ノイエ銀英伝1話感想・考察その3「映像で伝えるSFとキルヒアイスの大手柄」

 

ひとつ前の記事:

ノイエ銀英伝1話感想・考察その2「映像で見る心理描写とラインハルトの智謀」

第1話「永遠の夜の中で」より、今回取り上げるシーン

敵軍との接触まで、ラインハルトは部下のキルヒアイスとワインを楽しむ。

 

ついに両軍が激突。自由惑星同盟第四艦隊司令・パストール中将は迎撃を命じるものの、キルヒアイスの手によって艦隊同士のデータリンクが妨害されており、味方同士の連携がうまく機能しない。そのスキを突かれて中央の第四艦隊は壊滅。シュターデンは「こんな勝利はフロック(まぐれ)に過ぎない」と悔しがるが、ファーレンハイトは素直にラインハルトの力量を認めた。

 

同盟第四艦隊の旗艦、レオニダスも沈み、ファーレンハイトと同じくメルカッツもラインハルトの指示に素直に従う姿勢を見せる。ラインハルトは続けて、より数が少ない敵・第六艦隊の右側背をつくこと狙う。

 

一方、第六艦隊では、幕僚のジャン・ロベール・ラップ少佐が艦隊司令のムーア中将に、「第四艦隊はすでに敗退した」との予測を伝え、ただちに残る第二艦隊と合流することを進言していた。

 

 敵と同時に、部下に対しても優位に立ったラインハルト

主人公のラインハルトは、2倍の数を誇る敵に対して、包囲される前に中央突破を図るという作戦で挑みます。「勝算がある」と部下たちに語って作戦を実行した以上、負けることの許されない戦いですが、ラインハルトにはある勝算がありました。

 

ラインハルトの作戦は、戦いが始まった直後に明らかになります。キルヒアイスの手によって、同盟艦隊のデータリンクに通信妨害をかけており、艦隊間の通信やシールドの展開に支障をきたすよう工作がなされていたのです。

 

戦いに先立つ作戦会議において、ラインハルトは自身の幕僚たちにこの作戦を語っていません。というよりも、キルヒアイス以外の部下に対しては、作戦が終わった後も教えている様子がないので、あえて隠していたのでしょう。

 

ラインハルトも、シュターデンを始めとする部下たちが自分を快く思っていないことには気がついています。彼らが自分のいうことを聞かざるを得ないようあらかじめ準備をしていた、という点については前回の考察でご説明しました。

 

今回はそれに加えて同盟を短時間で破るための工作を行っていたことも明らかになったわけです。自分を認めていない幕僚たちにはあえてそのことを伏せておくことによって、彼らの立場をより弱いものとし、「司令官である自分のいうことに従わざるを得ない立場」へと追い込んでいったのです。

 

こうした策は、戦いの後で大きな効果を発揮しました。元々ラインハルトに好意的だったファーレンハイト、反発こそしないものの信用していない状態にあったメルカッツが、素直に彼の言うことに従う態度を見せたのです。

 

特にファーレンハイトとの通信の際、「なにか言いたいことはないのか?」と問いかけるラインハルトは微笑んでいましたが、「誰がどうあれ、勝つものが正しい」というファーレンハイトの回答を聞いたときのラインハルトは、真面目な表情を見せています。最初はその他大勢の将と同じく、ファーレンハイトが自分を快く思っていないと思ってからかおうとしたところ、「他の将の考えは知らないが、自分はあなたが正しいと知っている」と応えられたので、「この男はほかの連中とは違う」と考えを改めたのでしょう。

 

映像と会話だけでSF的な描写を説明

続いては戦闘中の描写に注目してみたいと思います。ラインハルトが全軍に攻撃を命じるシーンでは、わざわざ胸から顔へとアングルをティルトアップさせた後、手を振り下ろすところまでが丁寧に描写されています。掛け声は旧アニメ版と同じ「ファイエル」。原作や旧アニメ版のファンにはたまらないシーンでしょう。

 

もっとも、ドイツ語の Feuer (Feueren の命令形) を発音するとしたら 「フォイアー」 や、せいぜい 「フォイエル」 となるはずで、「ファイエル」 との表現は、ドイツ語の話せない日本人がドイツ語の発音を正確に行えない点を考えても、少々不自然な表記、あるいは発声です。

http://www.paradisearmy.com/doujin/pasok_feuer.htm

 

帝国軍の一斉攻撃に、同盟軍の第四艦隊はまったく対応できませんでした。ここまでのシーンで、この世界の艦隊がどのようなテクノロジーによって動かされているのか、明確な説明はありません。しかし、戦闘シーンを順番に見ていくことによって以下のことがわかります。

 

  • 帝国軍と接触した同盟軍のパストール中将が、通信によって第六・第二艦隊に連絡を撮ろうとしていることから、超高速通信の方法が存在すること。
  • データリンクへの工作により、味方の連携・シールドの展開などに支障をきたしていたことから、通常は艦隊同士は相互に通信を行い、連携して集団戦を行うであろうこと。
  • 戦闘の推移から、戦いはまず艦船同士の砲撃戦から始まり、接近した後は艦載機同士の戦いにより勝敗が決すること。

 

得の今回の戦いでは、データリンクへの工作が有効に機能し、通信と艦隊の連携を妨害したことが非常に有効に働いたはずです。最初の一声砲撃で機先を制された後、同盟軍はほとんど抵抗らしい抵抗もできませんでした。

 

艦載機(ワルキューレ)による攻撃に対する対空防御も、本来ならば自動操縦かつ艦隊同士の連携によって行うこともできるのでしょうが、今回はそれも満足にできなかったためあっさりと帝国軍に敗北してしまったと考えられます。

 

以上のような描写を、まったくナレーションや説明のためのセリフなども使わず、映像描写と登場人物の掛け合いだけで表しているのが素晴らしいところです。

 

戦いの勝因を決定づけたキルヒアイスの貢献

最後に、ラインハルトの次の標的となる同盟軍・第六艦隊の描写について取り上げたいと思います。帝国軍は、「優秀な司令官と無能な部下(ラインハルト視点から見れば)」という形で描かれますが、同盟軍はそれとは対象的に「無能な司令官と優秀な部下(幕僚)」という形で描写されています。

 

第六艦隊幕僚のラップ少佐は、ラインハルトの作戦を看破しており、この点では「敵に策が見破られていないか」と疑っていたキルヒアイスの懸念は正しかったことになります。しかし、司令官のムーア中将がラップの意見を退けたため、敵が作戦に備えることはありませんでした。

 

このときのムーア中将のセリフからも、いくつかのヒントが得られます。まず、「帝国軍艦隊が目の前に接近してきているにもかかわらず、なぜ同盟軍は何も手を打たなかったのか」という点についてです。ムーアは悠長に食事をとっており、別段急いでいる様子もありません。反対の方向にいる第二艦隊と合わせて「帝国軍を包囲できる」と考えていることから、「帝国軍艦隊の進軍速度を見誤っていた」と言えるでしょう。

 

パストールもラインハルトが艦隊を前進させてきたことを知り驚くシーンがあります。本来なら、もっとゆっくり帝国・同盟軍第四の両艦隊がぶつかり、戦いが続いている最中に同盟軍第二・第六艦隊が左右から包囲する計画になっていたのでしょう。キルヒアイスのデータリンクへの工作により、帝国軍艦隊の想定よりも早い進軍に気がつかなかったことが致命的な失策になりました。

 

その後の展開はすでにご紹介してきたとおり、帝国軍が第四艦隊を一蹴する結果となります。これも本来であれば、もっと第四艦隊が長い時間踏ん張り、味方による包囲が完成する予定になっていたのでしょう。この戦いが短時間で終わったのもキルヒアイスの工作による影響です。

 

さらに、以上のような事実にムーア率いる第六艦隊がまったく気がついていなかったのも、キルヒアイスの妨害によって第四艦隊からの通信が届かなかったためでした。このように考えると、この戦いにおける勝因のほぼすべては、キルヒアイスの手によるものだったと評価してもいいはずです。

 

戦いに先立ち、ラインハルトはキルヒアイスとワインを酌み交わし、「この戦いが終わったら准将に昇進させてやる」と語っていましたが、これだけの貢献をしたのであれば、誰も昇進に文句をつけるものはいないでしょう。

 

ノイエ銀英伝1話感想・考察その4「有能・無能の基準とヤン・ウェンリーの登場」

投稿者:

コンテンツの魅どころ

Webライター・マーケティングコンサルタントとして活動しています。実務を通じて学んだマーケティングに関するノウハウや最新情報をわかりやすく提供していきたいと思っています。 また、時事に関わるニューズをマーケティング・ライティングといった切り口から解説してみたいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

モバイルバージョンを終了