「NHKバーチャルのど自慢2019」の感想

2019年1月2日、NHK総合テレビにて「バーチャルのど自慢2019」が放送されました。人気のバーチャルYoutuberたちを集め、その歌唱力を競うという内容でしたが、2018年の流行語にも選出されたバーチャルYoutuberがついにNHKに進出を果たしたとしても話題を集めました。この記事では、本番組の内容を私の感想とともに振り返りたいと思います。... 続きを読む

マツコ有吉のかりそめ天国、「ネイティブ英語が話す子どもが増えている」は本当か

「マツコ有吉のかりそめ天国」(2017年6月7日放送)で、「先生よりも英語の発音が良い生徒が増えて、先生がなめられる」というテーマが取り上げられていました。番組内で取り上げられたデータを再検証し、早期の英語学習の意義について考えてみました。マツコと有吉の意見も紹介します。  

先生より英語が得意な子どもが増えている」は本当か?

子どもの英語学習は、かつては中学校から始められていました。2011年からは小学校5年生から必修となり、2020年には「小学3年生から必修」になると言われています。こうした状況を受けて、海外留学や塾など学校外で英語を学ぶ子どもの数が増えています。   「マツコ有吉のかりそめ天国」の番組内では、「学校外で英語を学ぶ子どもが増えている」とする根拠としてベネッセとリクルート、2つのデータを取り上げていました。厳密な出典が紹介されていなかったので、ネットで調べてみました。  

中学校入学前の英語学習(学校外での英語学習)

こちらはおそらく、ベネッセ教育総合研究所による「中高生の英語学習に関する実態調査 2014」が出典と思われます。  

子どもの習い事ランキング

こちらはリクルートマーケティングパートナーズが運営するサイト「ケイコとマナブ.net」のランキングが出典と思われます。     「かりそめ天国」の番組内では、ベネッセの調査とリクルートのランキングから「英語を外で習う、は常識になりつつある」と紹介されていました。果たしてこの捉え方は正しいのでしょうか?  

ネイティブな発音ができる中学生はそんなに多いのか?

まず、ベネッセの調査報告書を見ると、たしかに番組内で紹介されていたようなデータがあることは事実です。しかし、一方では次のような報告も同時に記載されていました。  
「海外旅行やホームステイに行ったことがある」は1割前後。
  また、中学校入学前に行った「学校外での英語学習の種類」では学習塾と英会話教室が合わせておおよそ8割前後を占めているものの、具体的にどのような教室・環境で勉強をしているかは明らかにされておらず、番組内で言われていたように「ネイティブな教師から英語を習った中学生が、先生に冷や汗をかかせている」という場面がどれほど一般的かについては疑問が残ります。  

保護者やデータ発信元の思惑

続いて、リクルートの方のランキングを見ていきましょう。こちらは、リンク先のページを見てもらえばわかる通り、厳密には「ママ900人に聞いた 習っているお稽古ランキング」です。つまりどちらかと言えば子ども本人の意志より、「子どもにどういう習い事を習わせたいか?」というランキングだと捉えたほうが実態に近いでしょう。   そして、もっとも重要なことはベネッセは教育事業、リクルートは就職・転職事業を営む会社だということです。つまり、彼らには「子どもの英語教育が流行っていますよ(だから皆さんやりましょう)」という理由があるということです。  

「早期の英語学習」に懐疑的なマツコと有吉

ちなみに、番組中でマツコと有吉は「機械翻訳などの技術も発達しているし、近い将来英語の勉強も不要になるかもしれない」、「英語の勉強は好きにしたらいいが、それだけで幸せになれるとは限らない」といった感想を述べていました。     マツコ・デラックスは、社会の変化によって価値が変化した職業の例として「システムエンジニア」を挙げました。「自分がまだ若いころ、システムエンジニアといえば大変重宝された。しかし今ではかなりありふれた職業になっている」と述べて、英語のスキルについても同じような道をたどるのではないか、と危惧していました。   有吉は、海外ケーブルテレビの日本進出やネットテレビ局の発展などで、テレビ業界事態が社会の変化に取り残されないか、と心配する様子を見せました。最後、「将来はみんなVRゴーグルを付けて、ヴァーチャルな世界で生きていけばいいんだ」と話にオチをつけて締めくくっています。   現代社会はとかく変化が多く、将来を予測するのは簡単ではありません。長年時間をかけて取り組んでいたことが、明日には技術革新によって無駄になっていることも十分にありえます。「これをやっておけばOK」と安直に捉えて思考停止してしまうのではなく、どんな不測の事態にも対応できる柔軟な姿勢を持つことが重要なのかもしれません。  ... 続きを読む

「マツコの知らない世界」から学ぶ、テレビ番組の演出方法

以前公開した記事=「マツコの知らない世界」から学ぶ水族館のマーケティング と、タイトルが似ていますが中身は全く違います。以前の記事は、水族館について紹介する番組内容を元に、「水族館がどのようなマーケティングを行っているのか?」を紹介した記事でした。今回は全く見方を変えて「水族館について語る専門家の声を、テレビ番組はどのような形で放送したのか?」を考えてみましょう。     「マツコの知らない世界」は、ドラァグクイーンのマツコ・デラックスが、さまざまな業界に詳しい人をゲストに招き、普通の人は知らないようなディープな世界についてトークを繰り広げる番組です。いろんな業界の裏話のような話が聞ける上に、マツコの巧みな素人いじりが見られるので、私のお気に入りの番組です。   今回取り上げるのは、放送105回めとなった「水族館&インスタントカメラの世界」です。ただし、対象とするのは前半の「水族館」部分だけなので注意してください。番組内容そのものがどのようなものであったかについては過去の記事で紹介しているので、番組本編をご覧になっていない方はそちらを見てから本記事を読んでもらうほうが理解しやすいかもしれません。   「マツコの知らない世界」から学ぶ水族館のマーケティング   上記の記事では、番組本来の流れに沿って「最新の水族館の動向」をご紹介してきました。今回は切り口を変えて「『知らない世界』という番組は、「水族館」というテーマをどのように視聴者に紹介したかったのか?」という、メディア側の意図を探っていきたいと思います。  

ゲストの中村さんには一貫した主張があった

今回の放送で、水族館を紹介してくれた専門家は中村元さん。全国の水族館を渡り歩き、運営にもかかわる水族館プロデューサーです。番組内における中村さんの主張は、下記のようなもので終始一貫していました。  
  • 水族館のお客さんは、誰も魚なんて見ていない・・・・起
  • では、何をしに来ているかというと「水中にいる気持ち」を味わうためである・・・承
  • 「水中にいる気持ち」を作り出すために重要なのは「水塊(巨大な水槽)」である・・・転
  • だから、今日は「水塊」に力を入れている、面白い水族館を皆さんにご紹介する・・・結
  それぞれ、話の内容に「起承転結」という意味合いを割り振ってみました。このように見ていくと、中村さんの話には「お客さんは魚を見てない→本当は『水中にいる体験』がしたい→そのために重要なのは『水塊』だ!→だから、水塊のある水族館を紹介する」というふうに、一貫した因果関係で結ばれた「主張のストーリー」があることがわかります。   更に細かく言えば、「しかし、水塊を造るには莫大な費用がかかる→水塊に頼らず集客に成功している水族館も紹介する」というサブテーマもありました。  

中村さんのストーリーは、番組内でどう表現されたか?

このように、中村さんは数々の水族館のプロデュースを成功させてきた方らしく、極めてユニークで、かつ価値のあるストーリーを多くの人に届けようとして番組に出演していたことがわかります。   しかし、「知らない世界」の番組スタッフはこの中村さんの主張を、中村さんがいうそのままの形で視聴者に伝えようとしていたわけではありません。番組スタッフとしては、「こうした方が視聴者の興味引きやすいだろう」という編成があり、そちらに合わせて少し中村さんのストーリーを軌道修正させていったと私は考えています。   このようにいうと、「マスメディアが出演者の声を歪めた」と誤解する方もいるかもしれません。私がいいたいのはそこまで大げさなことではなく、「テレビ的にはこうした方がウケが良いだろう」と考えた番組スタッフの編集意図が、番組の中で現れていた、ということです。「知らない世界」は私も好きな番組なので、中村さんの主張を番組が歪めて伝えたわけではない、ということだけは念のためお断りを入れておきます。  

本題に入るための導入トーク

番組スタッフの編集意図は、まず冒頭から現れます。中村さんはスタジオに現れるなり、次のような話をマツコに紹介しました。   中村さん:今回の出演で、水族館に関してようやく言いたいことがいえそうです。テレビでは普段、わりと普通のことしか聞かれません。たとえば、「親子で水族館に行ったらどんなふうにみればいいですか?」とか。私に言わせれば「好きに見ればええやん」と思うんです。本当は、水族館についてそんなことが語りたいわけじゃないんですよ。   ここから、先に書いた「水の中にいる体験」や「水塊」に関する話につながっていくわけですが、ここで番組は一旦中村さんのトークを遮り「毒舌プロデューサー」というテロップを入れました。中村さんとしては、冒頭のトークは「水族館は水の中にいる体験をする場所だ!」という、本題に入るための導入トークだったはずです。しかし、番組スタッフは編集でその意図を薄め、導入トークを「毒舌」という中村さん個人へのキャラクター付けに持っていったわけです。  

テレビ番組にも、演者とは違う「伝えたいストーリー」がある

番組スタッフがなぜこのような編集を行ったかは、続きを見ていけば明らかになります。冒頭トークに続くシーンでは、ナレーションによって次のような紹介がなされました。   ナレーション:   今日水族館について教えてくれるのは、こんな「毒舌プロデューサー」の中村さんです・・・起 普段あまりテレビに出ることのなかった水族館で、マツコを驚愕させます・・・承 皆さんは日本が世界にある水族館の1/5が集中する、「水族館大国」だということをご存じでしょうか?・・・転 今夜は、「この夏行くべき水族館」をご紹介します・・・結   なぜ、「知らない世界」の編集が、中村さんの「本題に入るための導入トーク」を「中村さんのキャラクター紹介」に置き換えたのか。それはこのような「番組側が考えるストーリー」に内容を当てはめるためだったと考えられます。   「水族館は水の中にいる体験をする場所、重要なのは水塊だ」という中村さんのストーリーは、ユニークで面白い反面、最初から番組を見ていないと理解しづらいものです。たとえば、途中から番組をつけて、冒頭の「水族館では誰も魚なんて見ていない」という部分を見ていない途中からの視聴者は、「なんで水槽の紹介ばかりで、どんな魚がいるか紹介しないんだろう?」と不思議に思うかもしれません。   しかし、「毒舌キャラのプロデューサーが、『この夏行くべき水族館を紹介します』」というストーリーであれば、毎回CMの前後に一瞬だけ説明を挿入すれば誰でも簡単に理解できます。こうした「直感的な理解のしやすさ」こそ、「テレビ的にウケが良い」と考えられる部分なのです。  

テレビは「多くの人にひと目で伝わるストーリー」でなければならない

番組を続けてみていけば、中村さんの主張は十分に理解できます。しかし、そうでなくても「一瞬だけチャンネルを変えた人」であってもそれぞれの部分で楽しめるように番組が編集されているのです。   テレビは不特定多数の人々に、一方的に情報を提供できるメディアです。それだけに、できるだけ多くの人に伝わりやすく、理解しやすい内容になっていなければいけません。「知らない世界」の演出・編集の方法は、演者の主張を曲げること無く「わかりやすさ」との両立を目指したバランスの良いもの仕上がっているといえるでしょう。... 続きを読む

「世界の果てまでイッテQ!」高視聴率と人気の理由

日本テレビ系列で日曜20時のゴールデンタイムから放送されている、「謎解き冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!」。テレビの視聴率低下が叫ばれる昨今、20%超えの視聴率を連発する人気番組として多くの人々に親しまれています。この高視聴率の背景にはどんな理由が隠されているのか考察します。  

視聴者の目から見たイッテQ!

イッテQ!は私も好きな番組のひとつで、毎週楽しみに見ています。まずは、私のような視聴者がイッテQのどのような部分に惹かれているのか、ネットで調べてみました。イッテQは人気番組なので掲示板やまとめサイト、SNS上などで毎週盛んに感想が書き込まれています。   人々の感想を要約すると、主に次のような感想を持っている方が多いようです。  
  • スタジオでのトークで笑いを取ろうとする番組が多い中、お笑い芸人を始めタレントが体を張っているのがいい
  • つまらないシーンや、緊張感のある場面でも笑いに変えるナレーションや編集技術が巧み
  • 個人的につまらないコーナーはあるものの、「絶対に面白い!」と思える当たりのコーナーが必ずある
  私もいち視聴者として、これらの感想には多いの同意するところです。  

テレビ業界関係者の目から見たイッテQ

続いて、芸能関係者などの業界人がイッテQをどのように評価しているか調べてみました。出典としては週刊現代がテレビ局や広告代理店など業界関係者に行ったインタビューを元にした記事と、番組の主要メンバーであるウッチャンナンチャンの内村光良さん、出川哲朗さんにメディアがインタビューした記事があります。   それらによれば、彼らテレビ業界の人はイッテQ高視聴率の理由を次のように捉えていました。   内村光良:出演者たちのむき出しの個性と、それを演出するスタッフの力が合わさった総合力。 出川哲朗:タレントのスケジュールを長時間抑え、それだけ「ガチ」で作っている番組だから。 九州産業大学教授 岩崎達也:ターゲットが明確であり、裏番組である大河ドラマを見る層以外をすべてカバーしている。幅広い層が見られるように、不快感を与えるタレントは使わない。お笑いだけでなく、感動・努力といった爽快感を与える要素がプラスされている。   広告代理店関係者:男女・年齢層ともに偏りなく、幅広い層に見られている。   日本テレビ制作局長 加藤幸二郎:地デジ普及によるテレビの大画面化で、「家族で一緒にテレビを見る習慣」が復活しつつある。背景には、東日本大震災で人々が「家族とのつながりの大切さ」を再認識したこともあるのでは。女性が嫌うヘビやカエルをあえて写す、絵が代わり映えしない「登山」を写すなど、マーケティングの裏を張っている。   日本テレビ関係者:スケジュールを長期で抑えられる、ブレイク前のタレントを起用している。   同志社女子大学教授 影山貴彦:「イッテQ登山部」のように、バラエティにドキュメンタリーの要素を加えた、「ドキュメントバラエティ」の要素が魅力。   番組制作会社ディレクター:テロップやナレーションを入れるタイミング、表情の切り取り方がうまい。   参考リンク: 内村光良:「イッテQ!」人気の理由を分析 出川哲朗が明かした『世界の果てまでイッテQ!』人気の秘密 日テレ『イッテQ』はなぜここまで強いのか? その緻密な戦略と計算   番組出演者は、「自分たちの魅力をスタッフがどのように表現してくれているか?」という観点から番組を評価しています。一方、業界人は「演出の巧みさ」のように視聴者と同じような部分に注目することもありますが、ターゲット層や放送時間帯といった「作り手側」ならではのポイントにも注目していることがわかります。  

「見る側」、「作る側」の意見だけでは真の理由は見えてこない

しかし、私はこれらの意見をあわせて考えたとしても、イッテQが高視聴率を誇っている本当の理由は見えてこないと思います。たとえば、番組出演者の意見を言い換えると「いいタレントと、その良さを引き出してくれるいいスタッフがいれば、いい番組ができるよね」という話でしかなく、「そりゃそうだろう」という一般的な結論にしかならないからです。   また、テレビ業界関係者の意見も、実際に現場で行うにあたっては「ターゲット層を設定して番組を作る」、「ドキュメントバラエティの形式で番組を作る」といった一般的な方法論に落とし込んでいくしかありません。一般的な方法であれば、理論上はほかの誰でも真似できるはずです。しかし、他の番組はそれができていないから視聴率がとれていないわけで、そういった意味では真の高視聴率の理由とはいえません。イッテQの独自性、他所の番組が真似できない部分はどこかを探し出す必要があると思いました。  

イッテQ!高視聴率の理由を企画・演出から探る

私が今回、イッテQ高視聴率の真の理由を探るために注目したのは、同番組の企画・演出を務める古立善之氏です。古立氏は、過去にも同局の人気番組であった「進ぬ!電波少年」などの制作に携わり、現在はイッテQのほかに「月曜から夜ふかし」等の人気番組にかかわっています。   古立氏がどのような理念を持って番組制作に取り組んでいるのか調べてみると、以下のような情報が見つかりました。   古立 善之 | 日テレの社員たち | 日テレ 採用サイト テレビ屋の声 – 第6回 日本テレビ古立善之氏、『イッテQ』『夜ふかし』『しやがれ』…共通するのは「ストーリーを大事にすること」   これらの記事の内容を元に、イッテQが高視聴率を誇っている理由を考察してみたいと思います。(元記事も面白いのでぜひ読んでみてください)  

企画・演出方針から考察する「イッテQ高視聴率の理由」

以下に、古立善之氏が記事内で語った企画・演出の理念から、イッテQの面白さにつながっていると思われる部分をピックアップしてみました。  

ネタを決めるときは直感や素朴な疑問から

古立氏は、「イッテQでは、国ありきでネタを考えることはほとんどない」と語っています。つまり、「次はアメリカに行こう!どんなことをしたら面白いか?」ではなく、「アメリカで今流行っている面白いネタはないか」というふうに考えるということでしょう。イッテQ登山部を始めとする山登りのコーナーはこうした発想法によって「冬に富士山に登ったらどうなるんだろう」という素朴な疑問から生まれました。  

タレントの「人生」をベースにストーリーを作る

たとえば、イモトアヤコさんであれば、「無名の女芸人が体を張って世界中の珍獣や山に挑戦する」。宮川大輔さんであれば、「チーズころがし祭りなどで、『お祭り男』として一世を風靡したものの、近頃は体力が衰えてきた。そんな中で挑戦し、結果を残さなければいけない」というふうに、イッテQではそれぞれのタレントの人生がストーリーとして視聴者に伝わるような描き方をされています。そして、そのストーリーの上に番組の企画・コーナーが乗っかっているので、視聴者は感情移入し感動することができるのです。  

視聴者が見飽きた要素は捨てる

これはイッテQの特徴でもある演出方法に関わる部分です。古立氏は、「イッテQでは、他番組でも見られるような要素は写さない」と語っています。例として、「日本からオーロラを見に来たんですけど、見られますか?」と尋ねるシーンや、分かりきったこと、タレントのセリフをナレーションが復唱するシーンなどを挙げています。そうしたシーンは視聴者も見飽きているため、カットしてその分の尺を別の映像に当てたほうがいいそうです。タレントのスケジュールを数日抑えるロケでも、実際に使う映像が数十分程度になることがあるのはそのためとか。

スタッフ・タレント・視聴者の関係性で笑いを作る

「笑い」を生み出すために、スタッフ・タレントに加えて「視聴者」という要素を組み込んでいるのも特徴的なところです。たとえば、ジャニーズタレントの手越祐也さんが難しい企画に挑戦するコーナーで、失敗したときに「イエーイ!」というナレーションを流したり、手越さんがキザな行動を取ったシーンを繰り返したりする演出がよく見られます。   通常であれば、若い女性に人気の男性アイドルにそういった扱いはしないものですが、視聴者に「女性からちやほやされるアイドルに嫉妬する男」がたくさんいることを意識して彼らの笑いを取り、また同時に「そういう男性視聴者がたくさんいるんだぞ」という事実を突きつけて「手越ファン」の女性からも笑いを取る、という高度な戦略を取っているといえるでしょう。  

「面白さ」は簡単には真似できない

このように、実際にイッテQで企画・演出を担当している古立善之氏の言葉を参考にすると、イッテQがなぜ高視聴率をキープできているのか、その理由をより説得力のある形で理解することができます。視聴者の意見はあくまでも「見る側」の意見なので、いくら分析しても「なぜ他の番組はそうできないのか?」と問われても理由を説明することはできません。   また、業界人の意見も同様に高視聴率という結果から逆算したものに過ぎません。「幅広い層をターゲットにしている」というのは、ほかの同時間帯の番組もやっていることでしょう。「なぜイッテQだけにそれができたのか?」という説明にはならないはずです。   「どうすれば面白いものが作れるのか?」という理由は、本当にそれを作っている人に聞かなければわかりません。イッテQの高視聴率を実現している理由は、古立氏の演出家としての力量が生み出しているものです。おそらく、多くの人が真似しようとしてもできないものでしょう。しかし、だからこそイッテQはこれからも独自の良さを持った番組として我々に笑いを提供してくれると思います。        ... 続きを読む
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