「応仁の乱」の本ヒットに学ぶマーケティング

「応仁の乱」といえば、学校の歴史の時間に誰もが一度は習ったことがあるはずです。「戦国時代の始まりとなった大乱」として有名ですが、敵対する勢力がコロコロと入れ替わるなどの理由から「わかりにくい」事件として歴史好きの中ではよく知られています。

実は、この「応仁の乱」について解説した本が20万部(2017年3月現在)という異例の大ヒットを記録しているのです。この背景にどのようなマーケティングの影響があるのか、分析してみたいと思います。

地味なテーマの本が何故大ヒットしたのか

問題の本は日本史学者である呉座勇一氏が出版した「応仁の乱(中央公論新書)」。2016年10月に発売されたこの本は、扱っているテーマがマイナーだということもあって「せいぜい2、3万部売れれば御の字だろう」と言われていたそうです。ところが、予想を遥かに上回るペースで売上を伸ばし、発売からわずか2ヶ月で7刷目に突入するという結果をもたらしました。

応仁の乱という比較的地味でわかりづらいテーマを扱っているにも関わらず、ここまで売上を伸ばしたのは何が原因だったのでしょうか?理由として考えられることは以下のとおりです。

意表をついた広告がネット上で話題に

中央公論新書が本作のPRのために使用した新聞広告がこちらです。

いかがでしょうか?わざと「地味すぎる大乱」などと本のテーマのネガティブな側面をクローズアップしています。こうしたPRの仕方がネット上で話題になり、多くの人々に本の存在を知らしめることができたのです。

広告がバズられ人気に拍車がかかる

ネット上で本の評判が拡散する際、重要な役割を果たしたのがSNSです。特に、「ネガティブすぎる新聞広告」がTwitter、まとめサイトなどで拡散したことはその後の売れ行きに大きく影響を与えたと考えられます。

とはいえ、広告についてバズった人々は必ずしも本の内容自体に興味があったわけではなかったはずです。おそらく「面白い広告があるぞ。ほかの人にも教えてあげよう」といったふうに、本の内容自体ではなく広告キャッチの面白さに引かれていたと推測できます。

本の内容が歴史好き読者に評価される

SNSのバズを通じて「応仁の乱」の本の存在は、多くの人に知れ渡りましたが、その中には当然「歴史に興味がある人」も多く含まれていたはずです。こうした、本来ターゲットであった読者に本の存在を知ってもらえたことは、その後の売れ行きに大きく影響を及ぼしたことでしょう。もちろん、「歴史にはあまり興味はないけど、なんだか面白そうだし買ってみようか」と考えた人も少なくなかったと思います。

現在、Amazonなどで本のレビューを見てみると、概ね肯定的な評価が多く見受けられます。そうなると、今度は「広告のバズ騒動」を知らない人の目にも本の存在が知られたことでしょう。このように、「応仁の乱」は複数の段階を経て徐々に評価が拡散し、売上を伸ばしていったと考えられます。

狙ってできるノウハウは少ないが、ケーススタディとしては面白い

今回の「応仁の乱」から学べるマーケティングのノウハウは以下ののとおりです。

  • 意表を突くネガティブなキャッチコピー
  • SNSを通じた「ネガティブなキャッチ」の拡散
  • バズの後に生じた、本の内容の評価

どんないいものであっても、存在を知ってもらえなければ売れることはありません。そして存在を知らせるための方法は何も「商品のいいところをPRする」だけではないということです。

SNSによるバズ(炎上)は、コントロールしたり自発的に起こすのはほぼ不可能です。また、今回の本のヒットにSNSが影響を及ぼしていることはほぼ間違いないのですが「具体的にどのくらいの影響があったのか?」を可視化するのも無理でしょう。そういったところは今後のマーケティング業界の課題だといえますが、「バズには大きな力がある」のはたしかです。

そして、たとえ「バズ」がおきても、商品自体の質が低ければやがて評価は落ちてしまいます。しっかり中身のあるものを作って、それが爆発的に広まることが理想的なマーケティングであるといえます。

今回のような事例は「ネガティブなキャッチコピーをつける」ということ以外、なかなか真似できるポイントは多くありません。しかし、こうした事例を知っておくことで「どんなマーケティングを行えば、どんな結果が起きる可能性があるのか」を予測することはかのうなはずです。常にアンテナを立てて、身の回りの出来事の背景にどんなマーケティングの影響が潜んでいるのか、注意深く観察してみましょう。今後のビジネスに生かせるヒントが眠っているかもしれませんよ?