映画「コマンドー」感想その1:なぜベネットは銃と人質を捨てたのか?

1985年に公開された、アーノルド・シュワルツェネッガー主演のハリウッド映画「コマンドー」。日本では何度も地上波で繰り返し放送されてきたことから、馴染みの深い方も多いと思います。

 

特に平田勝茂氏の独特の翻訳から、ネット上ではさまざまな名言が現在に至るまで、スラングとして使われており、根強い人気を誇っています。今回はそんなコマンドーの面白さ、魅力について語ってみたいと思います。

 

映画「コマンドー」の概要

まずはコマンドーについて簡単に復習しておきましょう。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BC

 

かつて精鋭部隊「コマンドー」の指揮官であったジョン・メイトリックス大佐(シュワルツェネッガー)が、悪党によって娘を奪われ、それを取り戻すためにド派手なアクションを繰り広げるというストーリーです。

 

コマンドーの悪役:黒幕のアリアス、ライバルのベネット

コマンドーについて語りたいところは無数にありますが、今回は「ベネットの最後」について取り上げてみたいと思います。そのためにはまず、2人の悪役について説明しなければなりません。

 

コマンドーには、個性的な悪役が何人も登場しますが、なかでもリーダー格と言っていい存在がベネットとアリアスです。ベネットはメイトリックスの元部下、残忍な性格が災いして舞台を追われ、ずっとメイトリックスに復讐する機会を狙ってきました。アリアスは、昔メイトリックス率いるコマンドー部隊によって国を追われた独裁者。ベネットを雇い、メイトリックスの娘を人質にして、故国の現大統領暗殺を強要した首謀者です。

 

2人はそれぞれ、主人公に個人的な恨みを持つ「ライバル」と、ストーリーの中で全体的な悪事を進行していく「黒幕」だと考えていいでしょう。どちらもヒーローアクションものには不可欠な悪役ですが、2人のキャラクター像はまったく異なった形に描かれています。

 

自身を正義と信じて疑わない独裁者「アリアス」

先に「黒幕」、アリアスのキャラクター像から見ていくことにしましょう。メイトリックスは劇中で初めてアリアスと顔を合わせたとき、残忍な独裁者だった彼を罵りました。しかし、アリアスは少なくとも表面上は冷静に「故国を導くには(自分のように)厳格なリーダーが必要なのだ」と返します。つまり、「自分を悪人だと自覚していない悪役」として描かれているわけです。

 

主人公への復讐に燃えるライバル「ベネット」

一方のベネットはというと、「主人公への復讐心」がクローズアップされたキャラクターとなっています。ベネットは物語の序盤、アリアスの命令でメイトリックスを捕らえましたが、「お前を殺せと言われたらタダでも喜んでやる」、「(捕らえるのではなく)本当は殺してやりたかった」という趣旨の発言をしています。そしてこれらのシーンでは、ベネットの顔には強い憎しみの表情が映し出されていました。

 

ベネットの運命を変えたアリアスの一言

こうした2人のキャラクター像の違いが対象的に描かれているシーンがあります。英語と日本語訳のセリフを合わせて紹介しているサイトがあるので、そちらから引用させてもらい確認してみましょう。ほかにもコマンドーの名言・名台詞が多数紹介されているのでぜひ見てみてください。

 

http://toppoi.blog54.fc2.com/blog-entry-620.html

 

取り上げるのは、メイトリックスが自分たちを裏切ったことを知らず、大統領暗殺の知らせを2人がアジトで待つシーンの会話です。

 

口だけは達者なトーシロばかり
I love listening to your little pissant soldiers
よく揃えたもんですな。
trying to talk tough.
まったくお笑いだ。メイトリックスがいたら、奴も笑うでしょう。
They make me laugh. If Matrix was here, he’d laugh too.

ベネット君、私の兵士はみな愛国者だ。
Mr Bennett, my soldiers are patriots.

ただのカカシですな。
Your soldiers are nothing.

 

俺たちならまばたきする間に皆殺しにできる、
Matrix and I could kill every one of them in the blink of an eye.
忘れないことだ。
Remember that.

君は私を……脅しているのか?
Are you trying to frighten me?

事実を言っているだけです。
I don’t have to try.
仕事を終えたらメイトリックスは娘を取り返しに来ます。
When Matrix finishes the job, he’ll be back for his daughter.
娘が生きていようがいまいがそいつは……関係ない。
Whether she’s alive or dead doesn’t matter.
奴はアンタを追いかける。
Then he’ll be after you.
あんたをメイトリックスから守ることができるのは……俺だけです
The only thing between Matrix and you… is me.

怖がっているのは、私ではなく君じゃないのかベネット?
It is you that is afraid, Mr. Bennett.
君こそメイトリックスを恐れているんだ。
You are afraid of Matrix.

もちろんです、プロですから。
Of course. I’m smart.
しかしこちらには……切り札があります。
But I have an edge. I have his daughter.

 

ベネットは、「(暗殺の成否、娘の生死にかかわらず)メイトリックスは必ず自分たちを殺しにやってくる。そのとき頼りになるのは自分だけだ」とアリアスに伝えます。ベネットの目的あくまでもメイトリックスへの復讐であり、最初からそのときを狙って返り討ちにするのが狙いだったということが示されているわけです。

 

ところが、アリアスはあくまで「大統領暗殺」と「自身の返り咲き」が目的のつもりなので、まったく話が噛み合いません。「私を脅しているのか?」、「メイトリックスを恐れているのは君じゃないのか?」と的はずれな返事をしてしまっています。ところが、このときのアリアスの指摘がその後のベネットの運命を大きく変えることになります。

 

なぜベネットは挑発に乗ってしまったのか?

目論見通り、娘を取り戻しにやってきたメイトリックスに対し、ベネットは「娘を人質にとり、利き腕を負傷させた上、飛び道具を持たない相手に銃を突きつける」という圧倒的に優位なポジションをとることに成功しました。この時点でほとんど勝利は確実だったはずですが、メイトリックスから「銃なんか捨ててかかってこい!」と挑発されると、あっさり娘を開放。銃も手放して格闘戦を始めてしまったのです。「プロ」を自称していたにもかかわらず、いったいなぜこんな行動を取ってしまったのでしょうか?

 

ベネットはメイトリックスに「トラウマレベルの恐怖心」を抱いていた?

私はベネットが銃と人質を手放した理由は、「メイトリックスへの恐怖心」によるものだったと考えています。

 

ベネットがメイトリックスを恨んでいる理由について、劇中では「戦いを楽しむ性格を疎まれ隊を追われたから」と説明されていました。ベネットを訓練したのはコマンドー部隊の隊長であったメイトリックスであり、軍の精鋭部隊のことですから、当然厳しいシゴキもあったことでしょう。そんな中で、ベネットはメイトリックスに対してトラウマレベルの強い恐怖心を抱いたのではないかと思われます。彼が執拗にメイトリックスへの復讐にこだわるのも、そうした恐怖心を振り払い、トラウマを克服するためだったのではないでしょうか。

 

そのことを示す根拠となるシーンが、先ほどご紹介したアリアスとの会話です。会話の中で、アリアスは「君はメイトリックスを恐れている」と指摘していました。しかし、ベネットは落ち着いた様子で「もちろんです」と応え、特に大きなリアクションは見せていません。ですから、彼の言葉通り「メイトリックスを恐れてはいるが、それはプロとしての戦力分析から来るものだ」と解釈することもできるでしょう。

 

「怖いのか?」の一言が秘められたトラウマを刺激

ですが、そのように解釈すると今度は、メイトリックスと対峙するシーンでの行動に説明がつきません。メイトリックスの挑発に対して、最初ベネットは至って冷静に応じる様子を見せませんでした。ところが、徐々にメイトリックスへの憎しみを露わにしていき、「怖いのか?」と言われたのをきっかけに人質と銃を手放しています。そして「てめぇなんか怖くねぇ!」と絶叫。このとき、劇中で最もメイトリックスへの憎しみが現れた表情をしていました。

 

このときのベネットのリアクションこそ、先のアリアスからの問いかけに対するベネットの「本音」だったのでしょう。第三者から指摘されたときは表面上、冷静に応えられたものの、いざトラウマの原因であるメイトリックス自身に「怖いのか」と指摘されると、それまで押さえつけていた恐怖心が湧き上がってきてしまい、それをかき消そうとあえて強気な態度を取ろうとしたのだと思います。このときのベネットの顔も、よく見ると純粋な憎しみというよりは、恐怖心が入り混じっているようにも見える表情をしていました。

 

もしかしたら、先にアリアスから「メイトリックスを恐れているのか?」と指摘されていなければ、ベネットは最後まで冷静に戦い、メイトリックスに勝利できていたかもしれません。そういった意味では、彼自身気づいていなかったかもしれない、過去のトラウマを表面化させたアリアスの一言は、ベネットにとって自身の末路を決定づける言葉だったといえるでしょう。

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Webライター・マーケティングコンサルタントとして活動しています。実務を通じて学んだマーケティングに関するノウハウや最新情報をわかりやすく提供していきたいと思っています。 また、時事に関わるニューズをマーケティング・ライティングといった切り口から解説してみたいと思います。

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