月ノ美兎(にじさんじ所属バーチャルライバー)の特徴と面白さの秘密を考察

月ノ美兎はいちから株式会社が運営するグループ「にじさんじ」に所属するバーチャルライバーです。「清楚な委員長」というキャラクター設定と実際の個性のギャップから話題となり、非常に多くの人々から支持されています。彼女が提供するコンテンツにはどんな特徴があるのか、どんな要素が面白さにつながっているのかについて考察しました。

にじさんじ所属バーチャルライバー「月ノ美兎」とは?

月ノ美兎は、2018年2月からバーチャルライバーとしての活動を開始しました。「バーチャルライバー」とは、バーチャルYoutuberと同じような意味の言葉です。「配信するプラットフォームがYoutubeに限らない」、「生配信を主体として活動する」といった点を考慮してか、いちから株式会社では自社のグループに所属するキャラクターたちの総称としてこの単語を用いています。

月ノ美兎についての過去のエピソードや発言については、にじさんじ非公式Wikiに詳しくまとめられているのでそちらを参考にしてください。

https://wikiwiki.jp/nijisanji/%E6%9C%88%E3%83%8E%E7%BE%8E%E5%85%8E

この記事では、コンテンツとしての月ノ美兎にどんな特徴があるのか、どのような意図を持ってコンテンツを作成しているのかについて考えてみたいと思います。

きゃらスリーブコレクション マットシリーズ にじさんじ 月ノ美兎 (No.MT491)」

過去配信から見る月ノ美兎の特徴

これまで公開されてきた月ノ美兎の動画を見ると、彼女が「設定と実際のキャラクターのギャップ」を重視していることがよくわかります。

まず、にじさんじ公式サイトから彼女がどのように紹介されているか確認してみましょう。

高校二年生。性格はツンデレだが根は真面目な学級委員。本人は頑張っているが少し空回り気味で、よく発言した後で言いすぎたかもと落ち込んだりする。

https://www.ichikara.co.jp/official

次に、Youtubeで最初に投稿された自己紹介動画をご紹介します。

「自己紹介」というだけあって、最初は公式サイトで紹介されている設定に忠実な発言をしていますが、好きなものを「紅茶とモツ」と応えたあたりから徐々に雲行きが怪しくなってきます。

煮込みに入っている、あの茶色くて薄くてブヨブヨのやつも好きなんですけど、
それよりも鍋に入っている白くて赤子の拳みたいな形のやつの方が断然すきですね。

モツについては、動画内で以上のように語っており、「やつ」という「清楚系委員長」らしからぬ言葉遣いや「赤子の拳」という独特のたとえが早くも気になるところです。「赤子の拳」については動画内の字幕でも強調されており、彼女がわざとこうした「キャラクター設定と異なる部分」を全面に打ち出していこうとする意図が見て取れます。

キャラクター崩壊を全面にアピール

「設定と実物とのギャップ」をアピールしている部分は、ほかの動画からも確認できます。たとえば、最初に投稿された「10分ちょっとでわかる」まとめ動画には、以下のような要素が見られます。

  • (清楚な委員長には似合わない猟奇的な映画である)「ムカデ人間」を見たことがあると発言。(0:05)
  • 洗濯機の上で中腰になって配信している(4:02)
  • 16歳なのにアマガミ、ラブプラスなど過去に発売されたギャルゲーをプレイしたことがある(5:19)

通常であれば、こうした発言は「キャラクター崩壊」と捉えられ、内容によってはアーカイブから削除されてしまうこともあるはずです。それなのにあえて公式のまとめ動画に加えられているということは、こうした部分を彼女自身が自分のウリだと明確に意識していることがわかります。

月ノ美兎の個性とマッチした「PとJK」の企画内容

月ノ美兎が提供してきたコンテンツは主に次の3つのカテゴリに分けられます。

月ノ美兎の放課後ラジオ(みとらじ)

ソロでの雑談、リスナーからのお便り(マシュマロ)の読み上げ、ゲストとのコラボトークなど。

個性派ゲーム実況

ヨーロッパ企画やファンが作成したゲームのプレイ実況。

10分でわかるシリーズ

過去のライブ配信やコラボ配信の見どころを編集した投稿動画。

この中でも特にみとらじに代表されるような企画型配信では、徐々に「キャラクター崩壊によるギャップ」を全面に押し出す姿勢が鮮明になっていきます。その良い例が2018年5月4日に配信された、にじさんじ外部のバーチャルYoutuberであるピーナッツくん、甲賀流忍者ぽんぽことのコラボ企画「PとJK」です。

このコーナーは「現役JKであり、JKの事情に詳しい月ノ美兎がJKから寄せられたお悩み相談に応える」という企画でした。動画内では月ノ美兎が「アナリティクス(分析ツール)によると、自分の動画の視聴者は99%が女性であり、10~20代の視聴者が最も多い」と発言しています。バーチャルYoutuberの視聴者は一般的に男性の方が多いとされており、それとは真逆の内容となるため、多くの視聴者が「ギャップ」を感じるのに十分な発言でした。

視聴者から寄せられた質問も「高血圧気味なので塩分を控えたい」、「腰がグニャグニャになっている」など、JKとは思えないものばかり。企画の趣旨事態が「JKという設定ながら、違和感を覚える発言を繰り返す」という月ノ美兎の個性を色濃く反映したコーナーになっていました。

この時期を境に、月ノ美兎自身の配信もより「キャラクター崩壊」を強調したつくりに変化していきます。

キャラクター崩壊によるギャップを踏まえた企画構成

「月ノ美兎の放課後ラジオ30.4.23」を例としてご紹介しましょう。この回には、R-15指定のBLゲームを配信してYoutubeLiveをBANされた(後に誤りと判明し解除)にじさんじのメンバー「鈴鹿詩子」がゲストとして登場します。また、この回は月ノ美兎の私服衣装が初めて公開された回でもありました。

基本的なストーリーは以下のとおりです。

  • 月ノ美兎が駅前で「彼ピッピ(リスナー)」と待ち合わせをする
  • 月ノ美兎が女の子らしい可愛らしい自室に彼ピッピを招く
  • 「友達に会いに行く」と称して、彼ピッピを連れて薄暗い空間へ
  • 留置場のような空間で、鈴鹿詩子と面会へ

最初こそ、「清楚なJKが彼氏と自宅デートする」という設定に忠実なところから物語をスタートしたものの、「留置場に入れられている友達に会いに行く」という普通では考えられない展開に移行していることがわかります。

続いて、2018年7月23日に配信された「電子機器で操作可能な無料遊戯と罰遊戯」をご紹介します。

こちらの企画は、「フラッシュゲームを実況し、英語を喋ってしまったらリスナーから募集した恥ずかしいセリフを言わなければならない」という企画でした。単なるゲーム実況であればそれ以前にも行っていましたが、今回あらたに罰ゲームという要素が加わったのが新しいところです。

「英語を喋ってはいけない」、「罰ゲームは恥ずかしいセリフ」という企画内容も、あきらかに「清楚系委員長である(当然、英語もできる)」、「ツンデレである」という月ノ美兎のキャラクター設定を前提としたものでしょう。その証拠に、動画のサムネイルには「皆さんの考えたセリフなんて絶対に読まないんだから!」と訴える月ノ美兎の画像が使用されています。

月ノ美兎が提供する動画コンテンツの基本的なプロット

「PとJK」(ぽんぽこ24)が配信された前後からの月ノ美兎の配信は、主に次のような流れで構成されています。

1.公式のキャラクター設定に忠実な前提が提示される

「清楚な委員長である」、「ツンデレである」、「バーチャルアイドルになるのが夢(自己紹介動画より)」といった公式の初期設定が引用され、企画の大前提として提示されます。特にツンデレな性格などは普段の月ノ美兎本人の振る舞いを見ていてもまったくと言っていいほど出てきませんが、あたかも周知の事実であるかのようにして扱われます。

2.挑戦する企画内容が示される

ゲーム実況であれば挑戦するゲーム、ラジオであれば紹介するお便りの内容やコラボ相手の紹介など、具体的な企画内容が明らかになります。それらの要素が月ノ美兎が公式設定を貫き通す上でのいわば「障害」となるわけです。

3.キャラクターが崩壊し、設定とのギャップが生じる

先に示された「障害」の登場により、月ノ美兎はキャラクター設定を守ることが難しくなってしまいます。ストーリーの中で次第に「ボロ」を出すようになり、リスナーがそこにツッコミを入れることによってひとつの「笑い」が完成します。

月ノ美兎最大の魅力は「自己PR」がうまいこと

月ノ美兎は従来、配信の中で「現役JKなら絶対知っているはずのない知識」や「JKらしからぬ言動」を披露し、それによって生じる「キャラ崩壊」が面白さを生む原因になっていました。

しかし、「PとJK」以降は「JKがデートで留置場に行く」、「朝通学しようとしていたら、曲がり角で鋭い顎が胸に突き刺さる」というように、企画のストーリー自体がキャラ崩壊を前提とした展開になることも多くなっています。月ノ美兎自身が「キャラ崩壊による面白さ」という自分の個性・強みを理解し、それとシンクロするような企画内容を考えるようになったと言い換えることもできるでしょう。

バーチャルライバー(バーチャルYoutuber)はキャラクター本人の個性が人気の原動力になるコンテンツです。さまざまなライバーがいる中で埋没してしまわないためには、ライバー自身が自分の優れている点を正しく理解し、それが最も有効に伝わる形でコンテンツを企画しなければなりません。

月ノ美兎の最大の魅力は、そうした「自己プレゼン能力」にあるのではないでしょうか?