「世界の果てまでイッテQ!」高視聴率と人気の理由

日本テレビ系列で日曜20時のゴールデンタイムから放送されている、「謎解き冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!」。テレビの視聴率低下が叫ばれる昨今、20%超えの視聴率を連発する人気番組として多くの人々に親しまれています。この高視聴率の背景にはどんな理由が隠されているのか考察します。

視聴者の目から見たイッテQ!

イッテQ!は私も好きな番組のひとつで、毎週楽しみに見ています。まずは、私のような視聴者がイッテQのどのような部分に惹かれているのか、ネットで調べてみました。イッテQは人気番組なので掲示板やまとめサイト、SNS上などで毎週盛んに感想が書き込まれています。

人々の感想を要約すると、主に次のような感想を持っている方が多いようです。

  • スタジオでのトークで笑いを取ろうとする番組が多い中、お笑い芸人を始めタレントが体を張っているのがいい
  • つまらないシーンや、緊張感のある場面でも笑いに変えるナレーションや編集技術が巧み
  • 個人的につまらないコーナーはあるものの、「絶対に面白い!」と思える当たりのコーナーが必ずある

私もいち視聴者として、これらの感想には多いの同意するところです。

テレビ業界関係者の目から見たイッテQ

続いて、芸能関係者などの業界人がイッテQをどのように評価しているか調べてみました。出典としては週刊現代がテレビ局や広告代理店など業界関係者に行ったインタビューを元にした記事と、番組の主要メンバーであるウッチャンナンチャンの内村光良さん、出川哲朗さんにメディアがインタビューした記事があります。

それらによれば、彼らテレビ業界の人はイッテQ高視聴率の理由を次のように捉えていました。

内村光良:出演者たちのむき出しの個性と、それを演出するスタッフの力が合わさった総合力。

出川哲朗:タレントのスケジュールを長時間抑え、それだけ「ガチ」で作っている番組だから。

九州産業大学教授 岩崎達也:ターゲットが明確であり、裏番組である大河ドラマを見る層以外をすべてカバーしている。幅広い層が見られるように、不快感を与えるタレントは使わない。お笑いだけでなく、感動・努力といった爽快感を与える要素がプラスされている。

広告代理店関係者:男女・年齢層ともに偏りなく、幅広い層に見られている。

日本テレビ制作局長 加藤幸二郎:地デジ普及によるテレビの大画面化で、「家族で一緒にテレビを見る習慣」が復活しつつある。背景には、東日本大震災で人々が「家族とのつながりの大切さ」を再認識したこともあるのでは。女性が嫌うヘビやカエルをあえて写す、絵が代わり映えしない「登山」を写すなど、マーケティングの裏を張っている。

日本テレビ関係者:スケジュールを長期で抑えられる、ブレイク前のタレントを起用している。

同志社女子大学教授 影山貴彦:「イッテQ登山部」のように、バラエティにドキュメンタリーの要素を加えた、「ドキュメントバラエティ」の要素が魅力。

番組制作会社ディレクター:テロップやナレーションを入れるタイミング、表情の切り取り方がうまい。

参考リンク:

内村光良:「イッテQ!」人気の理由を分析

出川哲朗が明かした『世界の果てまでイッテQ!』人気の秘密

日テレ『イッテQ』はなぜここまで強いのか? その緻密な戦略と計算

番組出演者は、「自分たちの魅力をスタッフがどのように表現してくれているか?」という観点から番組を評価しています。一方、業界人は「演出の巧みさ」のように視聴者と同じような部分に注目することもありますが、ターゲット層や放送時間帯といった「作り手側」ならではのポイントにも注目していることがわかります。

「見る側」、「作る側」の意見だけでは真の理由は見えてこない

しかし、私はこれらの意見をあわせて考えたとしても、イッテQが高視聴率を誇っている本当の理由は見えてこないと思います。たとえば、番組出演者の意見を言い換えると「いいタレントと、その良さを引き出してくれるいいスタッフがいれば、いい番組ができるよね」という話でしかなく、「そりゃそうだろう」という一般的な結論にしかならないからです。

また、テレビ業界関係者の意見も、実際に現場で行うにあたっては「ターゲット層を設定して番組を作る」、「ドキュメントバラエティの形式で番組を作る」といった一般的な方法論に落とし込んでいくしかありません。一般的な方法であれば、理論上はほかの誰でも真似できるはずです。しかし、他の番組はそれができていないから視聴率がとれていないわけで、そういった意味では真の高視聴率の理由とはいえません。イッテQの独自性、他所の番組が真似できない部分はどこかを探し出す必要があると思いました。

イッテQ!高視聴率の理由を企画・演出から探る

私が今回、イッテQ高視聴率の真の理由を探るために注目したのは、同番組の企画・演出を務める古立善之氏です。古立氏は、過去にも同局の人気番組であった「進ぬ!電波少年」などの制作に携わり、現在はイッテQのほかに「月曜から夜ふかし」等の人気番組にかかわっています。

古立氏がどのような理念を持って番組制作に取り組んでいるのか調べてみると、以下のような情報が見つかりました。

古立 善之 | 日テレの社員たち | 日テレ 採用サイト

テレビ屋の声 – 第6回 日本テレビ古立善之氏、『イッテQ』『夜ふかし』『しやがれ』…共通するのは「ストーリーを大事にすること」

これらの記事の内容を元に、イッテQが高視聴率を誇っている理由を考察してみたいと思います。(元記事も面白いのでぜひ読んでみてください)

企画・演出方針から考察する「イッテQ高視聴率の理由」

以下に、古立善之氏が記事内で語った企画・演出の理念から、イッテQの面白さにつながっていると思われる部分をピックアップしてみました。

ネタを決めるときは直感や素朴な疑問から

古立氏は、「イッテQでは、国ありきでネタを考えることはほとんどない」と語っています。つまり、「次はアメリカに行こう!どんなことをしたら面白いか?」ではなく、「アメリカで今流行っている面白いネタはないか」というふうに考えるということでしょう。イッテQ登山部を始めとする山登りのコーナーはこうした発想法によって「冬に富士山に登ったらどうなるんだろう」という素朴な疑問から生まれました。

タレントの「人生」をベースにストーリーを作る

たとえば、イモトアヤコさんであれば、「無名の女芸人が体を張って世界中の珍獣や山に挑戦する」。宮川大輔さんであれば、「チーズころがし祭りなどで、『お祭り男』として一世を風靡したものの、近頃は体力が衰えてきた。そんな中で挑戦し、結果を残さなければいけない」というふうに、イッテQではそれぞれのタレントの人生がストーリーとして視聴者に伝わるような描き方をされています。そして、そのストーリーの上に番組の企画・コーナーが乗っかっているので、視聴者は感情移入し感動することができるのです。

視聴者が見飽きた要素は捨てる

これはイッテQの特徴でもある演出方法に関わる部分です。古立氏は、「イッテQでは、他番組でも見られるような要素は写さない」と語っています。例として、「日本からオーロラを見に来たんですけど、見られますか?」と尋ねるシーンや、分かりきったこと、タレントのセリフをナレーションが復唱するシーンなどを挙げています。そうしたシーンは視聴者も見飽きているため、カットしてその分の尺を別の映像に当てたほうがいいそうです。タレントのスケジュールを数日抑えるロケでも、実際に使う映像が数十分程度になることがあるのはそのためとか。

スタッフ・タレント・視聴者の関係性で笑いを作る

「笑い」を生み出すために、スタッフ・タレントに加えて「視聴者」という要素を組み込んでいるのも特徴的なところです。たとえば、ジャニーズタレントの手越祐也さんが難しい企画に挑戦するコーナーで、失敗したときに「イエーイ!」というナレーションを流したり、手越さんがキザな行動を取ったシーンを繰り返したりする演出がよく見られます。

通常であれば、若い女性に人気の男性アイドルにそういった扱いはしないものですが、視聴者に「女性からちやほやされるアイドルに嫉妬する男」がたくさんいることを意識して彼らの笑いを取り、また同時に「そういう男性視聴者がたくさんいるんだぞ」という事実を突きつけて「手越ファン」の女性からも笑いを取る、という高度な戦略を取っているといえるでしょう。

「面白さ」は簡単には真似できない

このように、実際にイッテQで企画・演出を担当している古立善之氏の言葉を参考にすると、イッテQがなぜ高視聴率をキープできているのか、その理由をより説得力のある形で理解することができます。視聴者の意見はあくまでも「見る側」の意見なので、いくら分析しても「なぜ他の番組はそうできないのか?」と問われても理由を説明することはできません。

また、業界人の意見も同様に高視聴率という結果から逆算したものに過ぎません。「幅広い層をターゲットにしている」というのは、ほかの同時間帯の番組もやっていることでしょう。「なぜイッテQだけにそれができたのか?」という説明にはならないはずです。

「どうすれば面白いものが作れるのか?」という理由は、本当にそれを作っている人に聞かなければわかりません。イッテQの高視聴率を実現している理由は、古立氏の演出家としての力量が生み出しているものです。おそらく、多くの人が真似しようとしてもできないものでしょう。しかし、だからこそイッテQはこれからも独自の良さを持った番組として我々に笑いを提供してくれると思います。