戦国武将、毛利元就に学ぶマーケティング

毛利元就という戦国武将をご存じでしょうか?「3本の矢」の逸話で有名な中国地方の大名で、大河ドラマの題材にもなりました。弱小の地方領主として生まれながら、権謀術数を駆使して屈指の大大名に成り上がったことから、人気の高い武将です。今回は、そんな毛利元就のある逸話から、マーケティングのテクニックを学んでみましょう。

実はお酒を飲まなかった元就

毛利元就は、周囲の人々に対して「自分は下戸だ」と言っていたそうです。本当にお酒が飲めなかったかどうかは不明ですが、苦手にしていたのは間違いないでしょう。しかも、単に体に合わないから苦手、といった理由ではなく、お酒を飲まなくなった明確な原因があったのです。

元就は、父親を10歳のときになくしています。元就の父、弘元の死因は酒毒(いわゆるアルコール中毒)であったとされています。しかも、元就とお酒の因縁はそれだけではありません。父の死後、兄・興元も酒毒が原因でなくなってしまうのです。ここまでくると、普通の人間であれば「自分は絶対に酒は飲むまい」と決意しても不思議ではないでしょう。

飲めないお酒をあえて屋敷に常備させていた

このように、酒が飲めなかった元就ですが、自分の屋敷には常に餅と酒を常備させていました。もちろん、自分で飲むためではなく訪れた家臣に振る舞うためです。自邸を訪れた家臣と対面すると、元就はどれだけ身分の低いものであっても親しく接し、酒が飲めるものには酒を、そうでないものには餅を振る舞ったそうです。

このとき、酒が飲めるものに対しては「自分は下戸だが、酒はストレス発散にも役立つ良い飲み物だ(もちろん戦国時代にはそんな言葉ないので別の言い方ですが)」といい、酒が飲めないものには「酒は飲みすぎると体に良くないから、餅を食べろ」と勧めたといいます。

冷徹な謀略で有名な毛利元就ですが、このように家臣に対して慈悲深い心も併せ持っていたのです。

相手の考えが自分と違っても否定してはいけない

今回の元就の逸話から我々が学ぶべきことは、まず「コミュニケーションする相手の考えを否定してはいけない」ということでしょう。元就にとって、お酒は「親と兄の仇」ともいえるものでした。本音を言えば臭いを嗅いだり、酔っ払った人を見たりするのも嫌だったに違いありません。しかし、それでも多くの人がお酒を好んでいることは事実です。そこで自分の考えを押し付けず、お酒を好む人の前では「お前の言うとおり、酒はいいものだ」と言葉を合わせていたのです。

このテクニックは、実は営業ではよく使われます。私の知り合いの営業マンも「営業アプローチのときは、否定語は使っていはいけない。相手とのコミュニケーションを拒絶していると受け取られる」と語っていました。といっても、相手の言うことをすべてOKしろ、というのではありません。否定語を使わずに、別の言い方で言い換えればいいのです。たとえば元就も「自分は下戸だが、酒はいいものだ」といっています。この言い方なら、相手の考えを否定したことにはなりません。

元就はさらに、お酒を好む人、好まない人それぞれに対して、お酒と餅という2種類の報い方を用意していました。このように、「相手の考えを否定せず、かつ相手が求めている回答をタイムリーに提示する」という方法はマーケティングにおいても有効です。もしも今、自分が抱えている課題に対して思い当たる節があるようなら、実践する方法を考えてみて下さい。

「吉田郡山合戦は籠城戦ではなかった?」「毛利は陶晴賢の主殺しに荷担していた?」「厳島“囮の城作戦”はなかった?」などの謎を解き、元就「勝利の哲学」を徹底分析。