後編に行くにしたがって、ポプテピピック各話のテーマ性はよりわかりやすくなってきました。この考察もついに11話に突入します。残りはあと僅かですが、最後まで制作陣の意図と演出の狙いについて考えていきたいと思います。
ポプテピピック第11話「#11 呪館」の内容まとめ
キャラクターボイス
Aパート:水樹奈々(ポプ子)、能登麻美子(ピピ美)
両者の共演作品:
http://lain.gr.jp/voicedb/individual/costar/461/cowork/28/page/1
Bパート:郷田ほづみ(ポプ子)、銀河万丈(ピピ美)
両者の共演作品:
「装甲騎兵ボトムズ」等。
エイサイハラマスコイおどり
エイサイハラマスコイおどりを披露するポプ子は、「流行るかな?」とピピ美に尋ねる。ピピ美は内心流行らないと思ったが、そう応えるとポプ子が泣いてしまうと思い、「絶対流行る」と力強く応えた。
場所は変わって、ミラーボールが輝き、人々が音楽に合わせて体を動かすクラブの中、ポプ子はエイサイハラマスコイおどりを披露する。傍らには、DJを務めるピピ美の姿が。
#11 呪館
玲奈、章吾、隼人、綾の男女4人組は、雪が降り積もる中、隼人がネットで見つけたロッジで共に一夜を過ごす。ロッジの暖炉のそばには、なぜか2人の女の子が映った写真立てが飾られていた。
Bパートでは、怖い話で有名な稲川淳二に扮した芸人BBゴローが映像を見ながらワイプでコメントする(青字で表記)
BBゴロー「あのね、私わかるんですよ。右側の彼(隼人)ね、すぐ殺されますよ。
(綾のネイルが剥げたのを見て)うん、霊の仕業ですよ。
今喋ってる彼(章吾)と隣の髪の長い娘(玲奈)の間に火の玉(暖炉の火)があるよ。この部屋はなんかいる」
当初はパーティーを楽しんでいた4人だったが、化粧を直しにトイレに行った綾が、廊下で見知らぬ女の子2人組の人影を目撃したことから、雲行きが怪しくなる。
BBゴロー「今ビール持ってる手、ホームランバッターの人もよく人差し指だけ出すのよ。彼(章吾)、野球やってるよ。
(化粧を直す綾を見て)この娘ね、空気も読めないんだけどさっきトイレのドア閉めてなかったでしょ。育ち悪いなぁ。
(廊下にポプ子とピピ美が登場)今なにか見えたよ!いるいるいるいるいる!確実に女性、もしくは男性の霊ね」
気分を害した綾は章吾に介抱を受けるが、彼に気があった玲奈は「章吾の気を引くための綾の演技」と決めつけ、綾と口論になる。隼人が止めに入るものの、口論の中で、綾と章吾が実は付き合っていたことが明るみになってしまう。章吾は綾に隠れて玲奈にもアプローチを掛けていたため、章吾は玲奈と綾から激しく詰め寄られる。
BBゴロー「この子たち何世代なんですかね。私何世代かなんて気にしないんですよ。
去年の年末、私仕事のロケ、車で行くんですよ。で、私の横に20歳くらいのスタッフさんが居たの。その子とやんややんや喋ってたんだけど、そのうち『うえぇー!』って戻しちゃって、私ヤバイなヤバイなって思って、コンビニの袋を彼に渡したの。そうしたら一通り吐いてすっきりして、彼その袋を私に返してきたの。
あれ何世代なんだろう、なんて思いながらね・・・」
ここで、隼人がそばの壁に立てかけられていた斧を手に取り、突如章吾に襲いかかった。章吾ばかりがモテることに堪忍袋の緒が切れた隼人は、斧で章吾の頭(とテーブルの上にあったスイカ)を真っ二つにする。
BBゴロー「私これ怪しいと思ってたの。テーブルの上に季節外れのスイカがあったでしょ?やだなぁ怖い」
「お前ら全員かち割ってやる!」と斧を振りかざす隼人から逃げようと、玲奈はロッジの外に止めてあった車に飛び乗った。ところが焦りのためかなかなかエンジンがかからない。やっとの思いでエンジンがつき、安堵した玲奈だったが、点灯したライトに照らされた車の前方には、綾が見たという2人の女の子の姿があった。
BBゴロー「車っていうのはホラーにつきものなんですよ。ほらほらほらほら!きたきたきたきた!エンジンかからないでしょ。
(ポプ子とピピ美が登場)うわっ!・・・あれ?ポプ子とピピ美ちゃんじゃないですか」
驚きと恐怖のあまり、玲奈は車を勢いよくバックさせてしまう。車はそのまま後ろの柵を突き破って崖から転落、最後には爆発炎上してしまった。ロッジに残った綾は、斧を持つ隼人に対向すべく、そばの壁にかけてあった猟銃を手に取る。ここで先に綾が猟銃を発砲。隼人に命中するものの即死させるには至らず、斧で反撃を受けてしまう。
BBゴロー「そうか、私ピーンと来ちゃった。あのねぇこれ、おそらく名作映画の・・・タイトルを言うと語弊があるかな・・・あのSニングのね。シャイ(ピー音)ニングのパロディですよ」
吹雪が過ぎ去り、朝を迎えたロッジには、燦々たる血しぶきが広がり、変わり果てた3人の遺体が横たわっていた。暖炉のそばには、昨夜と同じ写真立てが佇んでいる。しかし、写真の中には2人の女の子(ポプ子とピピ美)に加えて、新たに犠牲となった4人の男女の姿が加わっていた。
BBゴロー「ほらほら、私写真があるの知ってたんですよ。でも言ったら皆さん怖がっちゃうでしょ?だから言わなかったの」
ボブネミミッミ「新しい遊具」
「新しい公園の遊具を考えた」として、市長のもとに報告に行くボブ子。ボブ子が考えたのは、ジェットエンジンの力でブランコを動かす「ジェットパックブランコ」だった。「危険すぎる」と採用できない旨を伝える市長に対して、ボブ子は銃口を向ける。「労働の対価は払ってもらう。お前の命でな!」と啖呵を切ったボブ子は何度も引き金を引くが、発射されたのは実弾ではなく豆鉄砲だった。
そのとき、市長の体が分裂し2羽の鳩と化す。床に転がる豆をついばむ鳩たちに、「長生きしろよ」とポプ子は優しい眼差しを向けた。
ポプテピピック昔ばなし「きになる」
本を読むポプ子は、「何読んでるのか気になる?」とそばにいるピピ美に尋ねる。ピピ美は「きになる~」と応えるやいなや、体を一本の木に変化させた。大好きなピピ美が木になってしまったのを悲しんだポプ子は、そのままその木の根元に抱きつく。やがてポプ子の体もピピ美のように木に変化し、そのまま木の幹の一部となった。
時は流れて現在。幹が膨れた一本の木の前に立つ老人と男の子の姿があった。老人は男の子に、その木にまつわる昔ばなしを語っていた。
サイエンス
街に立ち並ぶビルを眼下に見下ろすほど巨大になってしまったピピ美。ポプ子はピピ美の手の平に乗りながら、どうしてそんなに大きくなったのか理由を尋ねる。ピピ美はしばらく考えた後、「サイエンス」とつぶやく。ポプ子はピピ美の応えを噛み締めながら、巨大化したピピ美の指先と顔を見つめていた。
ポプテピクッキング「オムライス」
オムライスを作ったポプ子とピピ美。ポプ子はピピ美のためにケチャップでハートマークを描こうとするが、完成したところで恥ずかしくなり、思わず全身を擦り付けてマークを消してしまう。
周囲にはケチャップが飛び散り、2人はケチャップまみれに。その様子を見ていたお姉さんは、あまりの光景に悲鳴を上げる。ケチャップにまみれた2人は、叫び逃げ惑うお姉さんを追いかけるのだった。
ボブネミミッミ「お便り」
ミミ美は視聴者からのお便りを読み上げる。内容は「ボブネミミッミは作画枚数が少なくてしょうもない。ほかのアニメを見習え」というものだった。ボブ子は「わかった。めっちゃ作画してヌルヌル動いたるわ」と回答。「本場のエイサイハラマスコイおどり」を披露する。
JAPON MiGNON
ティボ・トレスカ氏「フランスじゃありがちなんだけど フランス人は ワインについて語る時にとんでもなくうぬぼれるんだよ 実際は 自分が何を話しているか全くわからないくせにね ここでは ポプ子が彼女のグラスの中身について語ろうとしているんだ」
ワイングラスを片手に窓辺に佇むポプ子は、グラスの中身について語り始める。滑らかさ、色合い、香りなどについて語るが、そばにいたピピ美からは「そのブドウジュース早く飲み干したら?」とツッコまれてしまう。
サメに襲われる夢
ポプ子はサメに襲われ、口の中に入れられてしまう。ところが、サメもポプ子も笑顔で笑い声を上げ、全く恐怖を感じさせない。サメはポプ子に歯を立てるが、噛みちぎることなく解放。ポプ子と笑顔のまま別れを告げる。ポプ子は家に帰り、ベッドの中で眠りにつく。彼女が見た夢はサメに襲われる夢だった。
より詳細に流れを確認したい方は、本編の映像をご覧になるか以下のサイトが参考になります。
http://anicobin.ldblog.jp/archives/53152714.html
パロディの元ネタを知りたい方は、詳細にまとめているサイトをご紹介します。
http://matomame.jp/user/FrenchToast/a8d17d6f438a61be8c36
ポプテピピック11話のポイント
11話のテーマは「恐怖(ホラー)」
11話のテーマは、かなりわかりやすいので特に説明は不要でしょう。「#11 呪館」からもわかる通り、「恐怖(ホラー)」です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%81%90%E6%80%96
Wikipediaで「恐怖」の項目を確認してみると、以下のような記述があります。
河合隼雄は、「人間は自分の人生観、世界観やシステムを持ちながら生きているが、それをどこかで揺り動かすもの」と定義したうえで、恐怖はない方がいいように見え、ずっとそういう状態が続くと安心ではあるが、死んでいるのと同じである。生きる体験の中には必ず恐怖が入ってくる。存在を揺るがされるということは、うまくすれば、新しいことが開かれるが、下手をすれば破局を迎える。つまり、恐怖はその両者のちょうど境目になる。
一言でまとめると、恐怖とは「生と死の間で揺れ動く感情」とでも表現すればいいでしょうか。今回のポプテピピックは、素直に見る人を怖がらせようとしたわけではありません。むしろ、ホラーをパロディ化することによって、笑いに転化させようと試みていると言ったほうがいいでしょう。
「恐怖」と「笑い」は一見似ているようで、実はかなり似通った感情です。わかりやすく解説しているサイトをご紹介するので、興味がある方は見てみてください。
http://d.hatena.ne.jp/ncat2/20090620/1245511186
ポプテピピック11話の演出意図を考察
怖くないはずなのに恐怖を感じるもの
ポプテピピック11話には、主に2種類のネタが仕込まれています。ひとつは「怖くないはずなのに恐怖を感じるもの」があります。
たとえば、「#11 呪館」では、ポプ子とピピ美はまるで幽霊のような存在として描かれます。しかし、ただロッジを訪れた男女の前に姿を現すのみで、特に危害を加えるようなことはしていません。それなのに恐怖を感じ、結果的に4人の男女が自滅に追いやられてしまったのは、怖くないはずのものを恐怖してしまったことが引き金だったと言えるでしょう。
ボブネミミッミ「新しい遊具」や「ポプテピクッキング」のネタもこれと同じ種類に分類できます。新しい遊具でボブ子が市長に突きつけたのは豆鉄砲で、危害を加える気はなかったのですが、思わせぶりな言動のせいで市長は恐怖を覚えてしまいました。ポプテピクッキングは、「ケチャップまみれになった女の子に追いかけられる」という、ちょっとしたいたずらレベルのネタです。しかし、追いかけるポプ子とピピ美が無表情で、逃げる女性がオーバーリアクションなため、見る人は恐怖の念を覚えます。
怖いはずなのに恐怖を感じないもの
ふたつ目のネタの種類が、冷静に考えれば怖いはずなのに、見ていても恐怖を感じないものです。Bパートの「#11 呪館」は、ストーリーこそ変わっていないのに稲川淳二ものまねのワイプのせいでまったく怖くありません。
「サイエンス」や「きになる」、「サメに襲われる夢」もこれらと同じ種類のネタです。「女の子がいきなり巨大化したり、木になったりしてしまった」という怖い話を、演出だけでコミカル、シュールに見せています。サメに襲われる夢などは、「サメに食べられる恐怖の夢のループにとらわれている」というさらに怖いシチュエーションなのに、絵柄によってそれを感じさせません。
「エイサイハラマスコイおどり」は、「本来流行るはずのないダサい踊りが、謎の流行を見せる」という本来は恐ろしいはずのネタですが、ついついダンスのビジュアルに注目してしまいシチュエーションのおかしさは忘れてしまいます。ボブネミミッミ「本場のエイサイハラマスコイおどり」では、逆に、「ヌルヌル動きすぎるダンスの気持ち悪さ」という恐怖感を、「ダンス以外の部分はいつも以上に作画が手抜き」というシチュエーションの面白さによって打ち消すという構成になっています。
恐怖と笑いの類似性に注目し、それらを2つの観点から描こうとしたのがポプテピピックの11話なのではないでしょうか。