【Bパート かばんちゃんが作るそり】
温泉に詰まった湯の花を取り除き、後は麓に帰って温泉に入るだけ、という状況で、雪山の上の方で大量のセルリアンが出現しました。隠れることも逃げることもできない状況の中で慌てふためく一同でしたが、かばんちゃんがあることに気が付きました。
かばんちゃん:・・・あっ。
サーバル:ん?かばんちゃんに任せて!こういうとき、いっつもいいアイデア出してくれるの。
かばんちゃん:えっと・・・。
(周囲には大きなタライと板が2つ)
(かばんちゃん、タライと板を組み合わせてそりを作る)
ギンギツネ:これでいいのね?
かばんちゃん:はい、ありがとうございます。
サーバル:じゃあ押すよ。乗って!うーぬぬぬぬぬ・・・。(そりを後ろから押す)
(セルリアンの大群、かばんちゃんたちへ迫る)
ギンギツネ:来てるわよ!
(そり、斜面に降りて滑り出す)
キタキツネ&ギンギツネ:あああ・・・あああ・・・。
緊急時に役立つかばんちゃんの思いつき
前回の考察でご説明したように、大量のセルリアン出現という緊急事態に、フレンズたちはゆこうな対処法を思いつくことができませんでした。サーバルが言うように、こんなときに頼りになるのがかばんちゃんです。
かばんちゃんは早速、周囲になにか役に立ちそうなものはないか確認しました。彼女の目に入ったのは、フレンズが何人も入れるくらい大きなタライと、2本の板切れだけ。本来であればあまり役に立ちそうにないものですが、かばんちゃんはたったこれだけの材料からピンチを切り抜ける策を思いつきます。
そりで逃げることの有効性
かばんちゃんが思いついた策とは、タライと板でそりを作り、雪山の斜面を一気に駆け下りるというものです。まずはこの方法の妥当性を検証してみましょう。かばんちゃんたちが置かれている状況は、「大量、かつ小型のセルリアンに、雪山の上から迫られている」というものです。
もし、セルリアンの数が少なければ、戦って倒すことも可能だったでしょう。何しろこちらは4人です。全員で戦えば、ほぼ同数程度のセルリアンであれば問題なく対処できたはずです。しかし、実際にはセルリアンの数は彼女たちを大きく上回っており、それは不可能な状態でした。
では逆に、出現したのが「巨大、かつ少数のセルリアン」だったとしたらどうでしょうか?この場合はギンギツネが語ったように、隠れるという選択肢もありえたはずです。今回のように多数のセルリアンが出現しなければ、どこか身を隠せる場所さえあればそれだけでやり過ごせる可能性もありました。
今回のように小さなセルリアンが多数出現した、という場合に考えられる選択肢は2つ。ひとつは戦ってた倒すこと。もう一つは彼らを上回るスピードで逃げることです。先に説明したように人数的な問題から戦うのは不可能。とすれば残された道は逃げるしかありませんが、そのためにはセルリアンの移動速度を遥かに上回るスピードが必要だったのです。
僅かな間にそりを作り上げたフレンズたちの協力性
かばんちゃんが選んだのは、雪山においてスピードを上げるのに最も効率的な方法でした。つまり、言葉には出していないものの、彼女もまた今の状況から脱出するには「セルリアンよりも速く山の斜面を下るしかない」とわかっていたことになります。
タライの下に2枚の木の板を取り付け、即席のそりをつくるという方法で、かばんちゃんはセルリアンからの逃走を試みました。
このとき、彼女たちがどのようにしてそりを作ったのか、具体的な方法は描かれていません。従って想像するしかないのですが、おそらくは今までと同様、かばんちゃんが指示を出し、それに従ってほかのフレンズたちがそりを作り上げたのでしょう。
セルリアンがかばんちゃんたちの元へ迫るまで、どの程度の時間的余裕があったのかは不明です。しかし、ギンギツネやサーバルがとても逃げられないと判断したように、あまり時間がなかったことは確かでしょう。おそらくは3~5分程度の間になんとかそりを作り上げたものと思われます。
サーバルがそりを押し、平たい場所から斜面へと滑り出したことで見事、全員がそりに乗って逃走をスタートすることができました。この逃走劇の行方はまた次回の考察で追いかけていきたいと思います。
「ヒトに近いフレンズ」でも及ばない「ヒト」の能力とは?
けものフレンズには、いくつかストーリーの節目となる話が存在します。以前その中でも特に大きな節目として取り上げたのが7話「じゃぱりとしょかん」でした。6話までは、かばんちゃんがヒト由来の知恵によってフレンズの問題を解決する、と言うかたちでストーリーが進行してきていたものの、7話でヒトであることが判明して以降は、逆に「ヒトに近いフレンズ」から「ヒトの手がかりを見つける」というストーリー展開になっていました。
特に8話においてその傾向は顕著であり、ヒトがパークに残した「アイドル」という文化に精通したPPPメンバーとマーゲイは、自力で自分たちの問題を解決しています。かばんちゃんは僅かな手伝いをしたに過ぎず、ほとんどその知恵を発揮するシーンはありませんでした。
そしてこの9話においても、ヒトが残した設備「温泉」に精通したギンギツネ、キタキツネが登場します。彼女たちもまた、かばんちゃんの知恵を必要とせず、自力で問題解決を行っていたのですが、セルリアンという突然に脅威に対してはそれも叶わず、ここで再びかばんちゃんの知恵が頼られることになります。
重要なのは、今回の解決法が「そりを作る」というものだったことです。これはかつてアフリカオオコノハズク(博士)とワシミミズク(助手)が語った、「ヒトの特徴」のひとつ。「道具を作り、使う」というものに該当します。
ギンギツネたちは、ヒトが残した文化に対する知識ではかばんちゃんを上回っていました。また、ラクロスのスティックを使って湯の花を取り除いていたことからもわかるように、「道具を使う」ということにも適応しつつあります。しかし、突然のアクシデントに対してとっさに最適な道具を作るというところまではまだ到達できていなかったのです。
この点に関しては、まだかばんちゃんのほうが一日の長があります。思い返してみると、雪山での遭難に対して「かまくらを作って寒さを凌ぐ」という方法で対処したものまったく同じ、「突然のアクシデントに道具を作って対処する」というやり方です。
従って、9話のこのシーンにおいて、かばんちゃん=ヒトの特徴がまた少し明らかになったといえます。ヒトは普通のフレンズと比べて知力に優れ、さらにヒトの文化・技術に適応した「ヒトに近いフレンズ」と比較しても、いざというときの発想力と対処法の質において優れているといえるわけです。
今回のかばんちゃんたちのピンチは、そうした面を浮き彫りにするためのシーンだったのではないか、と考えられます。
フレンズに限らず道具を「使う」動物は多く、多くの猿や、ラッコなどが有名です。既成の道具ならば、それが高度な技術でできていても多くの動物が扱えます(ボタンを押すと餌が出る機械を置けばネズミでも使いこなすでしょう)。
しかし、道具を「作る」ことができる動物は極めて少数に限られます(有名なのは、木の枝で釣り竿を作り虫の幼虫を釣り上げるカレドニアガラスなど)。このような技能を持つフレンズはアメリカビーバーがいますが、かばんちゃんの紙飛行機やソリと決定的に異なるのはそこに「創造」が介入していないことです。これをこうすればこういうことができる、という手順や完成像を0から考えて作り出せるのが、ヒトなのです。
ヒトの特徴としてはほかにも言語関係の能力が考えられますが、けものフレンズではクイズのときに多少触れられただけであまり取り上げられていませんね。
おそらくわかりやすく描写するのが難しかったのでしょう。