(1/3のまとめ)
ポプテピピックは、「シュールなギャグ」とパロディが売り
アニメは、「A・Bパートで声優が交代するショートショートの1話15分×2回の作品」として作られている
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「ボブネミミッミ」は本編中に挿入される、別の制作陣が作った「箸休め」のコーナー
「本編とは絵柄が違う」、「A・Bパートで声優が変わらない」、「原作ネタの改変がある」のが特徴
ここからは、「なぜボブネミミッミのコーナーが挿入されているのか?」、その意図を考えてみたいと思います。
本記事は3つに分割されています。前半の記事はこちら
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ギャグやパロディの天敵である「慣れ」
先に述べてきたように、ポプテピピックはシュールなギャグとパロディを主軸とした4コマ漫画です。アニメ化に伴う「コマとコマの間の描写」と「音響の追加」という変化に対応するため、「15分ずつ、声優を変えて同じ話を繰り返す」という構成にする必要がありました。
ポプテピピックに限った話ではありませんが、基本的にギャグ=笑いというものは意外性や鮮度が非常に重要です。どんなに面白いネタであっても視聴者からオチを読まれたり、演出に飽きられてしまったら効果が半減してしまいます。そこで私は、心理学において「慣れ」がどのように捉えられているのか調べてみることにしました。
心理学における「慣れ」のメカニズム
人が物事に慣れるメカニズムはまだ明確にわかっているわけではありません。心理学の分野では、関連する用語として「馴化」という言葉があります。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A6%B4%E5%8C%96
馴化(じゅんか、英: Habituation)とは、心理学における概念の一つ。ある刺激がくり返し提示されることによって、その刺激に対する反応が徐徐に見られなくなっていく現象(馴れ、慣れ)を指す。
ポプテピピックのようなギャグ作品も、視聴者が展開に慣れ、演出に飽きられてしまったら視聴を継続してもらうのが難しくなります。作り手としては、いかに慣れにくく、飽きられにくいアニメにするかがひとつのポイントになるわけです。
ポプテピピックの面白さ1:シュールとは?
最初に述べたとおり、ポプテピピックの肝はシュールなギャグとパロディです。シュールとは、「シュールレアリスム(超現実主義)」のことで、「現実を超えた表現」で人々を笑わせるのが「シュールなギャグ」ということになります。
http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AB
たとえば、ポプテピピックのOPでは主人公のポプ子が歯磨き粉になったり、金太郎飴になったたりする光景が描かれます。これらは現実にはありえませんし、個別のシーンとして見ても前後の展開と一切脈絡がないので、「現実を超えた表現」と言えるわけです。
しかし、いくら現実を超えた表現とは言っても、同じ演出を繰り返せば視聴者はやがて慣れてしまい、飽きられてしまうことになるでしょう。
ポプテピピックの面白さ2:「パロディ」とは?
続いて、ポプテピピックを構成する2つ目の肝に当たる「パロディ」について考えてみましょう。パロディとは他作品を「元ネタ」として引用し、モノマネや改変を楽しむものです。
http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%83%91%E3%83%AD%E3%83%87%E3%82%A3
パロディもやはりシュールと同じで、「慣れるとつまらなくなる」という欠点を抱えています。
「慣れ」が起こるメカニズムの特徴
ここで再び、心理学の話に戻りたいと思います。先にご紹介した「馴化(慣れ)」には、次のような特徴があるとされています。
参考にしたサイト
https://kagaku-jiten.com/learning-psychology/habituation.html
脱馴化
ある刺激に慣れた後で別の刺激を与えると、元の刺激への「慣れ」が弱まる。
刺激般化
ある刺激に慣れた後で、似たような別の刺激を受けた場合、「慣れ」が後者の刺激にも伝染する。
例:ピストルの音を何度も聞かせて慣れさせた後でクラッカーを鳴らしても、それほどの驚きは感じない。
刺激強度
強い刺激ほど慣れるのに時間がかかり、弱い刺激ほど早く慣れる。
自発的回復と再学習
「慣れ」が生じても、ある程度時間をあけると刺激への反応が戻る。
しかし、一度慣れた刺激を繰り返すと、最初よりも早いペースで慣れる。
試行間間隔
短い頻度で同じ刺激を与えられるほど早く慣れる。
ボブネミミッミは視聴者の「慣れ」を防ぐためにある?
これらの特徴を知った上でボブネミミッミについて考えてみると、実は「慣れ」を防ぐために非常に効果的であることがわかります。ポプテピピック本編の面白さを保つためには、視聴者が刺激に「慣れる」のを防がなければなりません。先に上げた「馴化」の特徴に対して、ボブネミミッミがどういう効果をもたらすのか考えてみましょう。
「脱馴化」の促進と「刺激般化」の防止
脱馴化:ある刺激に慣れた後で別の刺激を与えると、元の刺激への「慣れ」が弱まる。
刺激般化:ある刺激に慣れた後で、似たような別の刺激を受けた場合、「慣れ」が後者の刺激にも伝染する。
ポプテピピックは、まだ使い古されていない斬新なシュールネタをふんだんに取り入れています。一方、ボブネミミッミにも「原作とは違ったシュールさ」があります。「原作ネタの改変」があるのもそうですが、たとえオチ自体は原作通りだとしても、絵柄とCVが違いますからその時点でシュールの方向性は原作と異なっているわけです。
「本編とは違う方向性のネタ」が合間に挟まることによって、似たようなネタの繰り返しになって「慣れ」が生じたり、似たような方向性のネタが繰り返されて慣れが早まったりするのを防ぐ効果が期待できます。
作品全体の「刺激強度」を引き上げ、慣れを遅らせる
刺激強度:強い刺激ほど慣れるのに時間がかかり、弱い刺激ほど早く慣れる。
「刺激強度」について考えてみると、ボブネミミッミは多くの方が感じているとおり、ポプテピピック本編よりも「強い刺激」があります。特に、作画の抽象度を比べるとわかりやすいでしょう。
となると、アニメの作中では「ポプテピピックは弱い刺激・ボブネミミッミは強い刺激」となります。本編の合間にボブネミミッミがはさまることで、作品全体としての刺激強度が引き上げられ、視聴者は本編に対しても慣れるのにより時間がかかることになるはずです。
「自発的回復」と「再学習」で、本編への慣れ具合をコントロールする
自発的回復:時間をあけると慣れた刺激への反応が戻る。
再学習:一度慣れた刺激を時間を空けて再び与えたとき、最初より早く慣れる。
ボブネミミッミが挿入される間、本編の刺激は停止されるので視聴者の「自発的回復(慣れた刺激への反応回復)」が促されます。また、初見のとき「本編の刺激が強すぎる」と感じた人も、間にボブネミミッミというより強い刺激がはさまることで「アレよりはまだ耐えられる」といった形で、良い意味で本編の刺激に慣れさせることもできるでしょう。
シュールとパロディの「箸休め」で施行間間隔を空ける
施行間間隔:同じ刺激が短い頻度で繰り返されると早く慣れる
ポプテピピックには、原作由来のネタのほかに「フェルトの人形などを使った実写パート」や、各回のサブタイトルにもなっている「5分程度の寸劇パート」があります。「箸休めが必要なら、何もボブネミミッミではなくこうしたパートでもいいのではないか」と思う方もいるでしょう。
しかし、これらのパートはどちらかと言うと「シュール」よりも「パロディ」の比重が強いので、バランスをとるためには「シュール面に比重をおいた箸休め」が必要になります。おそらく、フェルト人形や寸劇のコーナーが「パロディ重視の箸休め」、ボブネミミッミが「シュール重視の箸休め」としてバランスを取っているのでしょう。それぞれを織り交ぜることによって性質が異なる各刺激の「施行間間隔」を空けることができます。
このように、ボブネミミッミは「慣れ(馴化)」を防ぎ、作品の面白さを保つ上でよい効果をもたらすと言えるのではないでしょうか?(3/3に続く)