「マツコの知らない世界」から学ぶ、テレビ番組の演出方法

以前公開した記事=「マツコの知らない世界」から学ぶ水族館のマーケティング と、タイトルが似ていますが中身は全く違います。以前の記事は、水族館について紹介する番組内容を元に、「水族館がどのようなマーケティングを行っているのか?」を紹介した記事でした。今回は全く見方を変えて「水族館について語る専門家の声を、テレビ番組はどのような形で放送したのか?」を考えてみましょう。

 

 

「マツコの知らない世界」は、ドラァグクイーンのマツコ・デラックスが、さまざまな業界に詳しい人をゲストに招き、普通の人は知らないようなディープな世界についてトークを繰り広げる番組です。いろんな業界の裏話のような話が聞ける上に、マツコの巧みな素人いじりが見られるので、私のお気に入りの番組です。

 

今回取り上げるのは、放送105回めとなった「水族館&インスタントカメラの世界」です。ただし、対象とするのは前半の「水族館」部分だけなので注意してください。番組内容そのものがどのようなものであったかについては過去の記事で紹介しているので、番組本編をご覧になっていない方はそちらを見てから本記事を読んでもらうほうが理解しやすいかもしれません。

 

「マツコの知らない世界」から学ぶ水族館のマーケティング

 

上記の記事では、番組本来の流れに沿って「最新の水族館の動向」をご紹介してきました。今回は切り口を変えて「『知らない世界』という番組は、「水族館」というテーマをどのように視聴者に紹介したかったのか?」という、メディア側の意図を探っていきたいと思います。

 

ゲストの中村さんには一貫した主張があった

今回の放送で、水族館を紹介してくれた専門家は中村元さん。全国の水族館を渡り歩き、運営にもかかわる水族館プロデューサーです。番組内における中村さんの主張は、下記のようなもので終始一貫していました。

 

  • 水族館のお客さんは、誰も魚なんて見ていない・・・・起
  • では、何をしに来ているかというと「水中にいる気持ち」を味わうためである・・・承
  • 「水中にいる気持ち」を作り出すために重要なのは「水塊(巨大な水槽)」である・・・転
  • だから、今日は「水塊」に力を入れている、面白い水族館を皆さんにご紹介する・・・結

 

それぞれ、話の内容に「起承転結」という意味合いを割り振ってみました。このように見ていくと、中村さんの話には「お客さんは魚を見てない→本当は『水中にいる体験』がしたい→そのために重要なのは『水塊』だ!→だから、水塊のある水族館を紹介する」というふうに、一貫した因果関係で結ばれた「主張のストーリー」があることがわかります。

 

更に細かく言えば、「しかし、水塊を造るには莫大な費用がかかる→水塊に頼らず集客に成功している水族館も紹介する」というサブテーマもありました。

 

中村さんのストーリーは、番組内でどう表現されたか?

このように、中村さんは数々の水族館のプロデュースを成功させてきた方らしく、極めてユニークで、かつ価値のあるストーリーを多くの人に届けようとして番組に出演していたことがわかります。

 

しかし、「知らない世界」の番組スタッフはこの中村さんの主張を、中村さんがいうそのままの形で視聴者に伝えようとしていたわけではありません。番組スタッフとしては、「こうした方が視聴者の興味引きやすいだろう」という編成があり、そちらに合わせて少し中村さんのストーリーを軌道修正させていったと私は考えています。

 

このようにいうと、「マスメディアが出演者の声を歪めた」と誤解する方もいるかもしれません。私がいいたいのはそこまで大げさなことではなく、「テレビ的にはこうした方がウケが良いだろう」と考えた番組スタッフの編集意図が、番組の中で現れていた、ということです。「知らない世界」は私も好きな番組なので、中村さんの主張を番組が歪めて伝えたわけではない、ということだけは念のためお断りを入れておきます。

 

本題に入るための導入トーク

番組スタッフの編集意図は、まず冒頭から現れます。中村さんはスタジオに現れるなり、次のような話をマツコに紹介しました。

 

中村さん:今回の出演で、水族館に関してようやく言いたいことがいえそうです。テレビでは普段、わりと普通のことしか聞かれません。たとえば、「親子で水族館に行ったらどんなふうにみればいいですか?」とか。私に言わせれば「好きに見ればええやん」と思うんです。本当は、水族館についてそんなことが語りたいわけじゃないんですよ。

 

ここから、先に書いた「水の中にいる体験」や「水塊」に関する話につながっていくわけですが、ここで番組は一旦中村さんのトークを遮り「毒舌プロデューサー」というテロップを入れました。中村さんとしては、冒頭のトークは「水族館は水の中にいる体験をする場所だ!」という、本題に入るための導入トークだったはずです。しかし、番組スタッフは編集でその意図を薄め、導入トークを「毒舌」という中村さん個人へのキャラクター付けに持っていったわけです。

 

テレビ番組にも、演者とは違う「伝えたいストーリー」がある

番組スタッフがなぜこのような編集を行ったかは、続きを見ていけば明らかになります。冒頭トークに続くシーンでは、ナレーションによって次のような紹介がなされました。

 

ナレーション:

 

今日水族館について教えてくれるのは、こんな「毒舌プロデューサー」の中村さんです・・・起

普段あまりテレビに出ることのなかった水族館で、マツコを驚愕させます・・・承

皆さんは日本が世界にある水族館の1/5が集中する、「水族館大国」だということをご存じでしょうか?・・・転

今夜は、「この夏行くべき水族館」をご紹介します・・・結

 

なぜ、「知らない世界」の編集が、中村さんの「本題に入るための導入トーク」を「中村さんのキャラクター紹介」に置き換えたのか。それはこのような「番組側が考えるストーリー」に内容を当てはめるためだったと考えられます。

 

「水族館は水の中にいる体験をする場所、重要なのは水塊だ」という中村さんのストーリーは、ユニークで面白い反面、最初から番組を見ていないと理解しづらいものです。たとえば、途中から番組をつけて、冒頭の「水族館では誰も魚なんて見ていない」という部分を見ていない途中からの視聴者は、「なんで水槽の紹介ばかりで、どんな魚がいるか紹介しないんだろう?」と不思議に思うかもしれません。

 

しかし、「毒舌キャラのプロデューサーが、『この夏行くべき水族館を紹介します』」というストーリーであれば、毎回CMの前後に一瞬だけ説明を挿入すれば誰でも簡単に理解できます。こうした「直感的な理解のしやすさ」こそ、「テレビ的にウケが良い」と考えられる部分なのです。

 

テレビは「多くの人にひと目で伝わるストーリー」でなければならない

番組を続けてみていけば、中村さんの主張は十分に理解できます。しかし、そうでなくても「一瞬だけチャンネルを変えた人」であってもそれぞれの部分で楽しめるように番組が編集されているのです。

 

テレビは不特定多数の人々に、一方的に情報を提供できるメディアです。それだけに、できるだけ多くの人に伝わりやすく、理解しやすい内容になっていなければいけません。「知らない世界」の演出・編集の方法は、演者の主張を曲げること無く「わかりやすさ」との両立を目指したバランスの良いもの仕上がっているといえるでしょう。

投稿者:

コンテンツの魅どころ

Webライター・マーケティングコンサルタントとして活動しています。実務を通じて学んだマーケティングに関するノウハウや最新情報をわかりやすく提供していきたいと思っています。 また、時事に関わるニューズをマーケティング・ライティングといった切り口から解説してみたいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

モバイルバージョンを終了