャクターに見えます。人格的に裏表があるように見えません。1話以降もほかのフレンズから軽く見られたり、冗談で馬鹿にされたりするシーンがいくつかありますが、そのたびに「ひどいよ!」という程度で、あまり気にしているような素振りを見せません。そのため、「純真で素直なキャラクターだから、他人から何か言われてもさして気にしないし、自分の評価も気にしていないのだろう」と思っていたのです。
しかし、そのように解釈すると、この紙飛行機後のシーンにおける一連の行動の説明がつかないのです。特に、うつむいてあれほど険しい表情を見せていた理由に納得のいく理由付けができません。
ですから、私はサーバルは「実は、他人から頼りないと思われていることを結構気にしていた」と考えています。そのように考えると、あの明るく純真に見えるサーバルの内面が、実は案外深く掘り下げられていることに気がつけると思います。
私は「フレンズを助けられなくて悔しかった」に一票。
かばんちゃんの位置からは見えなかったでしょうが、セルリアンの間近にいたサーバルなら、動物に戻ってしまったフレンズが見えるのが自然だと思うので。
basockさん、コメントありがとうございます。
なるほど。だとするとそこから、「動物に戻ってしまった姿をあえて描かない」=視聴者に悲しい場面を見せたくない
と言ったような演出上の意図が想像できるかもしれませんね。12話では描かれていたのは、むしろ安心感を与えてくれますしね。