2019年1月2日、NHK総合テレビにて「バーチャルのど自慢2019」が放送されました。人気のバーチャルYoutuberたちを集め、その歌唱力を競うという内容でしたが、2018年の流行語にも選出されたバーチャルYoutuberがついにNHKに進出を果たしたとしても話題を集めました。この記事では、本番組の内容を私の感想とともに振り返りたいと思います。
出演者と歌った楽曲一覧(歌唱順)
- ミライアカリ:学園天国
- 剣持刀也:HOT LIMIT
- ばあちゃる:男と女のラブゲーム
- にじさんじJK組(月ノ美兎・静凛・樋口楓):キューティーハニー
- 道明寺ここあ:愛をこめて花束を
- アメリカザリガニ:雪椿
- 富士葵:ラブ・イズ・オーヴァー
- 電脳少女シロ:Let It Go
- ときのそら:空色デイズ
- オシャレになりたい!ピーナッツくん ・甲賀流忍者ぽんぽこ:おどるポンポコリン
- バーチャルゴリラ:なごり雪
- YuNi:Precious
- HimeHina(鈴木ヒナ・田中ヒメ)ライオン
- キズナアイ(ゲスト):おもいで酒
- バーチャルグランドマザー小林幸子(ゲスト):千本桜
司会:バーチャル小田切千アナウンサー
ネットメディアと既存メディア、Vtuberと歌唱界の融合
私が「バーチャルのど自慢」の企画を見て最初に注目したのは、ゲストであるキズナアイさんと小林幸子さんの存在でした。
2人は今までにも他の企画・メディアなどでコラボを果たしており、キズナアイさんを「ネット・動画共有メディア」の、小林幸子さんを「テレビ等の既存メディア・演歌を含む音楽界」の象徴として捉えると、両者がNHKという大きな舞台でこのような共演を果たしたことには大きな意義があると思います。
キズナアイさんが小林幸子さんの楽曲である「おもいで酒」を歌い、小林幸子さんがボカロ楽曲の代名詞とも言える「千本桜」を歌ったことからも両者がそれぞれの属する界隈の交流を深め、盛り上げていこうとする意志を持っていると考えられるはずです。今回の「バーチャルのど自慢」自体も、そうした各界関係者の意向が働いて実現にこぎつけたと見るべきでしょう。
それぞれのVtuberが自分の持ち味をテレビでPR
番組は、最も知名度が高いであろうミライアカリさんの歌唱から始まりました。もちろん、単純な歌番組としてみても面白かったのですが、私は演者ひとり一人の歌唱を「バーチャルタレントとしてのNHKでの顔見せ・プレゼン」と解釈して見ていました。
たとえば、「歌ウマ」として知られる道明寺ここあさん、富士葵さん、ときのそらさん、YuNiさんなどはその歌唱力を遺憾なくPRしていましたし、HimeHinaの2人などはダンスを含めたステージパフォーマンスも印象に残りました。
剣持刀也さん、ばあちゃるさんら男性陣は歌ったあとのインタビューも合わせてコミカルな面を強調しており、エンタメタレントとしての側面をPRしているように映りました。
(ちなみに、剣持さんが音を外してしまったのは単純に「忙しくてしばらくカラオケに行く暇がなかったから」だと後に自身のライブ配信で語っています)
お笑い芸人のアメリカザリガニさんがバーチャルのタレントとして参加していることとも合わせて考えると、今後歌唱界だけでなくお笑い界とバーチャルYoutuberとがコラボレーションする機会も増えていくと考えられます。
そのときは、今回がそうであったように「お笑い芸人がAR・VR技術を使って新たな笑いに挑戦する」こともあるでしょうし、逆にエンタメ系Vtuberが「お笑い芸人のような幅広いタレント活動を求められる」展開も待っているでしょう。
月ノ美兎さん、樋口楓さん、静凛さんの3人はそれぞれがYoutubeのチャンネル登録者数10万人以上を抱えて大きな知名度を誇っているものの、キューティーハニーという親しみやすい選曲といい、後のインタビューで3人それぞれの個性をPRしようとしていた点といい、アイドルユニットのような売り込み方をしようとしているような印象を受けました。
実際は月ノ美兎さんの強烈なキャラクター性を始め、よりディープな個性を持っている3人ではありますが、そうしたわかりにくい部分よりも「テレビ的なわかりやすさを重視したPRを行った」と捉えるべきでしょう。
同様に、ピーナッツくん、ぽんぽこさんも「おどるポンポコリン」という世代を超えて親しみをもたれやすい選曲でした。この2人などは、Eテレの教育番組の出演者などとして使いやすいキャラクター性を持っているのではないかと思います。
MVPはバーチャルゴリラ
MVPに選ばれたのは、「なごり雪」を歌ったバーチャルゴリラさんでした。歌唱力が評価されたのは間違いありませんが、可愛らしい女性Vtuberが大半を占める中、男性しかも「ゴリラ」のVtuberが大賞を獲得するに至ったという点は「外見に束縛されずに活動できる」というVtuberの特性の為せる技と捉えることもできます。
参加したVtuberたちにとっては、自分たちの個性と存在感をアピールする良い機会になったと思いますが、同時に放送したNHKにとっては「Vtuberという新しい存在を今後も活用していく意志がある」という態度を示したこと、女性から男性、かわいい系からエンタメ系に至るまで個性豊かなVtuberに活躍の場を与えたことによって「Vtuberという存在の特性と界隈に対して十分理解している」という点をアピールすることができたのではないでしょうか。