ノイエ銀英伝4話感想・考察その3「ヤン・ウェンリーが過去から学んだこと」

4話「不敗の魔術師」
~エル・ファシルの英雄誕生~

ヤンとラップは、ついに士官学校を卒業する。卒業を前にラップはジェシカに告白したが、「振られてしまった」とヤンに語った。ヤン、ジェシカ、ラップの3人は、別れを前に3人で記念写真を撮る。

 

1年後、ヤンは惑星エル・ファシルにおいて、前線勤務を命じられた。まもなく、周辺宙域で帝国軍と同盟軍の戦闘が勃発。帝国軍の策にはまり、同盟軍は敗北、惑星エル・ファシルまで逃げ帰る形となった。自分たちを守るはずの宇宙軍が敵を連れてくるという自体に、エル・ファシルの人々は騒然となる。

 

エル・ファシルからの脱出を望む民間人が宇宙港に殺到する中、ヤンは脱出計画の責任者を任された。脱出の準備が着々と進む中、「駐留艦隊が民間人を見捨てて出港する」という信じがたい事態が発生する。しかし、ヤンは動じることなく、「駐留艦隊を囮にして民間人を脱出させる」という策を実行、見事エル・ファシル300万人の脱出に成功した。

 

ヤンはこの功績を持って1日のうちに大尉、ついで少佐に昇進。同盟軍では特例となる「生者の二階級特進」扱いを受ける。ラップと再開したヤンは、自分の戦いに対する考え方を語り、ラップが再びジェシカに会いに行くよう諭す。

 

 

ラップ、ジェシカとの別れ

ヤン・ウェンリーは、2話に登場したラオ少佐から「エル・ファシルの英雄」と呼ばれていました。今回、彼がどのような経緯からそのように呼ばれるようになったのかが語られることになります。

 

ヤンとラップは士官学校を卒業し、街を離れる前に酒を酌み交わします。ここでラップは「ジェシカに告白したが振られた」という旨をヤンに伝えました。おそらく、前々から幼馴染であったジェシカに好意を抱いていたことを、友人のヤンに相談していたのでしょう。

 

ヤンは最初こそ、ラップが想いを伝えたことをたたえていましたが、振られたと知るや暗い表情を浮かべていました。このときのカットは、振られたラップ本人ではなく、話を聞くヤンの方に向けられています。おそらく、ヤンは振られたラップを気遣っていたのではなく、ラップを振ったジェシカのことを考えていたのでしょう。ジェシカは士官学校事務長の娘です。「軍人の妻にはなりたくない」という彼女の言葉を、ヤンはどのように思って聞いたのでしょうか。

 

 いきなり前線勤務を任されたヤン

1年後、ヤンは前線である惑星エル・ファシルに赴任していました。このとき、「中尉」と呼ばれているので、卒業後は少尉に任官された後、1年間の勤務を経て中尉に昇進していたのでしょう。

 

彼がエル・ファシルにいたとき、大きな出来事が起きました。近くの宙域で帝国軍と戦闘をしていた同盟軍が、敵軍を引き連れたままエル・ファシルに退却してきたのです。エル・ファシルの駐留艦隊としては、わざわざ敵を民間人のいる方へ誘導してきているように見えたことでしょう。

 

このとき、帝国軍を連れたまま退却してきた同盟軍の司令官は「リンチ」と呼ばれており、これとは別に、「同盟軍エル・ファシル駐留艦隊 司令部」の指揮官らしき人物も登場し、リンチに対して苛立ちを表しています。おそらくは、「駐留艦隊の一部が、エル・ファシルを守るために近隣で帝国軍と戦っていた」か、もしくは「駐留艦隊だけでは帝国軍の攻撃を防げないので、別の艦隊が応援にきて戦っていた」という状況なのでしょう。

 

奇想天外な作戦で民間人の脱出に成功

ヤンは帝国軍を恐れ、脱出を急かす民間人たちの前に「脱出計画の責任者」として姿を表しました。士官学校を卒業して1年足らず、しかも「戦史以外は落第ギリギリ」と言われていたヤンが責任者に任命されたわけですから、同盟軍もよほど追い詰められて余裕がなかったか、あるいは半ば諦めていたと考えられます。

 

しかし、ヤンはまったく焦る様子も見せず、サンドイッチを食べ、少女から差し入れされたコーヒーに「紅茶のほうが良かった」と述べるほどの余裕を見せています。駐留軍司令部から、「同盟軍が民間人を見捨てて出港した」という報告を受けたときも、まったくどうじていないことから、ヤンはすべての出来事を予測した上で準備を進めていたのでしょう。

 

先発した駐留艦隊に敵の攻撃が集中しているスキに、民間人は無事エル・ファシルを脱出します。

 

過去を見つめることは、未来を予測することになる

続くシーンでは、同盟軍統合作戦本部でラップと通話するヤンの姿が描かれます。民間人を脱出させたとはいえ、駐留艦隊もいなくなったわけですから、おそらくエル・ファシルはそのまま帝国軍に奪われてしまったのでしょう。

 

実は直ぐ側まで来ていたラップと再開し、ヤンはエル・ファシルでの出来事の「裏話」を語り始めました。ここで、ヤンはもともと駐留艦隊に配属されていたものの、司令官のリンチ少将に意見を却下され、逆に船を降ろされてしまっていたことが判明します。

 

事実上の2階級特進という大手柄を挙げたヤンですが、自分が「英雄」とされることには否定的でした。本当のことを言えば、リンチ司令官に意見を採用してもらい、帝国軍の進行を防ぐことこそヤンの本当の望みだったはずです。

 

「こんな作戦をどうやって思いついたのか?」と尋ねるラップに、ヤンは次のように応えました。

 

「俺はただ、歴史から教わっただけなんだ。3、4千年前から、戦いの本質というのは変化していない。戦場につくまでは補給が、ついてからは指揮官の質が勝敗を左右する」

 

このセリフは、ヤンの戦いに対する基本的な考え方を表しています。ヤンは過去の歴史・戦史から学んだ戦いの本質を、そのまま現実の戦いに適用させて勝利につながる策を見出していたのです。ワイドボーンとの模擬戦闘では敵の「補給」をつくことで勝利し、エル・ファシルからの脱出では、味方であるはずのリンツ司令官の「指揮官の質」を見積り、彼の行動を先読みすることによって民間人の脱出を成功させています。

 

しかし、これに続くセリフも、ある意味では同じくらいストーリー上重要な役割を持つ言葉でした。

 

「そうだ、過去の戦いを見つめることは、未来の戦いを予測することになる」

 

直前のセリフは、ヤンの戦いに対する考え方を説明するものでしたが、こちらは図書館で交わした「ジェシカからの問いかけ」に対する回答になっています。士官学校が休暇になり、図書館でジェシカと再開したヤンは、そこで「あなたは何を見ているの?」という疑問を投げかけられました。ヤンはそのとき、黙したまま何も語りませんでしたが、ジェシカは「私は(過去よりも)未来を見つめていたい」と続けています。

 

ヤンは今回、「歴史から過去を学ぶことは、(ジェシカと同じように)未来を見つめることになる」という形で、ジェシカの疑問に正面から応えているわけです。これは、ヤンとジェシカの考え方・価値観が近いこと、お互いに相手の人格に興味を持ち、惹かれ合っていることを示しています。

 

ですが、ヤンが自分の気持ちをジェシカに伝えることはありませんでした。むしろ、彼女に好意を抱くラップを後押しし、2人が結ばれるよう激励までしています。彼がなぜ自分の気持ちよりも友情をとったのか、その理由はまだ明らかにはされませんが、3人の関係が今後もストーリーに大きな影響を及ぼしていくことは想像に難くないでしょう。

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Webライター・マーケティングコンサルタントとして活動しています。実務を通じて学んだマーケティングに関するノウハウや最新情報をわかりやすく提供していきたいと思っています。 また、時事に関わるニューズをマーケティング・ライティングといった切り口から解説してみたいと思います。

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